暖かくなり、散歩がしやすい季節になりました。この春は雑草に目を向けてみませんか。身近な雑草を観察すると、見慣れた道が違った景色に見えてきます。
※この記事はシミズ毎日2025年3月23日発行号を一部再編集し、掲載しています。
雑草について話を伺ったのは、静岡大学農学部の稲垣栄洋教授と研究室の学生のみなさん。今回は清水を飛び出し、静岡大学の藤枝フィールド(藤枝市仮宿)で雑草について教えていただきました。
広大な藤枝フィールド
藤枝フィールドはなだらかな丘陵地帯に広がっています
藤枝フィールドは、静岡大学が管理する研究施設。東京ドーム3個分の面積と言われる敷地には、水田や茶園、畑、果樹園などがあります。
稲垣さんの研究室では「雑草生態の解明」「雑草の防除方法の開発」「雑草の利用法」を研究しています。
藤枝フィールドの茶園。稲垣さんは茶畑の雑草研究にも力を入れています
研究室では草刈りロボットの開発を行っています
温室で雑草を育てている稲垣さんたちは「種から育てるのは大変」と話します。雑草は、勝手にどんどん生えてくるイメージですが、発芽のタイミングを計っているため、人間の計画どおりに芽は出ないといいます。
温室で育てている雑草
雑草って強い?弱い?
「雑草魂」という言葉があるように、時に逞しさの象徴とされる雑草。稲垣さんによると、雑草は植物同士の競争では弱い存在だそうです。そのため、自分より強い植物が好まない、人間に踏まれる道端や草取りされる畑などを選びます。雑草は弱いからこそ、予測不能な環境で生き残る戦略を持っています。
踏まれることで種子を拡散させるオオバコ
雑草を意識して観察すると、場所によって生えている種類が違うことに気付きます。例えば、道沿いやグラウンドで見かけるオオバコ。硬さと柔らかさを併せ持ち、踏まれることに強い性質を持っています。オオバコの種子にはゼリー状の物質がついていて、水に濡れると膨張しネバネバとくっ付きます。それが靴の裏や車のタイヤにくっ付いて遠くまで種子が運ばれます。オオバコは、踏まれる逆境を利用し子孫を残しているのです。
旅行先でも雑草に注目しよう
稲垣さんと研究室のみなさん。(左から)中田開之さん、バングラディッシュからの留学生・ゴシャミ・ゴラチャドさん、稲垣さん、瀧田萌さん、稲子莉奈さん
研究室のみなさんは、旅行に行ってもつい見てしまうのが足元の雑草だそう。静岡県は温暖な場所に生える雑草が多く、寒冷地を旅行すると静岡では見かけない雑草を発見することも。旅行先の雑草に注目すれば、旅の楽しさが2倍になるかも!?
春の雑草を観察しよう
春に見かける雑草、「ホトケノザ」と「ナズナ」。同じ春に咲く雑草でも生存戦略は全く異なります。2種類の雑草の不思議な生態を紹介します。
蜜はハチだけに吸ってほしい~ホトケノザ~
アブやハエは上の花びらにとまってしまい、蜜を発見できません
「ホトケノザ」と聞くと春の七草を思い浮かべる人も多いのでは。春の七草の「ほとけのざ」はキク科の別種で「コオニタビラコ」という植物。今回紹介するのはシソ科のホトケノザです。ホトケノザは、上唇と下唇が開いたような変わった形の花を咲かせます。この形にはある理由が…。
それは花粉を運ぶハチを引き寄せるため。ホトケノザは、花の一番深いところにたっぷりと蜜を隠しています。ホトケノザにとっては蜜を目当てに他の虫が集まっても困ります。あくまで来てほしいのは、花粉を遠くまで運んでくれるハチだけ。そこでホトケノザは虫の能力テストを実施します。花びらを観察すると、下の花びらには模様があるのが分かります。この模様がハチに「ここに止まりなさい」というサインになっています。このサインの意味を理解できないアブやハエなどは、花の上側に止まります。蜜がある花の入り口を探し回っても見つけることができず、やがて諦めて飛び去ってしまいます。
全滅は避けたい。だらだらと生えてくる~ナズナ~
ナズナはハートのような形をした実の中にタネが入っています
「ぺんぺん草」の呼び名で知られるナズナ。雑草の中ではあまり強くありません。そのため、ナズナは発芽時期をあえてずらす戦略を考えました。一斉に芽を出すと草取りや防除剤、または環境の厳しさで全滅するリスクがあるからです。ナズナは土の中で種子が休眠し、発芽のタイミングをずらしています。土の中で発芽のチャンスを待つ種子の集団を「シードバンク(種子の銀行)」と呼びます。冬は葉っぱを放射状に重ねて地面に張り付け、冷たい風が当たらないようにし冬を乗り切ります。同時に広げた葉で光合成をして冬の間に栄養を蓄えます。そうすることで、春に早く花を咲かせ、花粉を運ぶ虫を独占できるのです。
見た目から雑草を好きになるのもあり!
雑草観察を始めたいけど、どの雑草を観察するか迷ってしまう…。そんな方は、花の可愛らしさを基準に探すのもおすすめ。青や黄色、白と雑草の花々も色とりどりです。レンゲの有効利用の研究をする瀧田萌さんは「レンゲやホトケノザのように小さい花が群生している雑草が可愛くて好き」と話します。可憐な花もあれば、存在感のある花を咲かせる雑草もあります。雑草散歩で自分の推しを見つけませんか。