遠州織物の生地を織る際にどうしても出てしまう端材が、クリエイターから注目を集めています。これまで捨てられていたものが素材として使われ、伝統産業を伝える役割も担っています。
リズミカルな音と共に昔ながらの機械でつくられる遠州織物。創業77年の織元、静岡県牧之原市の榛地織物です。染色した糸から、厚みや柄の違うさまざまな生地を生産し、作務衣や甚平などを販売しています。
<榛地織物 榛地研一さん>
「(先に染めた糸を使うことで)色持ちもいいので、経年変化も楽しめる。風合いよく使いこむことでなじんでくるという特徴がある」
遠州織物は、アメリカやヨーロッパのアパレルブランドが買い付けて商品化するなど国内外で高く評価されています。一方で、織る際にどうしても出てしまうのが織機から生地を外す際に生じる、繊維のくずです。「布耳」と呼ばれています。
<榛地織物 榛地さん>
「きょう稼働している機械が10台ぐらい。これだけの種類ができる。織機によって糸の色や柄、太さが違うのでこれだけできる」
遠州織物の組合では全体で年間約1万4400キロメートルもの布耳が発生します。処分にかかる費用はこれまで織元が自分たちで出していました。その現状を変えようと、組合は手作りの雑貨などを売り買いできるサイト「Creema」で、布耳の販売を始めました。
<遠州織物工業協同組合 松尾耕作事務局長>
「何か利用できる方法はないかと我々も考えて、我々のところで何か製品を作る技術はありませんので、こういったものを世間に広げるために、何か使えないかというもので始めた」
「Creema」に登録する、クリエイターの数は、約29万人。捨てられていた布耳は多くの人の目にとまり、アクセサリーやバッグなどの素材として活用されるようになりました。
<クリーマ広報 松永紗希さん>
「この世には、価値があるのに見つけられていないものがある。その一つとして、遠州織物の布耳がこうやって光を浴びたことはうれしい結果。遠州織物や布耳が人気な理由はSDGsだからとかそういうことではなくて、本当に素材が良いものだったからということで、ここまで反響をいただいているんだと思う」
布耳には素材としての価値がある。布耳を活用したワークショップでは、ジュビロ磐田などとコラボレーション。リースづくり体験など多くの人が遠州織物に触れるきっかけになっています。
遠州織物発祥の地とされる浜松市の初生衣神社です。組合は伝統産業の発展を願い、売り上げの一部を神社に寄付しています。
<榛地織物 榛地さん>
「生産現場で出た耳糸が勿体ない、捨てられるものを再利用だけでなくて、遠州というところに産地があってつくられている織物があるということを認識してもらえれば幸いです」