
菊川市のフォトスタジオ「スタジオワン福田」では、昨年末からビデオのダビング依頼が増え始めた。「以前は月にゼロか数本だったが、今では数十本から百本近い。1人で20~30本を持ち込むお客さまもいる」。福田紘一社長(45)は注文の急増を受け、店内で自ら行っていたダビング作業を専門業者への外注に切り替えた。
家族旅行、子どものピアノ発表会、地域の祭り…。ビデオテープには家族の思い出を記録した映像が多いほか、「何が入っているか分からない」と相談に訪れるケースも。ビデオ全盛期の90年代に撮影したテープもあり、古くなればカビの発生やテープの損傷など故障も多くなる。福田社長は「修理もするが、難しくなることもある。ダビングできる状態で早めに持ってきてほしい」と語る。
カメラのキタムラ静岡・石田店(静岡市駿河区)も24年後半から受注が増え、約1カ月だったDVDの納期は3カ月程度に延びた。同社の広報担当者によると「ダビング注文は前年比2桁伸びが続いている」とし、全国数カ所の専門工場にビデオテープを集約して作業を進める。同店の清水朗拓店長は「思い出の記録が時間とともに失われてしまう。今のうちにデータ化を」と呼びかける。
結成60周年を迎えた湖西市新居町の8ミリカメラ愛好会「八ちゃん会」は、撮りためたフィルム映像のDVD化を急ぐ。1964年の東京五輪聖火リレー、50年以上前の新居の町並みなど貴重な記録の数々。メンバーの鈴木芳朗さん(90)はデジタル保存に合わせ、視聴時間を短縮したダイジェスト版への編集にも取り組む。「次世代の人が見やすい形で残したい」と郷土の歴史を未来に引き継ぐ。
■図書館も資料ダビングの動き
郷土資料などを貸し出す図書館も映像のデジタル保存は重要課題。県立中央図書館(静岡市)は2023年度、約5千本のビデオテープから県内に関わる約670本を選んでDVDにダビングした。地震対策や幼児教育、県内各市町が作成した地域の紹介映像などさまざまで、担当者は「県民の貴重な財産。未来に残したい」と語る。
ただ、DVDの貸し出し、視聴には著作権の許諾を得る必要があり、新館への移転に伴う作業を進める中で「映像の利用は早くても数年後になりそう」。現在は書誌の作成に加え、テーマやジャンルを識別する請求記号とバーコード番号をディスクに記入し、タイトルのシールをケースに貼り付ける手作業を進める。ビデオテープの貸し出しは今後も継続する。
市町図書館では、コスト負担も大きくDVDへのデータ変換は進んでいない。県東部の市立図書館では地域資料を保存する必要性を感じるものの、「やり方については未定」。西部の図書館は「現時点で検討の予定もない」という。
<メモ>1980~90年代に流通の最盛期を迎えたビデオテープの耐用年数は20~30年程度とされ、再生機器のビデオデッキは2016年に製造が終了した。磁気テープの劣化などにより視聴、複製、保存が困難になるとし、国連教育科学文化機関(ユネスコ)は25年までにデジタルデータへ移行しなければ映像が失われるリスクを警告する。ビデオテープの「2025年問題」とされ、フォトスタジオや家電量販店などではDVDへのダビング注文を受け付けている。