(文/論説委員・橋爪充、写真/写真部・久保田竜平)

「この世界はスーパーセックスワールドだ」―。1行目にかなり強めのパンチラインが置かれている。「大人のマッサージ」を標榜するデリバリー性風俗店の電話番が主人公で、「女王様」キャラで指名客にサービスを施すセックスワーカーの女性たちが何人も出てくる。
ただ、全体の語り口は穏やかそのもので、不穏なムードはほとんどない。「サービス」そのものの描写もない。主人公の「志川さん」(女性)は、大学卒業後に新卒で勤めた不動産会社を辞めて、モラトリアム期間に入り、この電話番のアルバイトを選んだ。
この落差が本作の魅力だ。非日常体験であろう「90分1万2千円」だが、志川さんを含む電話番たちは友だちを紹介するかのように、客に女王様をあてがう。
ひっきりなしに電話がかかってくるわけではないので、空いた時間は宅建取得の勉強をしたりしている。お昼から夕方までの性風俗店のコールセンター。まったりと時間が流れている。
「日だまりのような心地よい時間が続くなあ」と、読み進めていくと、あるところから別の裂け目が生まれる。とある女王様の行方が分からなくなる。そして、志川さんがアセクシャル、無性愛であることが明かされる。
性愛という一点において、世界全体からたった一人突き放された感覚。志川さんは孤独感にさいなまれる。当事者にとっては非常に深刻な事態だと理解できる。ただ、ここでも作品全体のトーンは変わらない。なんとなくのんびりしている。この落差がとてもユニークだ。
世の中の「普通の恋愛」に寄せなくてもいいじゃん。自分は自分でいいじゃん。そんなせりふはどこにもないが、全編を通じてのメッセージは十全に伝わってくる。いろんな人がいて、いろんな恋愛の形がある。愛の形は一つじゃない。
ゆるやかに、積み上げられた常識とやらにあらがっていこう。本作はちょっとふにゃっとしているけれど、現代を生きる人全員に向けたエンパワーメント小説である。







































































