【パラ競泳】パラリンピックの四つの価値をご存知ですか?“鉄人”鈴木孝幸選手のレースに心を揺さぶられた日

静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「パラ競泳」。先生役は静岡新聞運動部の寺田拓馬専任部長が務めます。(SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」2024年3月14日放送)


(寺田)パリパラリンピック競泳の代表選考会を兼ねた日本パラ水泳春季チャレンジレースが富士水泳場で行われ、東京パラリンピック金メダリストで聖隷クリストファー高校出身の鈴木孝幸選手が男子50m自由形で基準記録を突破し、代表に内定しました。

「鉄人」と言われる鈴木選手は現在37歳でパラリンピック出場はパリで6大会連続になります。東京大会では100メートル自由形で金、50メートル自由形と200メートル自由形で銀、50メートル平泳ぎと個人メドレーで銅。5個のメダルを獲得しました。

(山田)5個?すごいですね。

東京パラリンピックで金メダルを獲得して喜ぶ鈴木孝幸選手=2021年8月


(寺田) そうなんです。鈴木選手は先天性の四肢欠損症で、右腕の肘から先がなく、左手は指が2本と短い指が1本。 右足は根本付近からなく、左足は膝下からありません。

(山田)私も鈴木選手に一度インタビューさせてもらったことがあります。鈴木選手が「僕は水の中の方が自由なんだよ」と言った時に鳥肌が立ちました。

(寺田)実は私は今回初めて、パラ競泳を取材しました。すごかったです。まさに超人でした。

鈴木選手は普段、車いすを使っていて、車椅子からスタート台にちょこんと乗って、そのま ま飛び込むんです。泳ぎ出すと、速いんですよ。ぐんぐん進んでいく。ちょっと驚きます。

東京大会後に利き腕の左肩を痛めたそうなんですが、インナーマッスルを鍛えてそれを補っているそうです。「ひとかきで進む距離が昨年の世界選手権よりのびた」と。軽々と派遣A基準を突破しました。

(山田)さすが。37歳にして成長しているところがすごいですね。
 
(寺田)「パリに向け、いい手応えだ。出るからには表彰台の真ん中に立ちたい」と充実感をにじませていました。東京大会はコロナ禍で無観客でしたが、パリ大会は有観客開催になるので、大舞台が待ち遠しそうでした。 

(山田)鈴木選手はクールそうに見えますが、実際はフランクに話してくださいますよね。

(寺田)本当にジェントルマン。先日は「パリ大会は人生の終わり方を考える『終活』ですかね。でも、パリが終わったら『また次も出る』って言うかも」と鉄人ぶりを発揮していました。 

(山田)私たちも本当にエネルギーをもらいますよね。

沼津出身の芹澤美希香選手も

県勢はもう一人、沼津市出身の芹澤美希香選手がいます。知的障害のクラスの女子100メートル平泳ぎで2大会連続の代表に内定しました。伸び盛りの23歳。
 
先日の大会はレース後、選手が一人ずつ記者室の会見場に来てくれて、インタビューに答えていました。鈴木選手はさすがの貫禄があって、記者に囲まれても笑顔を浮かべながら余裕の対応でした。

若い芹澤選手は大丈夫かなと思っていましたが、テレビ局の取材にも堂々と受け答えしていました。 あとで、ロビーで待っていたお母さんにその様子を報告すると「メンタル面ですごく成長したんですよ」と教えてくれました。

芹澤選手は研究熱心で、自分で映像を見てフォームを分析するんだそうです。 東京大会後、海外のレースで経験も積んでいます。初出場だった東京は7位だったんですが、昨年秋のアジア大会で出したアジア記録は世界ランク4位。自己ベストを更新すれば、パリで表彰台を狙えます。

(山田)楽しみ。期待ですね。

ハード面はかなり改善。ソフト面は…

(寺田)ここでパラリンピックの価値について紹介したいと思います。 国際パラリンピック協会が掲げる価値は四つあるんですね。
 
一つ目は、マイナスの感情に向き合い、乗り越えようとする「勇気」。

二つ目は、困難があっても諦めず限界を突破しようとする「強い意志」。 

三つ目は、人の心を揺さぶり駆り立てる「インスピレーション」。 

もう一つなにか。 「公平」です。「多様性を認め、創意工夫すれば誰もが同じスタートラインに立てることを気づかせる力」としています。
 
パラアスリートは常人には想像もつかない努力を重ねています。先日の大会で選手たちの勇気と強い意志を目の当たりにして、私も心を揺さぶられる「インスピレーション」を感じました。 

(山田)本当にそうですよね。僕も何種目か経験したことがありますが、選手たちがいかにプロフェッショナルか。
 
(寺田)鈴木選手は長くイギリスに留学し、練習を重ねながら大学院でスポーツマネージメントを学び、パラスポーツを通じて共生社会の実現に取り組む活動について研究してきました。 

その鈴木選手によると、日本国内のハード的なバリアフリーはかなり改善され、イギリスよりも進んでいるかもしれないが、ソフト面はまだ足りない気がするとのことです。
 
障害者を見かけるとひとくくりに「かわいそう」と思ったり、どう接していいか戸惑ったりする人がいるかもしれませんが、 障害者も多様です。パラアスリートのように私たちに感動を与えてくれる人もいます。東京パラで進んだ部分もあると思いますが、パリ大会を契機に、互いを尊重し合い、支え合うことで、分け隔てなく誰もが輝ける社会がさらに進展することを期待したいですね。

(山田)県内各地でパラスポーツの体験会が開かれているので、ぜひ参加してほしいと思います。選手のすごさが分かると思います。今日の勉強はこれでおしまい。
シズサカ シズサカ

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