熱海未来音楽祭を主宰する巻上公一さん
熱海市の音楽家で詩人の巻上公一さんが主導する、即興音楽をテーマにした「熱海未来音楽祭」は過去6回行われている。筆者は公私いろいろで、毎年欠かさず会場に足を運んでいる。同音楽祭は、劇場やライブハウスがない熱海市の状況を逆手にとって、登録有形文化財「起雲閣」やビーチ、商店街、アパレルショップなど、もともと音楽に縁のない場所に音楽を持ち込む、という冒険を繰り返しているところが興味深い。巻上さんの果てしないネットワークを通じて熱海にやってくる多士済々な音楽家の、ここでしか見られない共演も見どころの一つである。
クラファンが始まったタイミングで、過去の静岡新聞から記事の一部を紹介し、その年ごとの雰囲気を振り返りたい。2019年以外は筆者が担当している。
★2019年9月26日夕刊
バンド「ヒカシュー」などで活躍する熱海市の音楽家巻上公一さんが企画した「熱海未来音楽祭」が20、21日初開催された。前衛的なコンサートや子どもたちが練り歩くパレードが同市内で催され、昭和レトロと未来が交錯する、シュールで不思議な2日間となった。県文化プログラム事業の一環。
〈後略〉
(文化生活部・菊地真生)

ドアが特設されたビーチでパフォーマンスをする巻上公一さん(手前左)ら=熱海市の熱海サンビーチ
★2020年10月9日夕刊
熱海市の音楽家巻上公一さんが手掛ける、即興音楽や即興パフォーマンスを基軸とした地域密着型フェスティバル「熱海未来音楽祭」が開幕した。昨年に続く2回目で、同市に住む芥川賞作家で音楽家の町田康さんも協力。地方発の先鋭的なイベントとして全国から注目を集める。
〈中略〉
新型コロナウイルス禍を受けて、国外の演奏家が来日できなくなった。だが状況を逆手に取り、新しい演奏形態を提示する。24日にはポルトガル在住のピーター・エヴァンスさんと、熱海で即興演奏する笙[しょう]の石川高さん、箏の今西紅雪さんをオンラインで結ぶ。
〈後略〉

「熱海未来音楽祭」で即興の朗読セッションを行う巻上公一さん(右)ら=熱海市の起雲閣
★2021年10月17日朝刊
音楽家で詩人の巻上公一さん(熱海市)が手掛けるジャンル横断型フェスティバル「第3回熱海未来音楽祭」が16日、同市内で開幕し、各所で音楽やパフォーミングアーツの演目が繰り広げられた。
起雲閣で行われた音楽ライブ「大空にとりなしの祈りあり」では、テルミンや尺八、ベースなどを担当する巻上さんとバリトンサックスやフルートの吉田隆一さん、打楽器の井谷享志さんが即興演奏を披露した。それぞれが自発的に生み出す旋律やリズムが重なり、起伏に富んだ音楽が生まれた。
〈後略〉

巻上さん(右端)らが出演した第3回熱海未来音楽祭の音楽ライブ「大空にとりなしの祈りあり」=熱海市の起雲閣
★2022年9月24日朝刊
音楽家で詩人の巻上公一さん(熱海市)が企画するジャンル横断型フェスティバル「第4回熱海未来音楽祭」が23日、同市内で開幕した。幕開けの音楽ライブでは、巻上さんら3人が当意即妙の即興演奏を披露した。音楽祭は25日まで。
「散歩に虹を思索する」と題したライブには、今年の米アカデミー賞で国際長編映画賞に輝いた「ドライブ・マイ・カー」の音楽を担当した石橋英子さん、米国出身のマルチ楽器奏者ジム・オルークさんが参加。巻上さんの口琴や尺八、石橋さんのフルート、オルークさんのギターが相互に応答を繰り返し、一つの音楽を作り上げた。
〈後略〉

即興演奏を繰り広げる(左から)石橋英子さん、巻上公一さん、ジム・オルークさん=熱海市の「EOMO store」
★2023年10月21日朝刊
音楽家で詩人の巻上公一さん(熱海市)が企画する、「即興」をキーワードにしたジャンル横断型イベント「第5回熱海未来音楽祭」が20日、同市内で開幕した。
オープニングを飾ったのは「復讐から愛への肌触り」と題した即興演奏と人形劇の協働演目。熱海銀座商店街の衣料品店にすり鉢状の客席を設け、コルネットやテルミンを操る巻上さん、サックスの纐纈雅代さん、鍵盤楽器の坂口光央さんの演奏に合わせて人形遣いの黒谷都さんが紙の人形(ひとがた)や、布で作った顔を用いたパフォーマンスを披露した。会場には、まがまがしさと清涼感が入り交じった、不思議な空気が充満した。
〈後略〉

巻上さん(右端)らの即興演奏に合わせて舞う黒谷さん(右から2人目)=熱海市の「EOMO store」
★2024年10月14日更新「しずおか文化談話室」
開催3日目、10月14日に主会場の起雲閣を訪ねた。
〈中略〉
この日の起雲閣では、音楽サロンで二つのバンドの演奏があった。FU-CHING-GIDOはチャラン・ポ・ランタンでドラムを担当するふーちんさんと、チューバ奏者のギデオン・ジュークスさん。最小単位の「バンド」だが、非常に激しく、熱く、分厚い演奏を披露した。ふーちんさんは、右手と両足でドラムをたたきながら、左手で鍵盤ハーモニカやキーボードを操る。ギデオンさんは、左足の指先で足元の器材を操り、チューバの旋律と同期させる。
スナッピーでシャープなふーちんさんのドラムサウンドは、癖になる心地良さとも言うべきか。チューバを打楽器のように扱う場面があるギデオンさんもしかり。二人とも「こうでなくてはいけない」という縛りがないのだ。アンコールに応えたジミ・ヘンドリックス「ファイアー」は、文字通り火の出るほどの激しい演奏だった。サビの部分は主旋律が吹かれなかったが、確かに「ジミヘン」の歌メロが聞こえた。
〈後略〉
■第7回熱海未来音楽祭
開催日:11月29日(土)、30日(日)
会場: 熱海市内各所
〈クラウドファンディング〉
目標金額:100万円
募集期間:7月14日から50日間
募集サイト:https://motion-gallery.net/projects/atamimirai