7月5日“大地震”説など様々な仮説がなぜ支持されるのか「地震学の実力も含めて伝えないと“不信感”に」社会への情報発信と受け止められ方

「科学的、防災的には無意味であろうとも地震予知仮説を熱狂的に支持する人々がいる。その意味を考察したい」関西大学社会安全学部の林能成教授はこう切り出します。5月26日、千葉市で開催されていた日本地球惑星科学連合の学会大会で、地震予知仮説をめぐる科学的検証と、それを取り巻く社会の受け止め方について鋭い分析を語りました。

地震予知には、多くの人の興味があり、予言のようなものから、科学的に意味があるもの、一部の人が地震予知と勘違いしているようなものなど、様々な“説”が存在します。林教授はこの中で「熱移送説」と呼ばれている仮説について、地震を誘発するのかどうか、検証を試みました。

地震予知仮説の実際と仮説へのこだわり

「熱移送説」とは、地球内部のマントルからの水平方向の「熱」の移動によって、地震および噴火が起こるという仮説です。「マグニチュード5.5以上の深発地震が1か月以内に5個以上連続して発生すると、環太平洋地域で1年以内にM7を超える地震が発生する」と言われるようなものだといいます。

そこで林教授は、2000年から2020年までの21年分の地震データを使って、この仮説を検証しました。その結果、地震の発生間隔に影響を与えることはないことが分かったとしました。特に、この仮説は、警報期間が1年間と長いことから「環太平洋地域ではM7以上の地震は1年間に平均1個以上発生するため、ある意味当たって当然のもの」と説明します。

興味深いのは、この仮説を提唱する人たちが「仮説」という言葉を多用し、こだわりを持っている点だと言います。林教授は、今では統一的な解釈になっている「プレートテクトニクス」が過去に「仮説」であった時代に「正しい理論だとするのは公正さを欠く」などと批判する声があったことに触れ、すべて「仮説」として、議論の対象として投げ込む姿勢と共通すると述べました。

国の地震対策への“不信感”「南海トラフ地震臨時情報」も

科学的根拠に乏しい仮説にも熱心な支持者が存在します。「熱移送説」については「プレート説に変わる新しい地震発生メカニズム」と評価したり、「地震学者からプレート説に代わる新たな学説を生み出そうとする動きはほとんどありません」などと批判したりする声もあるといいます。

こうした現象について、林教授は「国の地震組織や地震対策への不信感が背景にあり、地震予知への期待感がいまだに残っているのではないか」と分析します。例えば、2024年8月に初めて発表された「南海トラフ地震臨時情報」については、情報の質や対応の割には、妙に厳格であったり、生真面目な人の期待に応えられていないことがあるといいます。「国の災害対策にある建前感やごまかし感への不満が、身近にあった反体制的な仮説に過剰な期待を寄せてしまう結果になっている」と指摘しました。

7月5日“大地震”説は「占いを信じて行動するのと同じ」

林教授は、学会での発表後、記者の質問に対し「地震学が過剰に期待を持たせているところがあり、それを分かっていない人が南海トラフ地震臨時情報の発表のようなものを見ると、期待を裏切られたと感じ、頼れるものを探したくなる」と答えました。一方で「既存の学術がダメだと思った時に、何かに飛びつくのではなく、それ自体も疑いながら探索していかないと、本当の意味で防災に役立つ地震学にはならない」と指摘しました。臨時情報が発表される際の仕組みについても、防災対応の準備に時間がかかることなど、国は、正直に話をしていかないと誤解を生むことになると説明しました。

また、SNSなどで話題になっている“7月5日に大地震が起きる”と“予言”する漫画について質問すると「偶然当たる可能性はあるし、日本に住んでいる限り、地震は何よりもリスクが大きいので、過剰に捉える人がいるのは無理もないこと」と答えた上で「ほとんど起こらないことを根拠に行動を決めるのは、ある種の占いを信じて行動を決めるのと同じ」と指摘し、冷静に判断すべきだと注意を促しました。

私たちは科学的検証を重視しつつも、なぜ人々が様々な仮説に魅力を感じるのか、その心理的背景にも目を向け、地震学の実力や限界を正しく理解していく必要があります。

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