静岡県内の伝統野菜や在来作物 継承への模索と課題
静岡県内には地域の豊かな自然の特性を生かし、長らく栽培されている伝統野菜や在来作物があります。しかし、生産者の高齢化による担い手不足、加工品製造のコスト負担増加などで、その継承が岐路に立たされています。伝統野菜や在来作物が紡いできた地域の歴史や文化を発信しようと、活用や加工品製造存続を模索する動きをまとめました。
富士宮「村山ニンジン」 味と香りの強さ、イタリアンで認知度向上へ
富士宮市村山地区で長らく栽培されている「村山ニンジン」が、伊豆市土肥のイタリアンレストランのメニューに期間限定で加わった。JAふじ伊豆によると、村山ニンジンが富士宮市外の飲食店で取り上げられるのは初めて。担い手不足解決の糸口を探す農家らは認知度向上に期待を寄せる。
2023年12月からポタージュなどに仕立てていて、シェフの大関淳士さん(47)は「最近の品種にはない、ニンジン臭さがすごく良い」と話す。メインの肉料理の付け合わせで出す際は、1本まるごとオーブンで2~3時間火入れして甘みを引き出す。
同JAによると、生産者は1950年代をピークに高齢化などの影響で数軒まで減った。2012年から復活プロジェクトが始まり、10軒ほどに増えたものの生産量は依然少なく、流通は各農家の直売所かファーマーズマーケット「う宮~な」に限られる。
村山ニンジンは長いもので1メートルほどに成長し、香りと味が濃い特徴がある。栽培を60年以上続ける鈴木昌知さん(82)は「どんな料理にも対応できる品種」と自負し、「味を知ってもらい、伝統野菜存続に向けた希望を見いだしたい」と話した。
〈2024.01.27 あなたの静岡新聞〉
沼津の「大中寺いも」 焼酎やジンの原料に活用、PRに力
クラフトジン製造の沼津蒸留所(沼津市)は(2023年3月)11日、同市原産の伝統野菜、大中寺いもの焼酎を使ったジン「Muso(むそう)」を数量限定で発売する。原料や製造所など「オール沼津産のジン」としてPRし、大中寺いもの知名度向上を目指す。
香りづけには寺の境内で取れるカヤやクスの実を使用。グレープフルーツに似た芳香があり、トニック割りやかんきつを絞ったソーダ割りで楽しめる。生産者の井出勝基さんは「出荷できない二等品を焼酎に活用していたのでありがたい」と期待する。下山さんは「ジンを通じて、大中寺いもの歴史や焼酎にまつわる地域性の高いストーリーを伝えたい」とした。
500ミリリットル入り、税込6500円。同蒸留所や通販、市内酒店で販売する。
〈2023.03.07 あなたの静岡新聞〉
オクシズ在来作物のソバ、キビ… 個性強いスイーツ、学生が考案
静岡県立農林環境専門職大(磐田市)の学生が、静岡市の中山間地「オクシズ」の在来作物であるソバやキビなどを活用したスイーツ作りに取り組んでいる。このほど、プロの調理人による試作品が完成し、試食会を同市駿河区で開いた。
試食会には、同大の丹羽康夫准教授と3年生4人が参加した。試作を担当した同店の小泉江理子さん(49)から、同市葵区井川地区の在来種ソバ、キビ、アワ、赤石豆を使った「そばのスノーボール」「きびのシフォンケーキ」「雑穀のシートブレット」「赤石豆のビスコッティ」の4品について説明を受けた。
「どれも個性の強い素材なので、良さを生かす調理法を考えた」と小泉さん。ビスコッティを提案していた同大の学生(21)は「豆の風味も強く柔らかい食感。とてもおいしい」と喜んだ。
「すぐに提供できそうなものもある。早速、メニューに加えられたら」と鈴木オーナー。丹羽准教授は「在来作物が受け継いできた栽培地の歴史や文化を残さなければいけないことを学生たちに知ってほしかった」と取り組みの意義を語った。
〈2023.02.14 あなたの静岡新聞〉
北駿地域の「水かけ菜」、漬物生産が岐路に 法改正で施設改修必須
富士山の伏流水で生産される北駿地域の特産品、水かけ菜漬けの生産が岐路に立たされている。食品衛生法の改正で漬物製造業が許可制となり、許可を得るには施設整備が求められるため。個人で生産を続けてきた農家がコスト負担を敬遠して生産をやめる懸念が高まっている。
水かけ菜は米の裏作。生産者の多くは米農家で、1~3月に収穫し、農作業小屋の一角で漬け込み作業をしている。御殿場小山水かけ菜生産組合の鈴木平作組合長(72)によると、組合員37人のほとんどが現在の設備のままでは許可を受けられないという。
施設整備にかかる費用は数十万円から100万円以上になる可能性も。高齢化や後継者不在といった課題を抱えている生産者の中には、法改正をきっかけに廃業する考えの人もいるという。
一般的には生産者が共同で設備を整備する手もある。だが、水かけ菜漬けは生葉をすぐに漬け込む必要があり、設備利用が特定の時期に集中するため、鈴木組合長は「自分で設備を用意するしかない」とこぼす。許可権者の御殿場保健所は「どうすれば基準を満たすか相談を受ける」としている。
「明治時代から続く伝統の特産品を作り続けたい」と鈴木組合長。改正法に対する理解を深め、生産者同士で情報共有しながら継承の道を探るという。 特産品維持へ 知恵絞る地元 JAふじ伊豆御殿場地区本部によると、御殿場市と小山町の水かけ菜は、米とトウモロコシに続く地元における出荷量第3位の農産物。JAや自治体は特産品の維持に向けて知恵を絞っている。
JAは4月に御殿場保健所の職員を招き、営業許可を得るための施設整備に関する生産者向け講習会を開く。生産継続の意向調査も行う。調査結果を踏まえ、JA施設の貸し出しなどの具体的な対応を検討する。
同様の問題を抱える「いぶりがっこ」産地の秋田県と同県の市町村は、漬物を製造する農家の施設改修や機械購入費を補助する制度を設けた。北駿地域の生産者からも期待する声が上がる。御殿場市農政課は補助制度導入を含め、小山町やJAと連携して対策を検討するとしている。
〈2023.03.16 あなたの静岡新聞〉