【ポール・ラーソンさん、静岡市でherpianoと共演】28年前からの縁が結実。米西海岸エモの重要人物と日本インディーの至宝が同じステージに

静岡新聞論説委員がお届けする静岡県内のアートやカルチャーに関するコラム。今回は7月13日に静岡市葵区のライブバー「フリーキーショウ」で開かれた米ギタリストのポール・ラーソンさんのライブを題材に。静岡市の3人組バンドherpianoのボーカリスト、ギタリストの牧野洋平さんが28年前からの縁で企画した。ライブイベントにはtatami、大石裕美さん(浜松市)、herpianoも順次出演した。

静岡市と米ロサンゼルスをつなぐ「水脈」が、28年の時を経て地上に大きく水柱を吹き上げた。静岡市を拠点に活動を続けるオルタナバンドherpianoと、1990年代に米西海岸で活動した「エモ」バンドstrictly ballroomのギタリストだったポール・ラーソンさんの共演は、この日のハイライトだった。

herpianoは牧野洋平さん(ギター、ボーカル)、木村真理子さん(ベース、ボーカル)、牧野俊太さん(ドラムス、ボーカル)のトリオバンド。昨年夏に12年ぶりのフルアルバム「Three」を発表した。7月13日のライブも同作からの選曲が中心。ドライブするリズム隊にジャキジャキとしたギターが絡み、みずみずしい歌メロとコーラスが乗る。ノイジーな音像なのにさわやかさを感じさせる、二律背反的なサウンドは健在だった。洋平さんはステージのMCで「ラーソンさんたちの音楽を聴いていなかったら、herpianoをやっていなかったかもしれない」と語った。

1997年、米ロサンゼルス近郊に住んでいた洋平さんが友人を介して知り、夢中になったのがstrictly ballroomだった。ツインドラムと激しい絶叫、メロディーの良さ、ボーカリストの中性的な歌声、各楽器のシンプルな演奏-。洋平さんは彼らの音楽に魅了され、アルバム「hide here forever」をエンドレスで聴き続けたという。後に地元のレコード店で働いていたラーソンさんと偶然出会い、個人的に交流を深めた。

それから28年後。洋平さんはラーソンさんと地元で初共演を果たした。ライブイベントの「トリ」として登場したラーソンさんが現在のバンドDATAMAPSの楽曲を中心に5曲歌った後、herpianoの3人がステージに上がった。strictly ballroomの代表曲を二つ。2本のギターから放たれた音の粒が四方八方に広がっていく。粒の一つ一つが狭い演奏空間のあちこちでぶつかり、はじけ飛ぶ。寄り集まるようにして「音塊」が形成されていく。激しく、そして優しい音楽がそこにあった。

演奏後の洋平さんに話を聞くと「感無量」。1990年代にスコットランド・グラスゴーのバンドたちが、米シアトルに本拠を置くサブポップレーベルのグランジ系バンドと密に交流していた様子を思い起こした。静岡市をグラスゴーに、シアトルをロサンゼルスに置き換えたくなった。国境を越えた「音楽の同志」が、情熱をスパークさせる瞬間を見た。

「この4人でホールツアーに出る」と俊太さん。彼一流の冗談だが、実現したら面白い。

(は)

ポール・ラーソンさんは東京公演も行う。
■Paul Larson Live in Tokyo
会場:mod(東京都調布市菊野台1-20-2 AVANT柴崎B1 
日時:7月16日(水)午後7時開場、午後7時半開演
入場料:前売3000円+1drink、当日3500円+1drink
出演者:Paul Larson(DATAMAPS)、タナカカイタ(worst taste)、山本久土、Loupx garoux 

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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