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【競歩って面白い】静岡県勢が牽引する日本が強豪国になった理由は? 世界陸上から見えた新たな潮流とは

静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「競歩って面白い」です。先生役は静岡新聞運動部専任部長の寺田拓馬が務めます。 (SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」 2023年9月7日放送)

(寺田)8月下旬にブタペストで行われた、陸上世界選手権の男子35キロ競歩で、御殿場南高出身の川野将虎選手が2時間25分12秒で銅メダルに輝きました。準優勝した昨年に続く2大会連続のメダルとなりました。

静岡は競歩王国なんです。男子20キロ競歩では、残念ながら3大会ぶりにメダルが取れず、前回2位だった浜松日体高出身の池田向希選手は15位、3連覇を狙った静岡西豊田小出身の山西利和選手は24位でした。しかし、2021年の東京五輪では、20キロ競歩で池田選手は銀、山西選手が銅メダル。県勢2人がメダルを取り、五輪のこの種目で日本で初めての表彰台という快挙でした。

(山田)当時、ニュースで取り上げられてましたよね。

(寺田)来年のパリに向けての今年の世界選手権だったんですが、この3人が、日本の競歩界を牽引しています。しかも、池田選手と川野選手は同学年で、東洋大学では4年間一緒に過ごしていたんです。

(山田)もう本当にライバルなんですね。

(寺田)ただ経歴は対照的で、川野選手は高校時代から活躍したエリートでしたが、池田選手はマネージャー兼任だったらいいよと言って入部してるんですよ。まさに切磋琢磨しながら先日の世界陸上にも出場していて、2人のライバル物語がパリにどう繋がってくるのか楽しみです。

実は「最も過酷な陸上競技」

(寺田)そもそも競歩ってどんな競技なのかって話をしたいなと思います。楽そう、地味といったイメージを持ってる方が多いんじゃないかなと思います。

そのルーツは、ローマ時代の軍事訓練にあるとか、英国貴族の散歩にあるとか言われていて定かではありませんが、最も過酷な陸上競技って言われています。というのは、参加選手の棄権率が40%ぐらいあるんです。早く進みたいのに走ってはダメ。体力はもちろん、精神力も試されます。

なおかつ、競歩は陸上で唯一の判定種目なんですね。反則は二つあり「ロス・オブ・コンタクト」と「ベント・ニー」です。ロス・オブ・コンタクトは、競技中常にどちらかの足を地面につけていなければならないというものです。両方が離れると、走ったとみなされます。ベント・ニーは、前足が地面につくとき膝が伸びていないとならないというものです。

「陸上は科学だ」という話を以前にしたことがありますが、走るときに使う力って何だったかといいますと…

(山田)地面を押した力で跳ね返る。

(寺田)足で地面をしっかり押して、その反力を使って前に進みます。でも、走っちゃダメってことは、競歩ではこの地面からの反力が使えないんですよ。

(山田)そうか。難しい。

(寺田)反則を重ねると失格になってしまうんです。結構、技術がいるんですよ。選手が腰を左右にくねくね体を動かしているのを見たことがあると思いますが、頭の高さを変えないんですよね。頭の高さが上下するってことは、結局どっちかの足が離れてしまったりすることになるんです。池田選手のフォームは本当に綺麗で、まさに地面を滑るような感じです。

なぜ周回コースにするのか

(寺田)東京五輪の競歩の会場は札幌でした。先日、水泳のインターハイの取材で札幌に行ってきましたが、札幌では大勢の人が歩いてるんですよ。
街中に地下鉄や路面電車、バスもあるんですけど、平坦で碁盤の目に町が整備されているので、歩きやすいんですよね。会場は大通り公園のところを周回するコースだったんですが、まさに、競歩にぴったりでした。

(山田)東京は意外と坂が多かったりしますもんね。

(寺田)コースって、1〜2キロの周回コースなんですよ。どうして周回コースになるか、わかります?

(山田)坂とか段差がないようなコースにしたいから…?

(寺田)それもありますが、歩形を見る審判員を配置するからです。周回コースなら、審判員が動かずに同じ場所で見ていられるんですね。

インターハイだとトラックでやるんですが1位の選手がゴールしても、すぐに取材に行けないんですよ。ゴールした後に、失格になっちゃうこともあるので、ゴールしてもわーって喜べないんです。

(山田)難しいですね。

最強の審判員がいてこそ日本の競歩は強くなった!


(寺田)日本がなぜ強くなったのかというと、最強の審判を育てたからだと言えます。「強豪国にはいいレフリーがいる」という話はサッカーの話題の回でもしましたが、公正な判定で試合をし、コントロールしてくれる審判がいてこそ、選手は安心してプレーして自分の技を磨くことができます。

競歩においても、審判は大事ですね。「パリショック」と言われていますが、2003年世界選手権では、日本人は5人出場して、3人失格しちゃったんです。国内では歩形違反にならなくても海外では違っていて、国際基準とずれていたんですね。そこから、まず審判を強化しなきゃということで、判定の精度を上げて、最新の情報収集も行い、美しい歩形の強い選手を育て​た​。これで、日本は強くなったんです。

(山田)やっぱり審判を強くした方が強くなるんですね。

(寺田)世界選手権で川野選手は銅メダルを取りましたが、池田選手とか山西選手といった今まで活躍してきた選手が惨敗してしまいました。これに関して、気になる記事を見つけたんですよ。「厚底シューズ、競歩界にも。導入の海外勢躍進」。

競歩は、ルール上地面からの反力を使えないはずですよね。陸上界では厚底シューズが席巻してるんですが、競歩界ではずっと、厚底シューズって足が浮き上がって反則を取られやすくレースに不向きだって言われてきたんですよ。それが今回の世界選手権で、池田選手ら厚底シューズを履かない日本勢が惨敗してしまった。男女ともに20キロ、50キロの二冠に輝いたスペイン勢を含む数多くの選手が厚底シューズを履いてたんですよ。

(山田)厚底でもいいんだ。

(寺田)靴だけ変えてもダメなんです。その厚底に合わせた歩き方が必要です。厚底の反発力をどう推進力に変えるのか、これはまさに科学なんですが、この部分ってまだ日本は研究できてないと思います。海外勢は、日本に勝つために研究してきたんです。

スポーツは、五輪のタイミングで大きく育って、進化するんですよ。海外勢はパリに向けて、厚底シューズを競歩に取り入れるために、どこの筋肉を鍛えたらいいかとか考えてやってきてるんですよね。日本陸連幹部が、「歩き方の根底からリセットしないとダメ」と言ってるんですが、パリまであと1年。どうするのか、ここで方針転換するリスクもあるんですよね。今日本は悩んでるというか、戸惑っているところなんです。

(山田)でもある意味、この世界陸上で気づけた部分もありますからね。

(寺田)もう一つ、パリ五輪は35キロがなくなっちゃうんですよ。20キロだけになると、その分、強豪が集まるんです。35キロ、50キロで実績を残してきた川野選手も、パリ五輪に出るには20キロに挑まないといけないんです。池田選手は得意な距離であり、国内の代表争いがどうなっていくのか楽しみです。

パリ五輪では代わりに、「競歩男女混合リレー」って新種目があるんです。五輪憲章の「より速く、より高く、より強く」、そして「より共に」。まさにこれなんですね。マラソンの距離を男女2人ずつ、10キロぐらいで繋いでいくんですよ。これもどんなドラマが生まれるのか楽しみです。

(山田)今日は競歩について伺いました。今日の勉強はこれでおしまい!
シズサカ シズサカ

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