【スポーツビジネスの世界】五輪がもたらす経済波及効果とは?スポーツ産業は発展の可能性に満ちている!経済の視点で解説します。
(山田)いよいよ今週からパリオリンピックが始まりますけど、今日はスポーツと経済というテーマですか。
(高松)五輪商戦、五輪特需と言いますが、4年に一度のオリンピックは経済の動きを伴います。今回のパリ五輪・パラリンピックの組織委員会は経済波及効果を1兆円から2兆円ほどとみています。
(山田)それは開催国のフランスでということですか?
(高松)インフラ投資もかなり含みますし、行政の負担などもあるので純粋なプラス効果かどうかという話はありますが、開催国の経済が非常に動きます。昨今はコンパクト化や環境対応が進み、一昔前ほど国が大きく変わるようなインパクトはないとは思いますが、それでも経済波及効果はあります。
日本では2000億円以上の消費押し上げ効果に期待
日本国内でも消費の押し上げ効果が2000億円から3000億円ほどあるだろうと言われています。これは家電の買い替えやスポーツ商材消費、観戦ツアーなどによるものです。(山田)今はどうなんですかね、オリンピックを良いテレビで見たいから買い替えるというのは昔はありましたけど。
(高松)東京五輪のときは家電の買い換えが進みましたが、今はスマートフォンで見ることもできるし、足元の物価高で実質賃金が上がっていませんからね。パリ五輪だから家電を買い替えるというのは、ちょっと厳しい状況かなと思います。現地に行って観戦するという方もいるとは思いますけど、円安でそれもなかなか…。
(山田)ものすごくツアー代金が高いという話もありましたね。それでいうと僕は2018年の平昌オリンピックのときにテレビを買い替えましたね。今思い出しました。
(高松)今回は時間帯の問題も影響がありそうです。時差が7時間あるので、多くの競技の開催時間が日本でいうと真夜中になります。みんなでお店に集まって飲食を楽しみながら観戦しにくいので、ここも国内消費の面では痛いですね。
(山田)いくつか良いカードが日本の時間でも観戦しやすいものがありますが、全部が全部というわけにいきませんもんね。
(高松)そうですね。陸上の一部や柔道などは意外と日本時間でも見やすいかなという感じがしますが、サッカーなどは真夜中の時間帯になりますね。
(山田)さあ、そんな中でスポーツと経済ということですが。
(高松)静岡県は近年、スポーツの産業化、ビジネス化に力を入れています。静岡県は全国的に見ても、さまざまな競技のプロスポーツチームがありますし、環境的にも恵まれています。古くはプロ野球の長嶋茂雄さんが伊豆に自主トレに来ていましたし、県内にはいろいろなスポーツ選手が練習に訪れています。
(山田)冬場でも暖かいですからね。
(高松)温泉もあり、静岡県は昔からやるのも見るのも、スポーツとの相性が良い土地柄ですね。
スポーツビジネスの領域は近年、日本国内にも大学の専門学科ができたりと研究が進んできています。基本的にはスポーツ用品、スポーツ施設、スポーツサービスという3つの分野に分かれます。スポーツ用品は、道具を作るメーカーが関わっています。スポーツ科学の発達に伴い、この分野は国際的な競争もあって大きく伸びています。
(山田)僕もバスケットボールが好きなので、バスケットシューズをよくお店に見に行きますけど、1カ月に1回ぐらい新作が出ていますよ。どんどんクッション性やデザインが新しくなり、それが売れています。
(高松)施設の分野ではハード整備というようなものが含まれます。そして最も大きいのはスポーツの情報サービスの分野です。例えばスポーツチームのファンをどのように増やすか、さまざまなグッズや情報をどのように展開するか、チームをどのようにソフト展開していくかということです。今はJリーグも、東南アジアをはじめ海外の市場開拓に取り組んでいます。
スポーツ産業は観光や健康分野と相性がいい!
用品、施設、サービスの3つの分野でどのようにスポーツの裾野を広げていくかということに加え、既存産業との連携という視点もあります。スポーツはさまざまな産業と相性が良く、例えば観光とも組み合わせられるし、医療や健康、ヘルスケア、教育のような部分ともつなげることができます。観光の面で言えば、日本人も世界中にスポーツの試合を見に行くと思いますし、ヘルスケアという意味では、スポーツが人間の健康にどういう影響を与えるかという可能性を探ることで広がりが出てきます。
スポーツが持つビジネスとしての潜在性が改めて見直されてきています。単に一部のスポーツ選手が試合をするというだけでなく、体のケアの仕方などが一般の人の健康長寿にも活かせるのではないかという研究も行われていて、それがビジネスにつながっていくという循環ができています。健康維持、医療費削減、生産性向上という社会課題の解決にもつながります。スポーツは外から人を呼べるコンテンツでもあり、住んでいる人たちの心身の健康につながるという意味では悪いところがないですね。
(山田)スポーツビジネスはこれからもまだ伸びる可能性があるということですね。
静岡県ではものづくりとの連携に光明が!
(高松)静岡県においてはものづくりとの連携という側面もあります。例えば、パラリンピックの競技で使用する車椅子は、浜松市など県内にもメーカーがあります。企業が元々持っていた自動車部品などの製造技術を生かし、軽くて動きやすく、高強度の製品を作って選手に提供したりしています。スポーツのアイテム開発に挑むことで、その企業がこれまでとは違う製品を作れるようになって会社の成長につながることもあります。
eスポーツで言えば、ソフトウェアの企業に参入の可能性がありますし、VR(仮想現実)やAI(人工知能)の分野もスポーツと親和性が高いと言われています。最近も東京で大きなスポーツビジネスの展示会がありましたが、スポーツの世界にVR的な技術の導入が進んでいます。
(山田)ゴーグルをつけて選手目線でピッチを見ることができるなどという話も聞きますよね。
(高松)開発が日進月歩で進んでいて、没入感のあるスポーツ体験ができるようになってきています。ここは今後、お金を生んでいく分野だと思います。東京五輪ではアーバンスポーツと言って、都市型の新スポーツも種目に加わりました。eスポーツも将来、五輪の正式競技になる可能性もあります。スポーツに情報サービスが組み合わさることで、産業としてまだまだ大きくなっていくはずなので、静岡県の企業にもビジネスチャンスがある話だと思います。
(山田)世界的に見ると、日本のスポーツビジネスは進んでいる方なんですか?それとも遅れている方なんでしょうか。
(高松)よく米国が例に上がりますが、海外はエンターテイメント性も重視してうまくマネタイズしていますよね。
(山田)そこですよね。日本は体育があるから、自分の体と精神を鍛えるという部分がスポーツの要素として強いような気がします。一方で、海外の方は見せるとか楽しむといった要素が強い気がして、そちらのほうがビジネスにつながるのではないかと思うんですが。
(高松)日本のプロスポーツも、選手のショーアップを含め「見せるスポーツ」として変化し、成功してきているのではないかと思います。実際、多くの企業人が参入し、ビジネスの面から分析を行ってチーム経営を行い、経営改善しているケースもたくさんあります。
日本的な文脈でのスポーツの魅力や意義を損なわずに、どうやって産業として起こしていくか。スポーツの精神的なあり方と産業化はどこかで噛み合わない部分もあるのかもしれませんが、心身の健康の改善にうまく結びつけるような形で産業化していけば、営利的だけでない健全な形になっていくと思います。
(山田)まだまだ伸びしろがあると。
(高松)静岡県はスポーツコンテンツの膨大な資源がありますが、まだ生かしきれていない部分もあるのではと思います。静岡県の成長にとって、スポーツビジネスは面白い分野ではないでしょうか。
(山田)オリンピックを機会にそこに注目してみるのもいいかもしれませんね。今日の勉強はこれでおしまい!
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