沼津のCafe『花野子』で美味しいコーヒーと香り高い時間
マスターの齋藤清一さんが自家焙煎珈琲屋Cafe『花野子』(かのこ)を開業して早くも20年以上が経過した。コーヒーを真摯に淹れる姿勢は昔も今も変わらず、評判は口コミで広がっている。
車でも行けるが、電車ならJR東海道線片浜駅(北口)から徒歩約7分だ。店の前で看板をのぞくと、「ふざけたマスターの真面目な珈琲」とある。洒落が効いている。
『花野子』の命名は作詞家の故・永六輔さんの“(自称)弟子”で、マスターの同級生、多才な芸人の福尾野歩さん。白く可憐なコーヒー花のイメージや人生に何度も花を咲かそうなどの意味が込められている。
客層は常連客のほか、土日は若い女性、子連れ、他店のスタッフが本格的な味を知りに寄りもする。
齋藤さんは食品関連会社を脱サラ後に開業した。「自分の可能性を広げたくて45歳で退社しました。食に係わる店をやりたい。自分が作った物で喜んでもらいたい。そんな時にバッハのコーヒーに出会い、田口さんのもとで修行することに」と当時を振り返る。『バッハ』は日本の焙煎技術第一人者・田口護さんがオーナーの東京の有名店だ。
『花野子』はコーヒーの香りが漂う茶系の落ち着ついた内装で、最近減りつつある大人がくつろげる雰囲気。ジャズが流れ、ひじ掛けイスはとても座り心地がいい。特等席はマスターやスタッフとも話せ、抽出の様子が目の前で見られる木製のカウンター。壁際にテーブル席、奥には読書にひたれる静かなスペースも。
「雰囲気は大切ですから。家でも生活臭のする場所でなく、例えば庭で楽しむ。ゆったりした気分だと美味しい。だから定年男性が淹れると現役当時よりもいい味がします」と齋藤さん。
多くのメニューから『花野子ブレンド』を選ぶと、丸眼鏡と白いボタンダウンシャツ姿の齋藤さんが手際よくコーヒーを淹れてくれた。
期待の一杯をいよいよ味わう。カップに鼻を寄せて風味を味わい、一口を含むと、思わず瞳が開いた。美味しい!雑味がなく、クリアなのに深みがある。その後、ブレンドよりもブラジルやエチオピアなど単一産地のストレートのほうが香り豊かでさらに美味しい、という話をきいた。
次回はストレートを飲もう。そう思いつつ、美味しさの秘密をきいた。
齋藤さんは「うちでは生豆のときと焙煎後の2回、カビ豆や未熟豆、虫食い豆を取り除くピッキングを行なっていますし、香りと味が引き立つのは芯まで火の通った煎ムラのない自家焙煎だからです。新鮮な豆なのでドリップのときに豆がドーム型に大きく膨らみます。厳選した紙フィルター、水は高嶋酒造の富士山水、抽出時の湯温は83度で、お客様に出す際には70度。本物の味でなければ生き残れない」から一杯に職人技を込めているそうだ。
取材中も人々が来店、豆を買って帰る女性客も。同店はアフリカのマラウイ共和国を支援するフェアトレードなどにも熱心だ。齋藤さんはとても気さくな方で、気がつくと2時間が経過。コーヒーには人と人の関係を仲立ちして会話を弾ませる、リラックス効果があると感じた。
(ライター/佐野一好)
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■自家焙煎珈琲屋 Cafe花野子
住所:沼津市今沢383-1
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