
食べられるのに捨てられてしまう食料→生活困窮者へ
牧野:あらためて「フードバンク」とは、どんな活動か教えてください。日詰:フードバンクは、安全に食べられるにもかかわらず、さまざまな理由で捨てられてしまう食料、具体的には包装が破損したり、印字ミスがあったり、在庫が過剰になったりしたものを企業や家庭などから寄贈していただいて、無料で生活困窮者に提供する活動のことをいいます。
牧野:最近いろいろなところで見かけるようになりましたね。そもそも、フードバンクが始まったきっかけについて教えてください。
日詰:1967年、アメリカ・アリゾナ州フェニックスに住むジョン・ヴァン・ヘンゲルさんが、近くのスーパーマーケットで食べられるにもかかわらず捨てられている食品があることを知り、「生活困窮者に提供したらどうか」と考えて、世界初のフードバンクを立ち上げました。
牧野:アメリカには多くのフードバンクがあるのでしょうか?
日詰:フードバンクと銘打っている団体は200を超えています。小さなコミュニティで食料を提供するところを合わせると、無数にあるといってもよいと思います。
日本、静岡のフードバンク

牧野:日本のフードバンクはいつごろから始まりましたか?
日詰:20年前に始まりました。現在は大小合わせて130を超えるフードバンクが活動しているといわれています。
牧野:静岡県にある「フードバンクふじのくに」ではどのような活動をしていますか。
日詰:家庭や企業から食料を寄贈していただき、それを生活に困っている方を支援している組織や団体に無償で提供しています。提供先は、市町の福祉課や社会福祉協議会、認定NPO法人、社会福祉法人、最近増えてきた子ども食堂などですね。生活困窮者個人へは、そのような組織や団体を通じて食料が行き渡るように手配しています。そのほか、災害時にはフードバンクの食料を被災地へ提供しています。
牧野:フードバンクの活動はSDGsの考えにもつながる部分がありますね。
日詰:そうですね。まだ食べられるのに捨てられてしまう食料を寄贈していただくことによって、食品ロスの削減にも貢献できると思っています。
個人でも協力できる「フードドライブ」
牧野:フードバンクと似た言葉で「フードドライブ」も聞きますね。日詰:「フードドライブ」は、フードバンクが実施している活動の一つです。家庭などで余っている食料を寄贈していただき、それを生活困窮者にお渡しする活動のことです。
牧野:最近「物価高騰の影響で、子育てをしているひとり親の半数以上が、米などの主食を買えない経験があった」という調査結果がありました。肉や魚が買えないことがあった人はひとり親の76%。これは想像以上に大きな数字ですね。
日詰:コロナ禍や最近の物価高によって、生活困窮者の方々が増えているという実感を持っています。静岡県内にもたくさんおられることを知っていただければと思います。
生活困窮者支援&食品ロス削減
牧野:今後、フードバンクの役割はますます大きくなっていくと思います。どんなところが大事だと考えますか。日詰:フードバンクには二つの側面があります。一つは、生活困窮者を食の面で支えていく。もう一つは、廃棄予定の食料を寄贈していただきますので、食品ロスの削減に一役買うと同時に、処分が必要なくなることで環境面での負荷を少なくすることもできます。その意味では、地球環境の保全にも貢献する活動だといえると思います。
オレンジ色ののぼり旗が目印

牧野:一般の方がフードドライブに参加する方法はありますか?
日詰:私たち「フードバンクふじのくに」では年2回(1月と8月、各1か月間)フードドライブを実施しています。私たちの活動に協賛してくださるスーパーマーケットなどにオレンジののぼり旗と食料寄贈ボックスを出しています。詳しくは「フードバンクふじのくに」のホームページでご確認ください。
牧野:これからの時期は、大掃除で家の中を整理する方も多いと思います。おうちの食品ストックを使い切れない方は、利用されるといいですよね。
日詰:少なくてもいいので、ご協力いただければと思います。
常温保存可・賞味期限まで2ないし3か月以上の食品を
牧野:寄贈する食料には条件がありますか?日詰:常温保存でき、賞味期限が2ないし3か月以上残っていて未開封の食品をお願いしたいと思います。
牧野:生鮮品はなじまないということですよね。
日詰:ほかの団体では受け付けているかもしれませんが、「フードバンクふじのくに」は設備がないため常温保存できる食品をお願いします。
牧野:承知しました。ありがとうございました!
今回、お話をうかがったのは……日詰一幸さん
1955年生。長野県出身。名古屋大学大学院法学研究科博士後期課程中途退学。名古屋音楽大学専任講師を経て、1996年静岡大学人文学部助教授。2000年より静岡大学人文学部教授(2012年学部名称変更により静岡大学人文社会科学部教授)。2014年よりフードバンクふじのくに理事長。また、2021年4月静岡大学学長に就任。専門は、行政学、地方自治論、NPO論など。