静岡県のソウルフード「のっぽパン」が“生産中止”の過去!? 復活までの道のりとは

のっぽパンの過去について話す冨田さん=3月、沼津市 全国各地に存在する「ご当地パン」。静岡県を代表するソウルフードの一つ「のっぽパン」は県東部を中心に半世紀近く愛され続けてきた。最近では、沼津市が舞台の人気アニメ「ラブライブ!サンシャイン!!」とのコラボや、専門店オープンなど、SNSで話題に上ることも多い。そんなのっぽパンには、過去に生産中止に陥った時期があった。
 一体何があったのか。当時を知る現生産会社「バンデロール」社員の冨田正昭さん(52)に話を聞いた。

地元民なら誰もが知る商品
 1978年に沼津市で生産が始まったのっぽパン。特徴的な寝ぼけ眼のキリンが描かれたパッケージに、長さ34センチの棒状のパンが入る。1番人気の定番「クリーム」を始め、これまでに200種類以上が誕生し、子どもの菓子などとして地域の日常に溶け込んできた。
 静岡県東部を中心にスーパーや駅構内などで販売され、「帰省の際に、地元のお土産として大量に購入していく客も多い」という。
 そんな地元民なら誰もが知る商品は、熱いファンらによって支えられてきた。

2007年に生産停止 工場にファン駆けつける
 誕生から約30年。生産停止は突然やってきた。2007年7月、工場の老朽化や事業再編などを理由に、沼津市片浜にあった当時の製造販売元「エヌビーエス」本社工場では、のっぽパンの最終出荷日を迎えていた。工場前には、別れを惜しむファンら約20人が詰めかけ、横断幕を手に「やめないで」と大声で訴えていた。
 当時、エヌビーエスの従業員だった冨田さんは、その様子を本社工場の窓から目の当たりにし、自ら生産していた商品が愛されていたことを再認識した。

生産停止から9カ月後のスピード復活
 生産中止後、市民から500件を上回る復活の要望を受けた。「のっぽを新しい形で世に出せないか」。同じ志を持つ従業員ら10人ほどが集まり、復活プロジェクトチームを発足した。
 出店の機会にも恵まれ、生産停止から約9カ月後には、グループ会社「バンデロール」が生産販売を引き継ぐ形で、JR静岡駅構内の専門店で復活した。当時、新聞・テレビなどでも取り上げられ、静岡新聞は夕刊1面に復活を報じた。
 ただ、200人近くいた従業員は20人程度まで激減するなど、完全復活とは言えない状況だった。

失敗生かして戦略シフト
 幸いにも、現在も営業担当として、のっぽパンに携わっている冨田さん。当時の失敗を生かして、大量に商品を届けるだけでなく、ブランド向上を図り「付加価値を高める販売戦略にシフトしてきた」と明かす。
 2013年7月発売の函南町の牛乳を使った「丹那牛乳のっぽ」は予想以上に人気を集め、定番化した。またアニメ「ラブライブ!サンシャイン!!」の作中に登場したことを機に、これまで計6回コラボし、SNSを通じて全国で話題になった。2023年10月には、沼津市に工場直売所がオープンし、限定品を求め、観光客などが訪れているという。
 材料の配合や作り方は時代に合わせて少しずつ変えているが「販売当初のコンセプトからは変わっていない」と冨田さん。若い世代への普及など日々奮闘する。
   ▶キリンの「アンニュイな感じが良い!」 のっぽファンに聞いた人気の理由

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