<サッカージャーナリスト・河治良幸>
9月23日のJ1第31節、清水エスパルスはホームに浦和レッズを迎え、0-0のスコアレスドローに終わった。スタートから清水が主導権を握り、サイドから背後を狙う形で何度も得点チャンスを作ったが、浦和が守備の形を変えた前半25分ごろから浦和に押し込まれる時間が増え、そこから後半終了まで、ほぼ浦和ペースで進行した。
浦和のシュートは24本。そのうちペナルティエリア内のゴールエリア幅から15本を打たれえて、枠内にもは9本飛ばされたが、GK梅田透吾の獅子奮迅の活躍や守備陣の体を張ったブロック、さらにはアイスタのポストに救われるシーンもあり、無失点で試合を終えることができた。
一方で後半もボランチのマテウス・ブエノを起点に、乾貴士のドリブル突破などから決定機を迎えたシーンもあったが、守備で押し込まれる分、ゴールからの距離が遠く、連続性のある攻撃はできなかった。
秋葉忠宏監督は「結果的には評価に値するゲームかもしれないが、監督としては葛藤を感じる試合だった」と率直な見解を語った。アウエーで勝利した前節の京都サンガ戦を含めて、ここ5試合で失点1は立派な結果だが、指揮官が掲げる「前から圧力を掛け、全体をコンパクトに保つ攻撃的フットボール」とは異なる試合展開となっていることに歯痒さを覚えているようだ。
清水の強みは、相手にボールを奪われた際に即座にプレッシャーをかけ、ボールを奪い返しにいくアグレッシブな切り替えにある。それがうまくいかなくても、素早く全体が帰陣して5バックを構えることで、相手の攻撃をしのぐことが可能だ。しかし浦和戦では、守備に耐えることはできても、その後に全体を押し上げる圧力が不足し、攻撃が単発になりやすいという課題が表れた。
浦和戦の立ち上がりなど、良い時間帯には山原怜音や北爪健吾など、左右のウイングバックを生かした幅広い攻撃が可能になる。それに応じて、1トップの北川航也やシャドーの小塚和季がワイドに流れてチャンスを作り、右シャドーの松崎快がバイタルエリアでフィニッシュを狙うような、流動的なシーンも作りやすくなる。そういう良い時間帯にゴールを仕留めることも課題だが、浦和戦では良い時間があまりにも短く、少なかった。監督も「前に出るパワーがなく、奪ってもゴールから遠く、チャンスが作れない」と指摘しており、守備に力を割くことで攻撃の質が低下する構造が浮き彫りになった。

プレッシング面でも課題は明確だ。秋葉監督は「勇気を持って前からいくことが必要」と主張するが、実際には守備的布陣が目立ち、前線からの圧力はほとんど発揮されなかった。もちろん京都戦から移動を挟んで中2日という厳しいスケジュールで、3バックが同じメンバーだったことは、ラインを持続的に上げにくくしたことは確かだろう。前線の松崎も「感覚としてはハマっていたんですけど、後ろの選手たちが連戦だったこともあって、ラインが上がらず、ウイングバックを押し出せない場面もありました」と振り返る。
それに加えて、浦和が前線に元スウェーデン代表の大型FWイサーク・キーセ・テリンを初めてスタメン起用し、0-1で敗れた前節の鹿島アントラーズ戦より、明らかにロングボールを多用してきたことで、想定外の対応を強いられたことも大きかった。
松崎は「西川選手が今日はすごくシンプルに蹴ってきたので、そこで少し間延びさせられた感があります。イサーク選手も強かったので、そのあたりも影響したかな。蹴られたあとのセカンドボールに安居選手が速く反応して、回収されて押し込まれて、戻らなきゃいけないシーンが多かった」と認める。
そうした状況でも、慌てることなくウイングバックが最終ラインを埋めて、5-4-1のような形で守り切れることは清水の強みになっている。ただ、そこに頼りすぎると、J1の強豪を相手にロースコアの戦いに持ち込んで勝ち点1、あわよくばカウンターやセットプレーからワンチャンスをものにして勝ち点3という戦いに安住してしまう恐れがある。
もちろんJ2から2年ぶりに復帰して1シーズン目で、31試合で勝ち点40に乗せたことは一定の評価ができる。しかしながら、秋葉監督は「虎の子の1点を守るフットボールでは、個人もチームも成長できない」と強調する。
今シーズンの現実的な目標は残留を確保した上で、トップハーフ(10位以内)でフィニッシュすることにあるが、少なくとも意識やビジョンのところで、優勝争いやACLの権利を取るためのトップ3を目指していける前向きなものを残りの試合で明確に出していけるのか。来年は半年の短期リーグを経て、秋春制に移行するが、そこで躍進していくための基準設計はすでにスタートしていると言える。
この試合のスタッツを見ると、清水はボール保持率43%、パス成功率81.7%とそれほど悪い訳ではない。しかし、浦和に比べると低い位置でのパス回しが多くなってしまったこと、また86.6%のパス成功率を許しているように、高い位置でボールを奪いにいくシーンが少なく、リトリートに頼りすぎてしまったことで、相手に長い攻撃時間を与えてしまった。
強度の高いJ1の戦いの中で、3バックに守備の安定を見出したことは、間違いなく清水が厳しい戦いで勝ち点を拾える支えになっている。秋葉監督もそれを承知で、勇気を持った戦いを求めたいのだろう。
明確な課題を整理すると、以下の通りになる。
攻守のバランス:リートリート優先の守備が攻撃力を削ぎ、攻撃時間が短く、基本位置も低くなる。
前からのプレッシング:勇気を持って前に出る意識が継続できず、秋葉監督の狙いが再現されない。
主導権を奪い返す力の不足:スタートで優勢に入れても、相手に修正されると、それ以降は支配力を回復できない。
攻撃の偶発性・単発性:優勢時のウイングバックや個人の仕掛けは有効だが、押し込まれると攻撃が個人頼みで、単発になってしまう。
次戦のアウェー神戸戦に向け、「選手と意見交換をしながら、勇気を持って攻める姿勢を取り戻し、攻守両面でチームとして成長できるフットボールを展開したい」と秋葉監督。この時点で勝ち点40を獲得できたことで、数字上はJ1残留が確定した訳ではないが、トップハーフを目指しながらも、あまり負けのリスクを気にせず、秋葉監督が本来目指すフットボールを目指せる。もちろん、その中で課題は多く出てくるはずだが、それこそが成長の糧となるのではないか。現在2位で、3連覇を目指す神戸との試合は格好のバロメーターになる。
<河治良幸>
タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。 サッカー専門新聞「エル・ゴラッソ」の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。著書は「ジャイアントキリングはキセキじゃない」(東邦出版)「勝負のスイッチ」(白夜書房)「解説者のコトバを聴けば サッカーの観かたが解る」(内外出版社)など。