【止まらない円安】円安が続いている要因とは?日本の産業や消費者の生活にはどのような影響が出るのか?新聞記者が解説します!
(山田)今日は経済の話ですね。円安が止まらないということで、一時1ドル160円を突破しましたね。
(高松)はい。今日(4月29日)の午前中に160円を突破して1990年以来、34年ぶりの水準になりました。ユーロに対しても一時171円まで円安になったんですけれども、これも1999年にユーロが導入されて以降、1番の円安。円はドルに対してもユーロに対しても非常に安い状態になっています。
政府はまだコメントしていませんが、この時間で円が少し値を戻したので、先ほどいわゆる為替介入をして円を買い戻す動きを行ったとみられています。為替介入をするかどうかということはこの数日間、ずっと言われてきました。政府、日銀が動かないとならない状況だということですね。
(山田)今日はこの円安について勉強していこうと思うんですけど、どこから行きましょうか。
(高松)まずは足元の状況を見てみます。ゴールデンウィークが始まり、県内各地で静岡新聞の記者が取材したところ、やはり「安・近・短」になっているようです。海外では円が弱いので、海外旅行は高くついてなかなか行けない。このため、旅行者からは国内に切り替えたという声が聞かれましたし、近場でいいという動きが出てきています。物価も高いので市民の生活防衛感が強くなっています。ゴールデンウィークは円安の影響をもろに受けています。
(山田)4月28日付の静岡新聞でも「“コロナ明け”実感 円安、物価高が影」という見出しが出ていましたね。確かに僕もこの3日間、思ってたほど人がわーと出ている感じは実感しなかったですね。
(高松)東京のホテルなんかもダイナミックプライスで、ものすごく高くなっていたりしますからね。
(山田)カプセルホテルでも1万2000円するということがニュースになっていましたね。
(高松)普段は3000円から4000円ぐらいですから信じられないですよね。
(山田)そういう状況だということですね。
円安基調の背景に日銀の金利政策
(高松)逆に言うと、インバウンドには追い風なんです。外国人から見れば、日本に来れば円が安いので本当に買い物しやすいですから。外国人観光客を取り入れたい日本としては良い状況です。なので、この状況はしばらく続くのではないかと思います。ただ、輸入品は当然高くなるので、国内の消費者にとっては厳しい状態になります。円安について改めて説明すると、ご存知の通り、1ドル100円と1ドル160円の状態を比べると、100円で1ドルのものが買えていたのが、160円出さないと買えなくなります。相対的に円の価値が安くなるので、「円安」という表現になります。
背景には、日本銀行(日銀)の金利政策が変わらないということが根っこにあります。4月26日に日銀が金融政策決定会合を開きましたが、基本的な方針は変えないという判断をしました。植田和男総裁は金利は据え置きますと話しました。金利を上げてしまうと、さまざまなものに金利の影響が出て国民がものを買う意欲が下がるというのが理由です。
(山田)日本の経済を守るということでしょうか。
(高松)そうですね。今はまだそれだけの購買力が伴っていないので政策を変えない、金利を上げないという方針を打ち出したということです。海外から見ると、米国の金利はとても高いので金利差が全然埋まらない。それであれば、ドルを持っていたほうが良いという構図になってしまうんです。
(山田)だからみんなドルを買ってしまうんですね。
(高松)日銀はいずれ金利を上げます、環境を変えますという空気感を出してはいるんですが、グローバルマーケットからするとまだ日本は政策が変わらないという見方をされてしまっています。
(山田)手の内がばれてしまっているということですね。
(高松)政府は為替介入をしたというコメントはしていませんが、為替介入をすると1回でとんでもない金額が動くんです。ただ、これをやったところですぐにまた元に戻ってしまうんです。この1、2年の間にも為替介入をしてドルを買い戻し、円安を食い止めようとはしているんですが、結局は戻ってしまっています。世界的な構造が固まってしまっていることを考えると、そう簡単に円高にはなっていかないですね。
(山田)難しいわけですね。米国の経済状況もいいわけですもんね。
(高松)ただ、日本も企業の決算などを見ると業績は好調です。基本的に株価も高値で推移していますし、全体の経済環境は評価されています。なので、別に日本の経済がだめになっているということではありません。日銀が今は金利を引き上げる状況ではないと判断している長期政策的な問題なんです。企業業績など、日本の経済全体の状況は悪くはなく、むしろ上向いています。
(山田)日銀はそこを止めたくないということなんですね。
(高松)しばらくはそこを温めてから利上げするという絵を日銀が描いているので、今は厳しい局面にあるということなんです。
(山田)なるほど。そういう流れがあるわけなんですね。今後はどうなっていくのでしょうか。
輸出産業に追い風も、輸入中心の中小企業には打撃
(高松)産業への長期的な影響ですが、基本的には自動車産業を中心に輸出産業にとっては非常に追い風です。ユーロに対しても円安なので、外国で物を売っている会社は売上高が上がるので良い状態が続きます。そういった業界はおそらく、これから賃上げなどにもプラスに跳ね返ってくると思います。一方、中小企業を中心に、エネルギーを含めて海外から物を輸入していたり、輸入している原材料を使っているような業界にはマイナスに働きます。
(山田)そういう企業もたくさんありますもんね。
(高松)仕入れ値が上がってしまうので、円安が続くと中小企業などは大きなダメージを受けてしまいます。せっかくこの春に大企業の流れを受けて中小企業も賃上げをしようという流れになっているのに、円安と物価高がそれに水を差さないか懸念されます。
これから夏休みや秋冬に向けてみんなが活発に物を買って経済が動き、景気が良くなっていく流れにならないと、日銀が金利を上げるという方向性になりません。逆のベクトルが働いてしまうと、結局、円安の状況は変わらないということになってしまいます。
(山田)いやー、悪循環になってしまいますね。
(高松)これから円安がどのように推移するかという点がポイントです。物価高も影響して生活防衛感はますます高まっているので、国内でどのように経済を回していくのか、非常に注目されます。
(山田)「安・近・短」という言葉もどうなんでしょうね。
(高松)デフレマインドの象徴のような言葉になってしまっているんですよね。観光に限って言うと、高級旅館などもインバウンドを中心にお客さんは入っています。メリハリを付けて高価な物を買うという消費者もいるとは思います。
ただ、大多数の中間層の人たちが健全にお金を使うというマインドにしていこうとする際に、円安や物価高はブレーキをかけてしまいかねない。ここのマインドづくりをどうするかが政策的にも難しいですし、とても重要です。
当面続く円安局面、脱却の鍵はデフレマインドの転換
(山田)まだ円安は続くという見通しという感じでしょうか。
(高松)円安の局面は当分続くと思います。
(山田)金利を上げるということはしばらくないのかもしれませんけど、何か短期的な切り札はないんでしょうか。
(高松)これは国内消費を増やすしかないので、ずっと言われていることですが日本全体の企業の賃金が上がっていかないことには。
(山田)でも、それって結構時間がかかることですよね。
(高松)もちろんです。なので、短期的な対策というのは厳しいと思います。国内全体を温めていくということを地道にやっていくしかないですね。日銀が利上げする判断に至らないと円安から円高局面にはなりません。その大きな構造が動いていかないことには全体が変わっていかないので、短期的な施策を打ってもあまり意味がないと思います。
(山田)長期的に見ていくしかないということですね。
(高松)ただ、また消費者が「質は悪くてもいいから少しでも安いものを」と考えてしまうデフレマインドに戻っていくと本当に良くないので、マインドの転換というのは間違いなく大事だとは思います。難しいことなんですが。
(山田)それであれば給料を上げてくれということになりますからね。
(高松)それについても、特に輸入産業の中小企業の経営者からすると、今は本当に厳しい状況だと思います。
(山田)観光で言えば、しばらく海外旅行には行けないなという考え方になりますよね。
(高松)そうですね。欧州に行くのも厳しいですね。ドルだけでなく、1ユーロが170円近いというのもかなりすごいですよね。
(山田)いやー、でも経済の構造からきちんと勉強することができました。ありがとうございました。今日の勉強はこれでおしまい!
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