【北海道インターハイの競泳】不振の要因は“水泳王国”!? 静岡県勢・短距離陣が「泳ぎにくかった」と話したわけとは

静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは北海道を舞台に開催された「インターハイの競泳」です。先生役は静岡新聞運動部専任部長の寺田拓馬が務めます。 (SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」 2023年8月24日放送)

静岡県勢は長距離陣中心に入賞者多数

(山田)きょうは北海道に取材に行ってきた全国高校総体(インターハイ)の競泳の話題ですね。

(寺田)県勢が活躍しました。飛龍高3年の大木優瑠選手が男子400メートル自由形を制し、1500メートル自由形でも銅メダルを獲得しました。女子800メートル自由形では城南静岡高2年の高遥香選手が3位、飛龍高1年の佐藤麗選手も5位。ほかにも多くの入賞者が出ました。

(山田)まさに水泳王国静岡の力を見せつけたということですね。

(寺田)大木選手は昨年のインターハイ400メートル自由形で表彰台を期待されながら、決勝進出を逃していました。今大会では残り50メートルで一気に3人を抜く劇的な逆転で頂点に立ちました。ファインダー越しにレースを見つめていた静岡新聞社のカメラマンが「途中から必ず優勝すると思った」と語るほど気迫が伝わってくる泳ぎを見せ、1年間抱き続けてきた悔しさを晴らしました。

(山田)うわー、いいですね。ドラマチックでしびれますね。

(寺田)一方で、短距離陣は不本意な結果に終わった選手が多かったです。今季は静岡県総体、東海総体、静岡県選手権と泳ぐたびに県高校新記録を更新し、絶好調で臨んだ女子50メートル自由形の鈴木月渚選手(飛龍高3年)は7位。全国ランキング4位で挑んだ男子50メートル自由形の松田隼人選手(静岡市立高3年)も10位でした。

(山田)やっぱりインターハイって何か特別な空気があるんですかね。

(寺田)でもおかしいなと思ったことがあったんですよ。静岡の多くの選手が「泳ぎにくい」と話していたんです。なぜ、短距離選手が好成績を残せなかったのかと現場で取材を進めていたら、理由の一端が分かったんです。

(山田)何だったんですか。

(寺田)水泳王国ならでは恵まれすぎた環境が逆にもろさを生んでしまったのではないかということです。

(山田)ちょっと興味深いですね。教えてください。

端が沈んだコースロープ、浅い水深…

(寺田)勝負に大きく影響したのが、実はコースロープだったんですよ。コースロープには3つの役割があります。1つは隣の選手と接触しないようにコースを分ける。2つ目は距離を知らせること。コースの端から5メートルは目印として赤色になっています。もう1つはなんだと思いますか?

(山田)えっ何だろう。分からないです。

(寺田)波を消す「消波」です。これが役割としては大きいんです。プールに行ったら観察してほしいのですが、コースロープはブロックみたいな部分がつながった形をしています。この凹凸のある部品の構造が、波を打ち消す効果があるんです。

(山田)そうやって言われると、僕も水泳に行ったとき、隣でリハビリを兼ねて歩いている人たちがいたんですけど、波があまり広がっていかないような記憶がありますね。

(寺田)そうなんです。ところが、今回の北海道の会場は端の5メートルのコースロープが水面下に沈んでいたんです。本来は波が隣のコースに行かないように防ぐはずなのに、沈んでいるために波がプール全体に広がっていく。海のようで当然泳ぎにくくなります。

(山田)サッカーでいうとピッチの芝が悪いとか、バスケットボールでいえばコートが滑るとか、そういうことなんですね。

(寺田)それと、プールには格付けというものがあるんです。市民のみなさんが一般的に利用する市民プールは競技用ではないのでランク外ですが、大会を開催するには日本水泳連盟の公認が必要なんです。静岡県内には日本水泳連盟の公認プールが19ヵ所あるんです。

(山田)多いほうじゃないんですか。

(寺田)そうですね。愛知県が16ヵ所、山梨県は5ヵ所しかないんです。

格付けの最高は「国際プールAA」。ランクは「国内プール」まで6つに分かれています。静岡県内には国際プールAAの施設が2つもあります。古橋広之進記念浜松市総合水泳場「とびお」と県富士水泳場です。水深が最大3メートルで10コースあります。静岡市にある県立水泳場も水深最大1.8メートルで9コースあり、国内プールで格が高い方になります。

国際基準に慣れていることが影響?


(山田)静岡県内にはいいプールがたくさんありますね。

(寺田)競技用プールはゴールにタッチするとそれを感知して、結果を速報するシステムが備わっています。静岡では大型の電光掲示板があるのが当たり前で、結果がすぐに表示されます。ただ、今回の北海道の会場は電光掲示板が常設ではなく、インターハイ用の仮設でした。

先ほど話題にした今回のコースロープについてもなぜ沈んでいたのか取材しました。今回のプールは、本来は水深1メートル30センチで使用しているそうです。

(山田)浅いですね。

(寺田)プールの端の取り付け位置が低いのに、インターハイ仕様で水深を1メートル55センチに上げたため、コースロープが弓なりになって端っこが沈んでいる状態になってしまったらしいです。

プールの格付けも調べてみたんですが、今回の施設は公認プールで最も低い格付けでした。幅も8コースまでしかありませんでした。子どもの頃から国際基準のプールに慣れている静岡の選手にとっては、小学生用の競技プールといった感じです。

(山田)だからちょっと泳ぎにくいっていうのがあったんですね。

(寺田)水深が浅いということはスタート台の高さも低いんですよ。スタートして飛び込んだときに入水速度も遅くなります。そうなると、競技には大きな影響が出るんです。今年は東海総体の会場が「とびお」だったので、女子50メートル自由形の鈴木選手はスタートの浮き上がりから最初のストロークを練習してきました。水深の浅いプールでは十分に実力を発揮できなかったのだと思います。

(山田)特に静岡の短距離選手が良い記録を出せなかった理由が分かりますね。

(寺田)今回はプールに隣接する待機場所の体育館にも空調がありませんでした。午前中に予選を戦い、午後の決勝まで待っている時間も割りと長いんです。選手たちは万全の状態で臨むのが難しかったと思います。

(山田)結構、過酷な環境だったんですね。

(寺田)良い環境で泳いで自己記録を出してほしかったですね。ただ、すべての選手が同じ条件ですし、中には大会新記録を出した選手もいました。現在も行っているとは思いますが、インターハイで成績を残すには会場のプールや環境を事前に調べて対策を取ることが重要だなと思いました。

(山田)プールの違いというのは知らなかったので、勉強になりました。

(寺田)9月に鹿児島で国体があるんですが、調べたところ会場は国際公認プールでした。インターハイで不完全燃焼だった選手には、ぜひ国体で自己新記録を出して良い成績を収めてほしいなと思います。

(山田)楽しみですね。今日の勉強はこれでおしまい!
シズサカ シズサカ

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