【川勝平太知事と静岡県議会の対立再び】知事の“東アジア文化都市継承センター”発言が物議。「訂正しろ」「しない」の応酬。果たして「議会軽視」に当たるのか?

静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「川勝平太知事と静岡県議会の対立再び」です。先生役は静岡新聞ニュースセンター専任部長の市川雄一です。(SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」 2023年12月4日放送)

(市川)またかと思われる方もいるかもしれませんが、今日はまた川勝平太知事と県議会が揉めているという話です。

(山田)川勝知事と県議会の話題はこのコーナーでも何度が取り上げてますが、また新たな対立が起きているというということですね。

(市川)前回は、川勝知事の「コシヒカリ発言」に端を発した給与・ボーナスを返す返さないの対立でしたが、今回は川勝知事の「ある発言」をきっかけに県議会の怒りが沸騰しています。

ある発言というのは、10月12日のことなんですが、県商工会議所連合会という県内の商工会議所の集まりである団体が県庁に川勝知事宛の要望書を持ってきたんです。これは毎年の恒例行事で珍しくありませんし、記者にもオープンな場で行われています。

要望書を渡したあとに懇談になるんですが、その場で知事が「三島市に東アジア文化都市の発展的継承センターを置きたい。土地を物色している」「国の土地を譲ってもらおうと詰めの段階に入っている」と発言したんですね。

(山田)この発言が問題になっているということですか。

(市川)最初に「問題視」したのは中日新聞です。翌13日の朝刊で「議会諮らず先行発言」との見出しでこの発言を紹介し、「予算化しておらず県議会にも諮っていない案件」として、知事不信任案が1票差で否決されたあとの知事の言葉「議会とのコミュニケーションを密にしたい」との言葉を引用した上で「新たな火種となりそうだ」と書いています。

記事には知事と対立する県議会最大会派の自民改革会議の県議の「寝耳に水」「何も反省していないではないか」とのコメントも掲載されています。

(山田)簡単に言うと、議会はそんなこと知りませんよということですか。

(市川)この記事からは、記者から県議にこのような知事の発言があったと伝えられたことが伺えます。記者が政治のプレイヤーになることには賛否があるとは思いますが、公の場での発言なので、報道倫理的に間違っているとまでは言えないと思います。

県議側「知事方針の説明ない」と問題視

(市川)報道をきっかけに県議が知ることになったわけですが、県議が「問題視」したのは「三島に発展的継承センターを置く」という知事の方針が県議会側に全く説明されていなかったからなんです。

知事は不信任案が否決されたあとに「議会とのコミュニケーションを密にしたい」と言っていたので、約束を果たしていないということもあるし、行政と議会は車の両輪であり、重要な政策に関しては随時、議会に報告があってしかるべきという原則論もあったと思います。自民党の県議からは「議会軽視」という声が飛んでいます。

(山田)コミュニケーションを取る前に勝手に言っているじゃないかということですね。

(市川)県議会の常任委員会の1つである総務委員会が11月29日に、知事に「何も決まっていないことを『詰めの段階』などとする発言が県議会や県当局はもとより、関係する多方面に混乱をもたらしたことは事実」として、発言の訂正と今後の軽率・不用意な発言しないように申し入れを行ったんですね。これに対し、知事は訂正を拒否しました。

(山田)訂正しないと。

(市川)はい。「構想を言うのが私の仕事」「思いを語ったもので現時点で何も決まっていない」ことなどが理由です。分かりにくいかもしれませんが、知事と県議会、どちらの言い分に理があると思いますか。

(山田)難しいですよね。知事からしたら「こうなったらいいな」と言っただけだということですよね。

(市川)ただ、何も決まっていないことを「詰めの段階」と言って混乱を招いたと指摘されている部分は、知事が不用意だったと思います。

県議会は総務委員会と文化観光委員会で閉会中審査を開いているんですが、ここで県の職員は「知事のアイデアであり、部局として検討できる環境になかった」と答弁しているんですね。「詰めの段階」というと一般的には、政策の決定の最終段階と受け止めると思います。そういう意味では、誤解を招く発言でした。

「詰めの段階」は「議論開始に向けて」という意味?

一方で、これから政策の検討に入ることをスタート地点と考え、そのスタート地点に立つ直前の詰めの段階だった、という意味も、この日本語では成り立つと思うんですよ。

スタート地点に立って、これから県議会への説明や土地取得の具体的な交渉を進める。こういう解釈だとしたら、知事の発言は誤解を招いたかもしれないですが、虚偽とまでは言えないと思います。虚偽ではない外部での発言を県議会の場で訂正する必要があるのかといえば、過剰反応だと見られても仕方がない部分があるのではないかと思います。

(山田)なるほど。確かにそうやって言われれればそうですね。

(市川)「東アジア文化都市」は日中韓3カ国で文化芸術を発信するイベントなんですが、静岡県で開催することに関しても、実は知事が先走って発言していました。2021年に開かれた県地方議会議長連絡協議会という会議の挨拶でのことでした。

僕は、この会議の取材をしていたんですが、知事が挨拶で突然、東アジア文化都市に立候補すると言い出したんです。驚いてすぐに記事化しました。正式決定の3ヵ月前のことです。この時、県の事務方にも取材したら「まだ検討中」と認めなかったのですが、知事が公の場で堂々と発言したので「立候補の意向」と書きました。それぐらい川勝知事はいろいろな席でリップサービスをするんです。

(山田)先に言っちゃうタイプなんですね。

(市川)ただ、この時は県議会で問題になっていません。

(山田)そうなんですか!?

(市川)もしかしたら、あのときは既に県議会に説明していたのかもしれません。

話を戻して、今回の発言が「議会軽視」かどうかということについては、僕は疑問を持っています。仮に、東アジア文化都市のレガシー拠点を三島に作るとなれば、予算を伴うわけですから、議会の議決が必要になります。もちろん、議決の前には常任委員会の審議、本会議での審議を経て、議決されます。

そうした手続きを踏まないで物事を決める「専決処分」という権限を知事は持っているわけですが、重要政策を専決処分で決めていたら「議会軽視」のそしりは免れないと思います。しかし、議案の提出前のいわゆる「根回し」を怠ることが「議会軽視」とまで言えるかどうかは判断が分かれると思います。

対立深刻化の背景は知事選? どうなる静岡県議会


(山田)こういう状況になった要因はなんでしょうか。

(市川)再来年に知事選が控えていて、川勝知事と対立する県議会の自民党会派は候補者選定について会議を始めたとも報じられています。そういう状況の中で、知事の発言に対してすごく敏感になっているんだと思います。

知事は不信任案が否決された後、定例会見の場で「次に何か不適切なことをした場合は辞めます」というようなことを言っています。

(山田)だからみんな揚げ足を取りに来ている?

(市川)そうなんですよ。知事に「不適切なことをした」と言えるものを探そうとしている。逆に知事は、公の場でそのような発言をしてしまっているので、なかなか自分の誤りを認めるわけにはいかない。元々、簡単には謝らない人ではありますが、今回も訂正はしないし、謝罪もしないという姿勢を取っていて、両者がぶつかっている構図です。

県議会12月定例会が1日に始まったばかりなんですけど、どうなっていくのか注目ですね。

(山田)県議会はどうなりそうですか?

(市川)落とし所が見つからないという意見が県議の中からも出ています。県議会は今回、総務委員会が知事に申し入れをしている段階なんですが、県議会全体として知事に対して訂正を求める決議を行おうという動きもあります。それを知事が拒否して、また不信任案が提出されるようなことになれば、また議会が政局化するということも十分あるのではないかと思います。

(山田)今回の解説で状況がよく分かりました。今日の勉強はこれでおしまい!

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