元プロの加入
ヤマハは、2019年に元DeNAの網谷圭将外野手(千葉英和高)、2021年には再編、統合となった三菱重工名古屋から移籍の秋利雄佑内野手(常葉大菊川高―カリフォルニア州立大)が加入するなど、効果的な〝補強〟を足掛かりにして打線を強化し、室田信正前監督のもとで2023年都市対抗準優勝を成し遂げた。その後、世代交代が進んでも勢いは衰えていない。ルーキーの躍動
近年のスカウト戦略の強化が、安定した強さの一因と言えそうだ。今年は森川凌内野手(神戸国際大付高―神戸学院大)、土山翔生内野手(岡山理大付高―国学院大)、梅田健太郎投手(横浜隼人高―立正大)の新人3人が主力に名を連ね、清水智裕捕手(大垣日大高―中部大)も日本選手権2回戦で先発出場を果たすなど、即戦力ルーキーの躍動が目立った。
(左から)森川選手、梅田投手、土山選手
「スカウト」の肩書
そもそもヤマハが「スカウト」という肩書を設けて新戦力の獲得に奔走するようになったのは2023年、室田前監督のもとで申原直樹現監督がコーチを務めたころからという。
当時、コーチだった申原監督は会社から「どうしたら強くなるか」と問われ、「いい選手が入ってくることと、環境」と答えたという。
「環境が整えば、いい選手が入ってくる。ここでやりたいと思わせる環境と、いい選手が入ってくること、と話したら、それなら自分で選手をとってきなさいという話になったんです」
「スカウト」の肩書を与えられた申原監督(当時コーチ)が早速、現場に足を運び、獲得してきたのが今年のルーキーたちだ。申原監督が「これは」と思った選手に練習参加してもらい、他のコーチ陣の目を通して最終判断をした。
目に留まった森川の打撃
兵庫県出身で報徳学園高から中大に進んだ申原監督は関西、関東の両球界事情に明るい。「森川については、キャッチャーを探していた時に目に留まりました。2年生でキャプテンをやっていたんです。キャッチャーで3番を打っていてバッティングが良かった。関西六大学のレベルが上がっていて、いいピッチャーからも打てていた」
選ばれるチームに
実は、森川選手には不思議な巡り合わせがあった。東海地区の別のチームを含む、複数のチームから声が掛かっていた森川選手。都市対抗東海地区2次予選を観戦するため、岡崎レッドダイヤモンドスタジアムを訪れた時のこと、目的ではなかったヤマハの試合を見て、心を動かされたという。

「網谷さんがライトオーバーを打って逆転勝利した試合で、バッティングがすごいチームだなと思いました。自分はこのチームに合うんじゃないかなと。その時はまだ、ヤマハに声を掛けてもらっていなくて、こんなチームに行けたらいいなと思っていた時、申原さんから(大学の)監督を通じて『練習に来てみないか』と声を掛けられたんです」
期待通りの活躍
ルーキーイヤーから主軸を担い、都市対抗大会では2本の本塁打を放ち、日本選手権でも優秀選手に選ばれた森川選手。申原監督は「どこかで壁にぶち当たるんじゃないかと思ってましたが、今年については壁がなかった気がしますね」と称賛する。

森川選手も「1年目から本当にいい経験をさせてもらえた。来年は(自分の)弱いところも研究されると思うので、そこを打ってこそ本物。(ドラフトイヤーだが)まずはこのチームでもう一度、結果を出せるように頑張りたい」と意欲を新たにしている。
他チームとの競合
プロスカウトの目にかかるような名の知れた選手や、即戦力が見込まれる選手は、他の企業チームとも競合する。一般の学生と同様、大都市圏が所在地のチームの人気が高く、地方の不利は否めない。
(左から)絵鳩隆雄コーチ、嶋岡コーチ、申原監督
今年、スカウトの肩書を引き継いだ嶋岡孝太コーチ(鳥羽高―立命館大)は「いい選手と判断したら、すぐに(声をかけに)行くことにしています。1番に行くと印象も良かったりしますし、足を運ぶということで思いも伝わります」と話す。好循環を目指して
「関西(の学生)は関西(のチームに行きたい)、東京は東京ってなってしまうので、浜松のチームとしての難しさはあります。(今回の日本選手権のように)勝つと、そういう強いチームに行きたいと思ってくれる選手もいますので、この会社に行ったら勝てるしプロにも行けるということを示していきたい。いい選手が入って、プロに行って、またいい選手が入ってという循環を目指していきたいですね」
地元選手の活躍
ここ数年、地域に応援されるチームを目指して静岡県ゆかりの選手を積極的に採用してきたことも、地元での盛り上がりを呼んでいる。主将の大本拓海捕手(掛川西高―立命館大)をはじめ、水野匡貴投手(静岡高―明大)、相羽寛太内野手(静岡高)、沢山優介投手(掛川西高)、中田悠斗外野手(藤枝明誠高―中大)が今回の日本選手権でもベンチ入りした。

元プロの加入、スカウト強化、地元選手の採用とバランス良く、着実に進めてきた戦略的なチーム編成が実を結んでいる。
(編集局ニュースセンター・結城啓子)





































































