賃上げの波は本当にやってくる?!

「賃上げの波はやってくるのか?」というテーマで、経済・経営ジャーナリストの桑原晃弥さんにSBSアナウンサー原口大輝がお話を伺いました。
※2月9日にSBSラジオIPPOで放送したものを編集しています。

ユニクロの賃上げの意図と狙い

原口:ユニクロを運営するファーストリテイリングが賃上げを発表しました。この背景や狙いはどういったところにあるのでしょうか。

桑原:ファーストリテイリング自体は、社員の年間の平均給与が高いことで知られており、年齢や勤続年数を問わない完全実力主義の会社です。そのためインフレ対応としての賃上げとは目的が違ってきます。今でもそれなりに賃金が高いにも関わらず、さらに引き上げるというのは、日本国内での人材獲得競争に勝つことはもちろん、グーグルやアマゾンといったアメリカの巨大IT企業を含め幅広い分野から、優秀な人材を確保することが目的として伺えます。

同社は以前にも国内の正社員の給与を引き上げたり、昨年にはすでにパートやアルバイトの時給を引き上げています。新入社員の初任給を上げたり、新しく店長になる人の給料を10万円以上引き上げたりして、さらに人材競争に勝とうということだと思います。

原口:ユニクロが新入社員の初任給を30万円に引き上げ、というのは非常に羨ましい限りです。これも新しい競争に勝ち抜くための手段なんですね。

桑原:日本の給与は横並びのようなところがあります。初任給も実力主義に近づいていくファーストリテイリングの決断は、ほかの企業に大きな影響を与えると思います。

原口:賃上げを発表している企業は、ほかにもあるのですか。

桑原:第一生命は営業職や内勤職約5万人に対してペースアップを含めて5%程度の賃上げ実施を決めています。日本生命は7%、大和証券は約4%賃上げすることを表明、ソフトバンクも5.4%の賃上げを前提に最終調整を行っています。ほかにも三井住友銀行やアフラックは、新卒の初任給を25万5千円に引き上げるといっています。

賃金が上がるのは正社員だけでなく、東京ディズニーランドを運営するオリエンタルランドは平均7%賃上げと共にパートやアルバイトの時給を引き上げるそうです。そして40万人以上のパートを抱えるイオンも時給を平均7%引き上げると発表しています。春闘が進むにつれて、こういった動きが増えていくと思います。

日本の賃金と物価の関係

原口:これは今の日本の経済状況と関連あるのですか。

桑原:昨年からのロシアによるウクライナ侵攻以降、電気代やガス代などのエネルギー価格の上昇、それに伴って消費者物価も約30年ぶりに大幅上昇しており、かなり生活が厳しいと感じている人も多いと思います。昨年も賃金は上がっていますが、それ以上に物価も上がったので実質賃金は下がっているということになります。それ以前も賃金はなかなか上がりませんでしたが、物価もあまり上がらなかったので、やってこられたところはありました。今の日本は物価がどんどん上がっているのに、それに賃金が追いついていない厳しい状況です。

原口:日本の賃金は世界と比べたときにいかがですか。

桑原:OECD(経済協力開発機構)の2021年の調査では、34カ国中24位と非常に低い水準で、その順位も毎年のように落ちています。理由として、少子高齢化の進行や、なかなか成長しない国になりつつあること、またアメリカや中国に比べてもイノベーションが起こりにくく新しい産業が生まれにくいことが挙げられます。

原口:日本国内から優秀な人材を流出させず、逆に海外から日本に優秀な人材を確保するためにも、賃上げが必要になってきそうですね。この波は、我々の地方の中小企業まで広がっていきそうですか。

桑原:いくつかの調査の中で賃上げへの意欲は、労働者も経営者も高く、賃上げ率も25年ぶりの高水準になるのではないかと言われています。ただ、本当に地方の中小企業が引き上げられるかは、その企業の取引先が製品などへの価格転嫁を認めてくれるのか、それだけの余力があるのかどうかが重要だと思います。ただ、今回だけは厳しい中でもある程度は引き上げざるを得ない状況に企業も置かれています。

原口:あと1ヶ月ほどで就職活動も解禁します。賃上げが人材確保の重要なポイントになる日もやってきそうですね。

桑原:日本の企業は初任給も横並びのような風潮があったため、ファーストリテイリングのように初任給や給与を上げるような動きが出てくると、新卒の人も含めそちらに目がいってしまいますよね。企業にとっては、賃金が大体ほかも同じという状況から、いかに自分の会社の賃金や労働環境をよくしていくかが、人材確保の面で重要になってくると思います。

今回、お話をうかがったのは……桑原晃弥さん
広島県生まれ。慶応義塾大学卒。業界紙記者などを経てフリージャーナリストとして独立。トヨタ式の普及で有名な若松義人氏の会社の顧問としてトヨタ式の書籍の制作を主導。一方でIT企業の創業者や渋沢栄一など、起業家の研究をライフワークとしている。著書に『スティーブ・ジョブズ名語録』(PHP)、『トヨタ式「すぐやる人」になれる8つのすごい!仕事術』(笠倉出版社)など多数ある。

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