もしかして隠れ高血糖かも!? 食後の血糖値が高い「食後高血糖」とは?

食後の血糖値だけ高い「食後高血糖」

健康診断で血糖値の数値が正常な人でも「血糖値の異常」が潜んでいる可能性があるんだそうです。なかでも最近、食後の血糖値が高い「食後高血糖」が注目されています。今回は、食後高血糖や血糖値について、北里研究所病院・糖尿病センター長で、食・楽・健康協会代表理事の山田悟さんに、SBSアナウンサー牧野克彦がお話をうかがいました。
※12月6日にSBSラジオIPPOで放送したものを編集しています。
食後高血糖について
牧野:今、血糖値のなかでも食後高血糖が注目されているそうですが、それはどのような状態なんでしょうか?

山田:どんな人でも食後に血糖値は若干上昇します。ただ、食後1〜2時間で血糖値が140mg/dl以上になりますと、上昇しすぎと判断されます。これが食後高血糖と呼ばれる状態です。

牧野:私たちが今まで言ってきた高血糖というのは、空腹時の高血糖なんですよね。

山田:おっしゃる通りです。健康診断では胃の検査やお腹の検査もあるので、どうしても空腹時の採血しかできません。その意味で、空腹時の血糖値が正常なのに食後だけ高血糖という、いわゆる隠れ高血糖が起こりえるのです。

隠れ高血糖も、ちゃんとチェックしておいた方がいい?

山田:そうですね。空腹時の血糖値が異常になってくるのは、糖尿病の発症からからさかのぼること1~2年前、もしくは2~3年前と考えられています。ところが食後の高血糖、隠れ高血糖は、糖尿病の発症からからさかのぼること10年以上前から発症しています。空腹時の血糖値は正常で食後の血糖値だけ異常という状況は、単に糖尿病の手前というだけではなく、すでにこの時点から動脈硬化症や認知機能の低下といった、さまざま問題が起こり始めている可能性があるんです。

牧野:食後高血糖を早めに自覚できれば、10年後の糖尿病に対して対策を打ちやすいんですよね。

山田:その通りです。そして、糖尿病の発症のみならず、動脈硬化症や認知症の発症予防にも繋がることが期待されます。

食後高血糖、体にどんな悪影響が?

山田:動脈硬化症や認知機能の低下といえば、いわゆる老化現象そのものでもあります。血糖の上下動、乱高下が老化反応を引き起こしているのではないかと考えられています。その意味では、食後高血糖を是正させることは、ある種のアンチエイジングになると考えられると思います。

牧野:ただ、食後高血糖は測るのが難しそうですね。

山田:確かに健康診断では一般的に食後の血糖値は測りません。でもご紹介する3つの方法で食後の血糖値をチェックすることが可能です。

食後の血糖値を測る3つの方法

調剤薬局の検体測定室

山田:まずひとつめは、検体測定室が併設されている調剤薬局に行き自分で血糖値を測ること。だいたい500円程度でできます。ごはんの食べ始めから1時間後くらいに行ってください。

自己血糖測定器の購入

山田:調剤薬局で高度管理医療機器販売資格を有しているところでは、自己血糖測定器を販売しています。高度管理医療機器は宣伝が許されていないので、大っぴらにこんな器械がありますよということはうたっていません。

牧野:おいくらくらいするのですか?

山田:1万円程度、血圧測定器と同じくらいの値段です。

牧野:それだと、1家に1台あるといいですよね。

山田:ご家族誰でも血糖値を調べることができます。

健康診断でのオプション

山田:3つ目は、人間ドックなどのオプションで追加料金を払いブドウ糖負荷試験を受けることです。75gのぶどう糖を溶かしてある水を一気に飲んで、2〜3時間かけて何回か採血してもらうという検査です。ブドウ糖負荷試験を受けると、血糖値以外にインスリンという血糖値を下げるためのホルモンも同時に測定できるので、将来的な糖尿病のなりやすさの予測なども含めて様々な情報を得ることができます。

​牧野:測定する日の食事によって、数値がだいぶ変わりそうな気もするのですが……。

山田:検体測定室に行く日の食事を普段よりも軽くしてしまうと「単にその日だけよかった、普段は食後の高血糖があるのに」となりかねません。できるかぎり普段通りの食事で行く方がいいですよ。

あるいは、日本人は1食あたりで90~100gの糖質を食べているので、おにぎり2個と野菜ジュース1本をお昼にとり、その後1時間後くらいに検体測定室へ行くと、食後の血糖値を測るのに妥当になるかと思います。

食後高血糖を防ぐ方法

糖質制限食

牧野:調べるのも大事ですが、普段の生活から食後高血糖を防ぐ方法はありますか?

山田:なんといっても食後高血糖を防ぐ、あるいは是正するための方法として重要になるのが糖質制限食です。糖質というのは炭水化物から食物繊維を除いた部分のことです。糖質制限食でイメージしにくければ、炭水化物を制限すればいいと考えてください。

炭水化物の多い食材としては、お米、パン、おそばを含めた麺類、お芋やかぼちゃといった炊いてほっこりする野菜、果物、お菓子、ジュースなどがあります。これらを普段の摂取量の3分の1くらいに減らす。その一方で、たんぱく質、脂質、つまり、おかずはしっかり食べるのが、糖質制限食のイメージになります。カロリーの制限はないので、おなか一杯食べてください。

牧野:お肉の脂でもいいんですか?

山田:20世紀には、脂質を食べる量が増えるとともに糖尿病の患者が増えたというデータが出ていました。しかし、21世紀になってから日本人が脂質の摂取を減らしたのに、さらに加速度的に糖尿病患者が増えたというデータが出ています。実は、脂質の摂取は糖尿病患者を増やさないのです。

さらに、21世紀になり、動物性の脂の摂取を制限する介入試験をやったら、もともと心臓病のある人では、心臓病の発症リスクがさらに増えたというデータも出てきました。お肉の脂も含めて脂質を控えることで、糖尿病や高脂血症や動脈硬化症が予防できるという20世紀の概念は間違いだったと言えます。

牧野:いつのまにか、常識が変わっていたんですね!

山田:2015年の米国の食事摂取基準では、脂質を控えることには、何ら健康上のベネフィットがないと書かれています。

運動

牧野:あと運動などはいかがでしょうか?

山田:食べてすぐに散歩などの運動をすると、食後の血糖値を是正しやすくなります。でも一方で、なかなか食後に運動できない人や、わき腹が痛くなっていやだなという人も多いと思います。そういう人は普段から運動習慣をもつことで、食後に血糖値が上がったときに、筋肉で糖を取り込む能力が高まります。ですので、食後高血糖を是正するには、運動は食後がベストですが、それ以外のときでも運動していることは、食後高血糖の是正に有効です。

牧野:特に高校生やアスリートなどは、体を大きくするために一日何食も炭水化物を食べることがあると思いますが、中長期的にみると体にあまりくないんですか?

山田:食後高血糖になっていない人は、食べたエネルギーがちゃんと取り込まれているので、悪いことじゃないと思います。一方で、サッカーの長友佑都選手に食事のアドバイスをしているのですが、彼ほどのアスリートであっても食後高血糖が起こっていました。

日本人は、もともと食後高血糖になりやすい民族です。食後高血糖のあるアスリートの場合は、まずエネルギーをしっかり食べていればちゃんと体は育ち、運動もできるので、たんぱく質を食べて筋肉にまわし、脂質も摂ってエネルギー源にし、糖質を控えて食後高血糖を予防します。これができれば、糖質制限をしていても、十分にパフォーマンスは維持・向上できます。

なので、青少年には必ずしも糖質とか炭水化物とか脂質にこだわらず、まずはエネルギーをしっかり食べる!筋肉をつけるためにたんぱく質もしっかり食べる!けれども食後高血糖は起こさない!という意識を持っていただきたいです。

食べる順番

​牧野:食後の血糖値を急に上げないために、最初に野菜やヨーグルトを食べるなど、食べる順序は大事でしょうか?

山田:はい、食物繊維、たんぱく質、脂質、こういったものはすべて、血糖上昇にブレーキをかけてくれるインクレチンというホルモンを出してくれます。糖質を食べるときには、先に食物繊維やたんぱく質、脂質をしっかり食べておいて、20分くらいしてから糖質に入るという食べ方が非常に重要です。ただ、ヨーグルトに関しては、ものによっては最初から砂糖が入っている高糖質なものもあるので、ご注意ください。

牧野:野菜を食べ始めて、20分くらいしてから主食を食べるのが本当は理想なのですか?

山田:理想かどうかは別にして間違っていません。ただ、野菜、肉、魚、大豆製品に関しては、順番が本当に野菜が先頭である必要があるかは分かっていません。同時進行であってもよいだろうと思われます。実際問題としては、食物繊維もたんぱくも脂質も、全部血糖上昇のブレーキ役になりますので、糖質を最後にまわす、すなわちカーボラストが大事な要素だと思います。

牧野:例えば和食だと、ひと口目はみそ汁、ふた口目はごはんと行きがちですが、血糖値のことだけを考えると、本来は、ごはんはもうちょっと後の方がいいですかね?

山田:そうですね。考えてみると、懐石料理などでは、先附から始まって、最後の〆のお米にいくまでに、かなりの時間がかかりますよね。やはり、伝統的な食事は理にかなっているんだと思います。

牧野:なるほど、まだまだお話を聞きたかったです。今回は、ありがとうございました!


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免責事項
 
今回お話をうかがったのは……山田悟先生
北里大学北里研究所病院 副院長・糖尿病センター長。1994年、慶應義塾大学医学部卒業。同大学内科学教室入局、東京都済生会中央病院勤務を経て、2002年より北里研究所病院に勤務。2007年より糖尿病センター長。2021年より副院長に就任。

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