一緒にNIE

「一緒にNIE」は静岡新聞の「教育」欄で2011年4月にスタートし、2015年4月から「月刊 一緒にNIE」で連載しています。 日本新聞協会認定の県内のNIEアドバイザーたちが教諭や保護者に NIEをやさしく解説し、授業活用のヒントを示しています。NIEへの理解を広げるため、ご活用ください。

第30回NIE全国大会 時代を読み解き 命を守る 困難乗り越える力、新聞から

2025年09月07日(日)付 朝刊


■第30回NIE全国大会 時代を読み解き 命を守る 困難乗り越える力、新聞から 

 

  教育に新聞をどのように活用できるかを考える「第30回NIE全国大会」(日本新聞協会主催、神戸新聞社など主管)が7月31日~8月1日、神戸市で開かれた。スローガンは「時代を読み解き、いのちを守るNIE」で、約1800人の教育・新聞関係者が集まった。

 1日目の全体会では、大会実行委員会の竹内弘明委員長が基調提案として、真偽不確かな情報が社会にあふれ、インターネット上の悪口や中傷で人の命が奪われることもあると指摘。「正確な情報を取捨選択し活用する能力を身に付け、インターネットとうまく付き合うために、新聞やNIE活動は有効だ」と述べた。
 パネル討議には、日本新聞協会NIEアドバイザーで兵庫県西宮市立浜脇中学校の渋谷仁崇主幹教諭らが参加した。高校生だった1995年、阪神大震災で被災した渋谷教諭は、何もできずもどかしい思いをしたという。そうした自身の経験をもとに、新聞を通じて防災や減災を考えてもらう授業を行ってきた。「これからの災害に向け、生徒が自分事として考えられるよう取り組みたい」と話した。
 司会を務めたジャーナリストの池上彰さんは「伝える側にとって一番大事なことは、情報を正確に早く伝えることだ」と強調。その上で、記録だけでなく戦争や大災害を体験した人たちの記憶を次の世代に伝承するのは、地元の新聞の役目だと締めくくった。
 記念講演では、作家の小川洋子さんが登壇し、交流サイト(SNS)の画面に表示される言葉は、相手が発した言葉の本当の意味を伝えてくれているとは限らないと述べた。一方で、「情報は受け取った側の人間性や人格が問われる。自分に関係ないとすぐに切り捨てるのではなく、受け取る側の心の余裕、包容力をぜひ若い人に育ててほしい」と訴え、「その力を養うには文学を勧めたい」と力を込めた。
 2日目は公開授業や実践発表が行われ、熱心に意見が交わされた。
 来年の全国大会は広島市で開かれる予定。
 (共同)

 <想像力を育むことが重要 小川洋子さん記念講演> 


 小川洋子さんの講演要旨は次の通り。


 自分とは価値観が違う他者のことを想像し、言葉でつながれるのは、人間だけ。だからこそ想像力を育むことが重要だ。
 例えば人間には、誰かが「死にたい」と言ったとしても、心の中では「死にたくない」と思っていることを感じ取る力がある。交流サイト(SNS)は、小説や新聞と違い、言葉を文字通りにしか受け取れない。言葉の向こう側を感じることができないと思う。
 人間の心に届きやすいのは、五感に直接訴えかけてくる物だ。紙の感触やインクのにおい...。かつて「源氏物語」の時代は、文字を書こうとすれば墨をする運動から始まった。デジタルの時代では、肉体が置いてけぼりにされている気がする。
 今の自分が関心がない世界の方が何千倍も広く、それを知れば大事なことと出合えるかもしれない。その意味で、さまざまな情報が視界に全部収まる新聞は魅力的だ。
 (共同)
 

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      小川洋子さん 

 


 <スクラップで主体的な学び実現 兵庫の中学校、全校生徒が取り組み> 


 兵庫県西宮市立浜脇中学校は、全校生徒約800人が各自で「NIEノート」(記事スクラップ)を制作している。公開授業では、3年生の生徒がそれぞれ切り抜いてきたニュースについて発表し合った。
 ある男子生徒は、ロシア・カムチャツカ半島付近を震源とする地震を巡り、総務省が情報の信ぴょう性に注意を呼びかけたという記事に注目。インターネット上で自身が住む地域に「津波警報が出ている」と目にしたが、実際は津波注意報で、「善意の拡散がこうしたデマを生む。メディアリテラシーは、自分の命を守るために大切だと感じた」と述べた。
 発表が一巡すると、渋谷仁崇主幹教諭は、新たに配布した新聞紙から「熱いものを探してみよう」と提案。生徒たちが熱中症対策や地球温暖化に関する記事を挙げたのを確認した上で、「こんなふうに社会って全部つながっている。さらに新聞には、命を守るアイデアもたくさん載っている」と話し、「熱中症保険」などの取り組みを紹介した。
 生徒から「NIEの授業がなかったらニュースに興味がなかった。最近は『このニュース、授業で考えたことあるな』と思う機会が増えた」などの感想が出た。
 (共同)

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第30回NIE全国大会で開かれたパネル討議=7月、神戸市
 


 <防災をテーマに本県3校が展示> 


 分科会会場では、全国の学校や団体のNIE実践を発表するポスターが展示された。静岡県からは「防災」をテーマに3校が参加した。常葉大常葉高は本紙を通じ能登の中学生との交流を機に考えた「女性専用避難所」についてまとめた。NIE実践指定校の御前崎中は南海トラフ巨大地震に備えた記事学習や防災新聞発行を紹介、同じく桐陽高は2011年から福島県で行う被災地研修で復興支援や地域交流により災害時に役立つ人づくりを報告した。
 (静新) 

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「防災」をテーマにまとめた県内3校のポスター=8月1日、神戸市の甲南大