【SPACの「イナバとナバホの白兎」】 せりふに感じたビート
2016年のフランス国立ケ・ブランリー美術館開館10周年を記念して作られたこの演目は、文化人類学者レヴィ・ストロースの考察を起点にした3部構成。第1部は日本の神話「因幡の白兎」を描き、第2部ではアメリカ先住民のナバホ族の神話に範を取り、第3部ではそれら全ての基になったアジアの大陸部にあっただろう神話を演劇的発想で「再構築」する。
2019年の公演も見ているが、記憶が薄れているため細かい点は比較のしようがない。個人的な印象でしかないが、舞台上のスピーカー(せりふを放つ役割を担う演じ手)の言葉が、より肉感的に響いた。
一つの単語を2、3人ずつのグループで交互に発したり、1人1文字ずつ発した音がつながって意味を持ったり。ある種のビートを感じる瞬間もあって、それは谷川俊太郎さんの「ことばあそびうた」や、バリ島の「ケチャ」を想起させた。
揺らぎの多い「グルーヴ」というより、マシナリーなビートである。小山田圭吾さんのソロプロジェクト「Cornelius(コーネリアス)」の演奏のようだ、とも感じた。吃音(きつおん)のように、あえて同じ文字を繰り返す場面もあった。客席の「耳」の一つとしてそれを受け取ると、体がつんのめるような不思議な感覚に陥った。
SPACの舞台は多彩な打楽器が作品を彩るのが常だが、言葉のリズムがそこに切り込んでいた。太陽神から与えられた弓矢が音楽と「まつり」を生み出すという物語が、台本や演出にもはっきり影響を与えていた。(は)
静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。