人生を楽しむヒントが詰まった「余暇図鑑」とは?
静岡大学と楽器メーカーのヤマハが共同開発したデジタル教材が注目を集めている。その名も「人生を楽しむための余暇図鑑」。これからのAI時代には、「余暇の過ごし方」が重要になるという。この取り組みの背景には、どのような思いが込められているのだろうか。
100人の社員の声から生まれた「余暇図鑑」

4月16日からインターネット上で公開が始まった「人生を楽しむための余暇図鑑」。このデジタル教材は、静岡大学とヤマハが共同で開発したものだ。
サイトには、ヤマハの社員約100人から聞き取った「余暇」の楽しみ方が掲載されている。単なる趣味の一覧ではなく、どんな人がどのように趣味と向き合っているのか、詳しく紹介されている。自分に置き換えて想像しやすいよう工夫が施されているのが特徴だ。
ヤマハ研究開発統括部の飯塚茜さんは、自身の余暇の楽しみ方についてこう語る。「舞台演劇をやります。演じるところから始めて、いまは演出や音響、大道具まで」。そして、その始まりについて「たまたま見つけたチラシを見て始めました」と話す。
キャリア教育の新たな形

教材を作った狙いは、キャリア教育の転換にある。静岡大学教育学部の塩田真吾准教授は、AIやロボットが活躍する時代だからこそ、子どもたちのライフキャリア教育が重要になると指摘する。
「AIやロボットによって仕事内容や時間が変化(=縮小)する」と塩田准教授は予測する。そして、従来の教育のあり方に新たな提案を投げかける。「学校はどちらかというと『どういう仕事に就きたいですか』ということをずっとやってきた。幼いうちから『将来の夢って何ですか』、その『夢』って大体『仕事』になっていて。でも、これからの時代は、キャリア=仕事だけでいいの?っていうのもちゃんと学校で扱っていかなくてはいけない」
高校生の余暇の現状

静岡大学の塩田研究室が2023年に静岡県内の高校生454人を対象に行った調査(複数回答)によると、今後、仕事よりも自分の余暇にかける時間が多くなっていくと予想される中で、高校生の余暇の過ごし方には偏りが見られた。
YouTubeやTikTokといった「動画鑑賞」が約9割、インスタグラムなどのSNSの更新・閲覧が約7割、スマホゲームが約7割弱と、スマートフォン1台で完結できる回答が多く寄せられた。塩田准教授は、子どもの余暇の捉え方が狭いのではないかと分析。人生を楽しむ教育や教材の必要性を感じたという。
「余暇図鑑」の可能性
この「余暇図鑑」を活用した取り組みとして、3月、静岡市内の中学校で試験的な授業が行われた。生徒たちが熱心に画面を操作する姿が印象的だ。
塩田准教授は「余暇図鑑」の意義についてこう語る。「人生の選択の中で、幅広い選択を持てる、そのきっかけになってほしい」
今後は、他の企業で働く人の余暇も追加し、図鑑をさらに充実させていく予定だ。
新しい時代の「生き方」を考える

「人生を楽しむための余暇図鑑」は、単なる趣味の紹介にとどまらない。それは、これからの時代を生きる子どもたちに、新しい視点を提供する試みだ。
仕事だけでなく、人生をどう楽しむかを考えることの大切さ。そして、その選択肢の広さを知ること。この「余暇図鑑」は、AIやロボットの時代に向けた、新しいキャリア教育の形を示唆している。
子どもたちが将来、どんな人生を選択するのか。その可能性を広げる一助となることが期待される「余暇図鑑」。今後の展開に注目が集まっている。