
(山田)ちょうど先週、市川さんに川勝平太県知事の〝嘘つき問題〟の本質をこの番組で解説していただいた後、動きましたね。
(市川)激動の1週間でした。先週月曜の3時のドリルで、いわゆる「コシヒカリ発言」を巡り、給与返上を表明したままになっていることでネットが炎上した件について話しました。その日の夕方に「川勝知事がボーナス返上の意向」というニュースを各社が一斉に報じまして。その後、12日の県議会6月定例会最終本会議で、川勝知事が正式にボーナス返上の意向を表明し、それに反発した県議会最大会派の自民改革会議が同日、不信任決議案を提出しました。日をまたいだ真夜中の0時50分頃採決を行い、賛成50票、反対18票で可決ラインに1票足りず否決されたということです。
今回の一件、川勝知事の政治家としての人間性と、今の県議会の状況というのがよく反映されている問題なので、そういう観点から解説してみたいと思っています。
知事には「論破王」の一面も

(市川)「論破」って最近よく聞きますね。論理で相手を言い負かすことを指す言葉で、得意な人を「論破王」と呼んだりしますが、これっていい意味も悪い意味もあります。僕は結構悪い意味でこの言葉を使いますが、理屈をこねくり回して議論で勝ったとしても、言い負かした相手にはその不快感が残るだけだし、議論のための議論になって何も生み出していないということってよくありますよね。
(山田)すごくわかります。
(市川)川勝知事は論破王の一面があるように思うんですよ。12日にボーナス返上の意向を正式表明したときの答弁に、まさにそれが表れていたんです。「県民に自分の考えを十分に伝えずに不信の念を抱かせてしまった」と詫びて頭を下げた後、すぐ言い訳が始まるんですね。先週の3時のドリルで、ボーナス返上の条例案を提出しても県議会で可決する見込みがないので断念したと解説しましたが、知事は「条例案の議会への提案に向けてさまざまな努力や調整をしたが、議員からの辞職勧告決議は給与返上を求めるためのものではないという考えや、給与返上と自らの責任の取り方には関係性がないとのご意見を踏まえて当時提案を見送ることにしました」と同じ話をしたんですよ。。
(山田)この経緯については、間違っていないと。
(市川)ただ、僕らマスコミが客観的な事実としてこのことを言うのはともかく、たとえ反対されていたとしても、条例案を提出できる立場だった知事が言うと言い訳に聞こえてしまいます。
知事の発言はここからが真骨頂になります。今月5日の常任委員会で、給与の返上が実行されないことに対して、県議から「言動不一致である」という声が上がったことを踏まえ、「言動不一致と指摘されたので、私は県議会において、給与返上の条例案を審議いただける環境に変わったと認識しました」と言ったんです。
この意味はというと、知事の中には「県議会の自民党が反対したからボーナス返上条例を出さなかった」という理屈があったんですね。その反対していたはずの県議会自民から言動不一致という批判が出たということは、「この件に関して言動一致させてほしい」、つまり「ボーナスを返上してほしい」ということになる。そうすると、川勝知事が条例を提出しても、もう県議会は反対できないはずだっていう理屈が成り立ってしまうんです。これ、ディベートの世界では、論破できてると言えなくはないじゃないですか。
(山田)強いですね。
(市川)ただ、言われた側は、理屈をこねくり回して相手に責任を転嫁し、自分を正当化していると思ってしまいます。ボーナス返上自体は知事が自らの失言の責任を取って言い出したことで、相手の反応に関わらず自分でけりをつけなければいけない問題です。だから相手がこう言うから出さない、こう言うなら出す、というのは逆ギレと言ってもおかしくないんですよね。当然この知事の言葉、姿勢に対して県議会が怒りを爆発させて、1年7カ月前は思いとどまった不信任決議案の提出に至ったということです。
不信任決議案否決の翌日に知事が記者団の囲み取材に応じた際、「不信任案を出されたことは重く受け止めています」と述べた一方で、9月の県議会に提出するという給与ボーナス返上条例について「通るか通らないか、どのような形でそれぞれの会派の方たちが筋を通されるのか」という発言をしています。県議会の常任委員会で言動不一致と批判したからには、条例案には反対できないはずだっていう理屈で今後も戦う決意を示したと僕は見ています。
(山田)川勝知事は給料とボーナスを返そうと思ってるんですかね。
(市川)どっちかっていうともう議論に勝ちたい、相手を言い負かしたいってそっちに寄っちゃってるんですよね。でもそれじゃ県議会の方は納得はしませんね。
県議選での自分の一票が、県政の行方に関わっている

(市川)県議会の方に話を変えますが、今回提出された不信任決議案には、前回の1年7カ月前の辞職勧告決議と違って、4分の3の賛成が必要でした。県議68人中、51人以上の賛成が必要だったんですが、今回50人が賛成して51人に1人だけ届かなかったことが大きなニュースになったと。
4月の県議選で当選した68人中、今25人の県議が無投票当選の議員です。さらに、県議選の結果を見ると、例えば沼津市選挙区で4人が立候補して3人が当選していますが、この3位で当選した人と、4位で落選した人の差はわずか566票差でした。1万4854対1万4288なんです。実は3位の人が今回の不信任案に反対していて、4位で落選した人は自民党の公認候補だったので、566票差がひっくり返っていたら、間違いなく今回51票に届いていました。だからこの沼津市の選挙だけで、大きく県政の行方が変わっていた可能性があります。
今回の騒動は、自分たちの一票が政治を動かしているんだってことに気づかせてくれる出来事でもありました。この騒動で知事や県議会に対して「おかしい」と憤った方も多かったと思うんですが、おそらく、そういう思いを持ち続ければ、「選挙に必ず行かないと」という思いに変わってくるのかなって気がしましたね。
(山田)以前、選挙の話題で、一票がどうやって政治に関わっているのかわかりにくいっていう話がありましたが、わかりにくくないですね。
(市川)今回、不信任決議案が可決されていたら、知事は県議会を解散するか、自動失職するかの2択になるんですよ。もし県議会を解散したとしたら、もう1回県議選をやります。新しくできた県議会が再度不信任案を出したら過半数で、知事は自動失職するんですよ。県議選というと、なんか遠い選挙だなというイメージがありますが、知事がどうなるかに直接関わっているというのをまざまざと見せつけられました。
(山田)このあと川勝知事と県議会はどうなっていきますかね。
(市川)知事が明言したので、ボーナス給与返上条例は9月県議会に提出すると思います。ただこれに対し、自民党が賛成するか反対するかはすごく難しい問題です。自民党としてはあくまで辞職を求めている立場なので「給与やボーナスだけ返上して許すわけにはいかない」という理屈があるし、知事としては「言動不一致と自民党が言うならそれを認めないとあなたたちもおかしいでしょ」っていうような形で攻めてくると思うし。9月議会はまたもめにもめることが予想されます。
(山田)論破の世界だけにならないで、ちゃんと本質をやってもらいたいと思いますね。われわれの選挙の一票がいかに大事かもわかりました。今日の勉強はこれでおしまい!