【静岡のロックバンド「herpiano」全員インタビュー】新作「Three」のこと。アナログなスタイルで「三人の化学反応」炸裂

2002年に結成し、静岡市を拠点に活動を続ける3人組バンド「herpiano」が今夏、12年ぶりのフルアルバム「Three」を発表した。英米の良質なインディーロックバンドの粋を集めたような11曲。ジャケットに刻まれた「HERPIANO PLAYS HEARTWARMING SONGS」というメッセージを体現する好盤に仕上がった。10月5日には、全国各地を巡った「レコ発」記念ツアーの締めくくりとなるライブを静岡市葵区のライブバー「Freakyshow」で行う。メンバーの牧野洋平さん(ギター、ボーカル)、木村真理子さん(ベース、ボーカル)、牧野俊太さん(ドラムス、ボーカル)と、アルバムについて語り合った。(聞き手=論説委員・橋爪充) 

サブスク時代だからこそのパッケージ

-2012年の「ourseason」以来、12年ぶりのフルアルバムですね(2016年にミニアルバム「friend」、2019年にOFFICE VOIDSとのスプリット7インチ「split」あり)。リリースに至った経緯を教えてください。

俊太:単純に曲がたまってきたということがあります。「次がいつになるか分からないから、そろそろ作ろうか」という感じですね。(アルバム制作を)言い始めたのは2022年ぐらいだったかな。レコーディング、ミキシング、マスタリングで1年半ぐらいかかりました。

木村:(リリースに)そんなに深い意味はないんですよね。

俊太:きっかけの一つとして、スプリットがあったかな。「録音するなら、曲がたまっているからまとめて録っちゃいたいね」という話があって。

洋平:ミニアルバムが出て、スプリットで2曲出して。じゃあ、フルアルバムをもう1回、という感じで。

-「Three」の音の話をする前に恐縮ですが、パッケージが素晴らしいですね。紙のボックスにCDが入っていて、ステッカーや歌詞カード、しおりも封入されている。サブスク全盛の今、こうした作品をリリースすること自体、一つのメッセージだと思います。

洋平:サブスク時代だからこそですね。

俊太:メンバーとレーベルの方と手作業で一つ一つ作りました。(箱を)折って作るんですが、三つ目ぐらいで後悔しました(笑)。

洋平:(アートワーク担当の)佐野貴久さんが「最近、CDが軽く見られがちだからリリースするなら特別な仕様にしよう」と提案してくれたんです。

俊太:自分たちも、出すからには形の残るモノが良かった。

洋平:かさばるモノをね。

木村:この作品をリリースしてくれたレーベルの方が、herpianoを昔から見てくれているんですが、「特別感がほしいね」と言ってくれて。「簡単に消費されないような、ずっと聴いてもらえるものにしたい」と。

俊太:自分たち、思いっきりCD世代ですからね。CDで出したかったんです。

木村:ちなみに私はサブスクやっていない(笑)。

-CDだけでなく歌詞カードやおまけも入っている。この豪華さは何でしょうか。箱の手触りもいい。作る側の意志を感じます。

洋平:(おまけを)もっと入れようかという話しもあったんです。石とかね。

木村:レーベルの方が、もうけについて言わないんです。「やりたいことをやってほしい」と言ってくれた。

俊太:昔からの友人です。herpianoの作品を出すためだけのレーベルで、前回のミニアルバムからお世話になっています。

-ボックスセットのような作りですよね。

洋平:特殊なジャケットでリリースしているバンドはちらほらいるけれど、この形式はないよね。

木村:プレゼントっぽくしたかったんですよ。(部屋に)飾れるようにしようと。

俊太:しおりを入れたのもそういう意図ですね。佐野さんは20年以上の付き合いなんで。

洋平:毎回お任せだね。

木村:こちらの要望を聞いてもらった上で、お任せ。「ourseason」のジャケットも、自分で刺しゅうしてくれたんですよ。「これです」って言われたときは、鳥肌が立ちました。

牧野洋平さん(静岡市葵区のひばりBOOKSにて。以下、同)

3人でやれることをやった

-さて、楽曲の話です。こんなに「ギターポップ」的な音をさりげなく、てらわず表現できるバンドはそうそうないと思います。無理していないところが格好いい。前作に比べて、全体的にテンポアップしていて、一つ一つの曲が短くコンパクトになっている。いい意味でゴツゴツ感が増して、その一方でコーラスのパートも複雑になっているように聞こえます。メンバーとしては、12年前の前作からの変化をどう捉えますか?

洋平:2015年にギターが一人脱退したのが結構大きいですね。3人でやれることをやっていったら、今の形になった。

俊太:今は4人の時の楽曲は一切やっていないんです。メンバーが減ったのは大きな転機ですね。

洋平:単純に(自分の)ギターの負担が増えたので、複雑なことをやらなくなった。

俊太:ギター2本だと広がりは出るんですけれど。それがなくなったから。

木村:個人的には長い曲に飽きた、というのがありますね。短くグッとくるほうがいいなと思っています。

-隙間を生かそうという意志が感じられますね。音で全体を覆っていないというか。

木村:頑張って重厚感を出そうとしていた時期もあったけれど、隙間を恐れないようにしようとなった。3人だからこその音を出しましょうと。

-楽曲で言うなら4曲目の「Watching You」、6曲目の「三日月と秋の夜」が象徴的ですね。ギターの残響音が大事にされている印象です。

俊太:いい意味であきらめがついたんでしょうね。できないことはやらないし、格好いいと思われたいというのもそんなにないから。バッキバキに決めたいというのもないし。

-テンポが上がっている、という自覚はありますか?

洋平:ゆっくりな曲が減ったというのはありますね。

木村:ちょっと変えたかったっていうのもあって。

俊太:3人になったときに1回、メンバー全員パートを変えてみたんですよ。僕がベースやギターを弾いたり。最後には「さすがにこれはやりすぎだ」となったんだけど、それぐらい何かを変えないと、と思っていました。周囲が見たら笑っちゃうぐらいに。

洋平:ギターも一度換えたもんね。レスポールにしたんです。でも、重いって言われた(笑)。

-有り体に言って、音が若返ったような気がします。特に木村さんのベースが前作よりゴリッとしていませんか。

木村:昔からあんまり変わっていないんですけど(笑)。でも4人でやっていた時は、(自分の演奏は)伴奏みたいだった。今は、出て行っている感じですね。

木村真理子さん

データのやりとりで曲を作っていたら、こうはならない

-アルバムの収録曲はどうやって選んだんですか?

俊太:あるものを絞り出したっていう感じです。「お蔵入り」とかないですから。

木村:出し切った。

-レコーディングはどんな過程で進んだのですか?

俊太:2023年の年初からプリプロ。

木村:本番の録りは4月ぐらいから始まったのかな。

俊太:Freakyshowでほとんど録っています。ベーシックな所は3人で「せーの」で。ギターとか歌とかキーボードを後で重ねて。

木村:歌や小物は(富士市の)富士吉原KICKERSで。エンジニアのDAISEI SHIMOさんが富士の人なんで、近くの方がいいかなと。

洋平:ギターは大変でした。何回も一人でやっていて、パッと後ろをみると二人がお菓子食べながら漫画読んでいたり。

木村:「これでいい?」「なんだっけ?」みたいな(笑)。

俊太:まあ、何もしてやれませんから。

-そもそも楽曲はどうやって作っているんですか? 作曲名義は木村さんとherpipanoの2種類ありますが。

洋平:herpiano名義の曲は3人でジャムって作ったものです。

木村:今時の方はデモの状態でいろいろ重ねて聴かせるんだろうけれど、このバンドは全然違う。

俊太:僕、飲み屋で知り合った20歳ぐらいのバンドやっている男の子に「どうやって曲のやり取りしているんですか」と聞かれて、「スタジオで演奏しているのを動画で撮って」と答えたらびっくりされました。

木村:私はデモを録ること自体が無理なんです。(スタジオで)「曲ができたので聴いてください」って、その場で弾くんです。

俊太:完成している楽曲はあんまりない。

洋平:みんなで肉付けしていく。

木村:歌詞を作るのが苦手なので、最初はメロディーだけ。曲の雰囲気ができてくると、何となく歌詞ができる。

洋平:ギターはまず、覚えるのが大変(笑)。(木村さんは)独特なコードを使うんですね。(新曲披露の際は)手元を撮影して、家に帰って見るという。

木村:アナログですね。

俊太:データでやり取りできれば、もっとコンスタントに音源がリリースできるかもしれません。いびつな感じがありますよね。

木村:でも、自分だけではできない曲になる。三人の化学反応が起こる。データでやっていたらこうはならないだろうなと思いますね。

-一番古い曲は?

木村:(8曲目の)「マジックマウンテン」じゃないかな。初めて三人でできて「これでやっていける」と思いました。

-それでは一番新しい楽曲はどれでしょう。

俊太:(10曲目の)「NIDONE/with SOINE CAT」ですね。レコーディングが決まってから作りました。

木村:イントロのハミングは、後で考えたら5拍子だった。

俊太:(木村さんは)そのあたり「天然」で作ってくる。かっちりアレンジすると、ポストロックっぽくなっちゃうかもしれないので、不自然なところは不自然なままやっていますね。

木村:浮かんだままの拍子です(笑)。

-改めてうかがいますが、全体的に曲が短いですね。1コーラスで終わる曲も目につきます。

洋平:最初から短い曲にしようという気持ちはないんですけれどね。

俊太:今はこれが自然なんです。普通のバンドだったらもう一盛り上がりある前で終わっちゃう。

木村:「もったいない」ぐらいで終わりたいんです。満腹、トゥーマッチなものに飽きていて。「ここで終わっちゃうの?」ぐらいのほうがグッとくる。

牧野俊太さん

-今夏は静岡、東京、大阪、名古屋でライブがあって、9月も21日に三重県四日市市、28日に京都市を巡ります。10月5日はFreakyshowです。音源を出した後のライブの感触はいかがでしょうか。

俊太:アルバムを出せたから、こういうこともできる。楽曲に対しての印象が変わったといえば変わったかもしれませんね。今回のライブでは、曲順もほとんど同じでやっているし。

-今後、バンドはどんなところを目指しますか?

洋平:今まで通り、地味にマイペースでやっていきたいですね。

木村:無理なく。

俊太:なるべくいい曲作って、いいライブやって。それしかないですね。

木村:野望とかないしね。

俊太:格好いいバンドと知り合うのは楽しいかな。各地にそういう友達ができているので。

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■herpiano 「Three」リリースツアー「FINAL!」
 日時:10月5日(土)午後6時半オープン、午後7時スタート
会場:Freakyshow(静岡市葵区)
出演:herpiano、nemo、tatami
入場料:2800円(1ドリンク込み)

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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