【「第1回しずおか映画祭」初日第1部】2年半前にミニシアターで鑑賞した『PERFECT DAYS』をキャパ1500の会場で見ると

静岡県のアートやカルチャーに関するコラム。今回は5月23日に静岡市清水区の清水文化会館マリナートで開幕した「第1回しずおか映画祭」の初日を題材に。同映画祭は24日まで。
(文と写真=論説委員・橋爪充 写真〈トーク〉=教育文化部・岡本妙)

沼津市出身の俳優磯村勇斗さんが主導する「しずおか映画祭」が始まった。開幕プログラムには静岡市とカンヌ市の姉妹都市提携にあやかり、第76回カンヌ国際映画祭で役所広司さんが男優賞を得た『PERFECT DAYS』をセレクト。役所さんもゲストとして登壇し、磯村さんや映画パーソナリティーの伊藤さとりさんとトークを繰り広げた。

筆者が本作を見るのは2回目。静岡市葵区の静岡シネ・ギャラリーの記録によると、『PERFECT DAYS』は2023年12月22日から2024年1月11日までの上映だった。この間に鑑賞したようだ。多くの人と同じように、ルー・リードやパティ・スミス、ヴァン・モリソンらの音楽、ラストシーンの長回しにすっかり心を持って行かれた記憶がある。

静岡シネ・ギャラリーは2室とも50席ほど。筆者が見た時は大勢の人がいたが、満席ではなかった。だから、しずおか映画祭で上映が決まった時に「これは個人的な焦点だな」と思ったのは、キャパ1500を誇るマリナート大ホールで『PERFECT DAYS』がどう見えるのか、だった。これだけ多くの人と映画を見る、というのは生まれてこの方、経験がない。

上映後にトークを繰り広げる役所広司さん(左)と磯村勇斗さん


1500人が一斉に暗闇に体を浸し、スクリーンに目を向ける。マスコミ用に用意されたバルコニー席から、客席の「集中」がはっきり伝わる。『PERFECT DAYS』は極端にせりふが少ないので、鳥や車といった都市の自然音が、やわらかくホールの空間に広がる。客席全体が呼吸し、音を抱き留めているような感覚。

時折、さわさわと笑いが漏れる。森の木々のざわめきに似ている。役所さんが演じるトイレ清掃員が通う浅草地下の居酒屋でのやりとり、家出してきためいを連れて銭湯を出る際の老人たちの反応…。ちょっとしたほほ笑みでも、1500人のそれが重なると「音」になるのだ。これは発見だった。

居酒屋のママ役で石川さゆりさんが出てきたときは、「フッ」と息をのむ音が聞こえた。客としてカウンターにいたあがた森魚さんがギターを弾き、歌い始める石川さん。客席内の熱が確かに高まっていた。

ラストシーン、そしてエンドクレジットが終わった後の拍手は「圧」を感じるほど。そういえば映画館ではこんなことをしないな。気付いたのは少し後だった。

トークでは、昨年亡くなった原田眞人監督の話題も取り上げた


上映会場が大きくても『PERFECT DAYS』は最初に見た時の『PERFECT DAYS』そのままだった。優しさと、心に秘めた寂しさと、自分の幸せを冷静に見つめる賢さと、ちょっとしたユーモア。四つが絶妙なバランスでブレンドされている。スクリーンや席数が巨大化しているのに、印象は変わらない。これこそが本作の真価なのだろう。

静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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