【俳優磯村勇斗さん(沼津市出身)インタビュー】5月に「第1回しずおか映画祭」。実行委員会代表として語る映画祭の意義、映画との関わり

5月下旬に静岡市内で開催する「第1回しずおか映画祭」の実行委員会代表を務める俳優磯村勇斗さん(沼津市出身)。2024年、沼津市で行ったプレイベントには延べ約3000人が詰めかけた。手応えを得て、いよいよ本格的にプロジェクトを稼働する。映画祭を企画した真意、方向性とともに「俳優磯村勇斗」を形作った「映画体験」について話を聞いた。
(文=論説委員・橋爪充 写真=写真部・小糸恵介〈磯村さん〉)

大人数で同じ映画を見る時間の大切さ

-5月23、24日に静岡市で「しずおか映画祭」を開催します。企画の意図、意義についてどう考えていますか。

磯村:まず、静岡が大好きというのがベースにあります。 18年間沼津で過ごし、沼津演劇研究所の皆さん、 50代から 70代までの皆さんにお芝居を教えていただきました。今、東京で役者の活動をやっていますが、あの時学んだことが今に生きている。そこで「恩返し」というか、自分が静岡にできることはなんだろうと考えたんです。

-それで、映画祭という形にたどり着いたわけですね。

磯村:自分は役者をやっているので、「映画祭」という機会をつくって地元の皆さんと触れ合う時間ができたらいいと思いました。近年、サブスク(配信サービス)が発達して、映画館でみんな一緒に映画を見るという時間が限られていることも頭にありました。映画館、ホールといったスクリーンがある場所で、何百人何千人の人たちが同じ映画を見る時間を共有することはとても大切。そう感じたのも理由の一つです。

-上映とトークを組み合わせる形ですね。

磯村:コンペ方式の映画祭は他にもありますから。しずおか映画祭は、上映後に出演者、監督といったゲストを招く形にすることで、まず映画に対しての興味を持っていただきたいと考えているんです。もともと映画が好きな人にも喜んでいただけると思うんですが、「導入」に当たるものが必要だろうという考え方です。

-映画祭の企画として、3月には小学生対象の映画のワークショップも行いました。

磯村:子どもたちのきっかけを作る映画祭でもありたいと思っています。ワークショップで撮った映画は、実際に映画館で上映します。自分は子どもの頃にいろいろ映画を見て、世界を学んできました。映画と共に育ったと言えるでしょう。これから静岡で大きくなっていく子どもたちにも、映画に触れる時間を提供したい。

-しずおか映画祭を「旅する映画祭」と説明しています。

磯村:静岡県全域を巻き込むために、東部中部西部の3地域を巡る形で毎年開催します。「旅」をしながらの開催というのは、ほかの映画祭ではやっていないので、オリジナリティーがあると思います。

-2024年11月に沼津市でプレ開催という位置づけの「しずおか映画祭」がありましたね。地元出身の原田眞人監督の『わが母の記』上映とトークもあり、延べ約3000人が来場しました。振り返ってみて、いかがですか。

磯村:開催してよかったと率直に思っています。多くのゲストにお越しいただき、映画を通じて沼津が一つになったような感覚がありました。終了後に地元の皆さんから「ありがとう」「楽しかった」といった言葉をいただき、映画祭は続けないとダメだなと強く思ったんです。それが「第1回」につながっていくわけです。

静岡市とカンヌ市の関係を考えた

-今年の映画祭の話に移ります。5月23日午前の第1部ではヴィム・ヴェンダース監督『PERFECT DAYS』を上映します。2023年の仏カンヌ国際映画祭で主演の役所広司さんが男優賞に選ばれていて、2024年の第96回アカデミー賞では国際長編映画賞部門候補に入りました。しずおか映画祭にこの作品を選んだのはどうしてですか。

磯村:静岡市での開催なので、姉妹都市のカンヌ市、カンヌ国際映画祭との親和性が頭にありました。『PERFECT DAYS』は第一候補でした。もちろんミニシアターにもマッチする作品ですが、マリナートの客席1500人に届ける映画としても上映に値すると思います。

-どんな映画でしょうか。

磯村:どんな世代が見ても何かが感じられる、心温まる作品です。東京の公園のトイレ清掃員という、自分たちが普段目にしているだろうけれど、どんな生活しているかを考えたこともなかった人たちの物語を描いています。ヴェンダース監督の着眼点がすごく面白いですね。「いろんな視点を持っていい」という捉え方ができる。そんな点も映画祭にふさわしいと思います。

-磯村さんの「1500人に届ける映画」という言葉にハッとさせられましたが、かなり大きなスクリーンでの上映になりますね。木漏れ日の場面など、美しさが際立つように思います。

磯村:ラストの役所さんの顔も見どころですね。

-当日は上映後に役所広司さんが登壇し、磯村さんとトークを繰り広げます。

磯村:(2024年の)プレ開催の時、『わが母の記』に主演されていた縁で役所さんからビデオメッセージをいただいたんです。今回は第1回ということで「是非会場に来ていただきたい」とオファーしたところ、即答で「行くよ」とおっしゃってくださいました。

-お二人は2024年の『八犬伝』で初共演しています。磯村さんにとって役所さんはどんな存在でしょうか。

磯村:包み込むようなものがありますね。役者としてのストイックさに惹かれました。全部のシーンに対して、自分の中にあるもの全てを投入する。絶対にスキルだけでやろうとしないんです。やろうと思えばやれるのでしょうが。あんな風に年をとりたいと思いました。人として、役者さんとして本当に尊敬できる方です。

-当日はお二人で話をする形式になりますか。

磯村:前回も司会をやってくださった(映画パーソナリティーの)伊藤さとりさんと3人で話をしていく形です。どんなことを聞こうかと、いろいろ考えています。ありきたりなことは聞きたくないので。

-23日の午後、第2部は2025年12月8日に亡くなった原田眞人監督の追悼の意味を込めて『駆込み女と駆出し男』(2015 年)の上映と、出演の戸田恵梨香さんとのゲストトークが予定されています。原田監督は沼津出身ですから、磯村さんと同郷ですね。

磯村:そうですね。お会いしたのは(2024年の)プレ開催が初めてだったんです。ようやく会うことができて、ステージ上で「次の作品はぜひ一緒にやりましょう」と話していたんです。その夢は叶わなかったので悔しさは残りつつ、とても素敵な監督が沼津にいたという点で、同じ沼津出身者としてすごく光栄ですね。

2024年11月、沼津市でのプレ開催では原田眞人監督(左)をトークゲストに招いた

映画館の中は「宝箱」のよう

-磯村さんにとっての映画の原風景のようなものをうかがいます。中高生の頃、映画館は身近な存在でしたか。

磯村:(JR沼津駅北口の)BiVi沼津のシネマサンシャインが閉館してしまいましたが、僕が小学校の頃は、駅の南に映画館が 2館ありました。父親に連れていってもらったし、友達と一緒に見たりもしていた。映画館は当たり前に街にあるものだという認識だっただけに、減っていくことに寂しさがあります。

-磯村少年にとって、映画館はどんな場所でしたか。

磯村:映画に行く日は、朝起きた時からワクワクしていました。映画館は落ち着く空間で、これから新たな出会いがあると考えると、まるで自分が宝箱の中にいるような気分になりましたね。

-印象に残る映画はありますか。

磯村:初めて父親と見に行ったのが、多分『猿の惑星』シリーズだったと思います。雨の日のレイトショーかなんかで、お客さんは5、6人でした。

-中学生の時に映画を自主制作しています。どんな映画だったんですか。

磯村:『ヌマヅの少女ハイジ』というタイトルでした。僕が通う中学校にハイジとペーターがやってきて、クララもいて。クララは日本の医療のおかげで立てるようになっている。そんなところから物語がスタートしますが、クララがいじめられてスイスに帰ってしまうんですね。そこでみんなでスイスまで行って、(クララを)日本に引き戻す。

-壮大なストーリーですね。

磯村:ブルーバックで撮影して、映像を加工したりもしていました。父に編集の方法を教えてもらって。7人ぐらいの仲間で作りました。

-自分で映画を作った経験は、仕事として映画に関わるきっかけになりましたか。

磯村:出来上がった作品を全校生徒の前で上映したんです。そうしたら終了後、みんなから大きな拍手をもらった。その時「俺、これを仕事にしよう」と思ったんですよね。明確にその瞬間は覚えています。自分の中で何かが動いた、雷が落ちたような感覚でした。

-当初は作り手を目指していたということでしょうか。

磯村:当時は映画監督になりたかったんですよ。高校に入ってからもいろいろ撮ったりしていました。ただ、どこかのタイミングで役者をやってみたいと急に思い始めて。好奇心が旺盛で目立ちたがり屋だったからでしょう。それで(沼津の)劇団に入ったんです。

直感を信じて脚本を選ぶ

-磯村さんはさまざまなジャンルの映画に出ていて、特にここ5年ぐらいは出演作に「ハズレ」がないという印象です。2024年に静岡市で開かれた佐津川愛美さん(静岡市出身)の映画祭のゲストとして出演されたときに、作品選びについて「直感なんだけど、やっぱり脚本が比べる上で一番フェアだから重視している」発言していました。今もそれは変わりないですか。

磯村:そこはずっと変わらないですね。「直感」は非常に抽象的で、なかなか受け取りが難しいでしょうが、その直感も日々変化しているし、自分の成長や年齢とともに変わっています。自分が世の中、社会に感じていることが台本とマッチしているのか、あるいはマッチしていないのか。作家のクリエーティブ性が今時なのか、古典的なのか。ざっくり言うとそのようなところです。ヒットしそうかどうかではなくて、(脚本の)作家性が直感的にどうか、という話ですね。

-近作についてもうかがいます。静岡では5月1日に浜松市のシネマイーラで上映が始まる「結局珈琲」は55分の短い作品です。監督の細井じゅんさんが静岡の方ですが、そうした縁もあっての出演だったのでしょうか。

磯村:それは関係なくでした。(東京・)下北沢に実在する喫茶店「こはぜ珈琲」が舞台になっているんですが、僕が下北に住んでた時によく行っていたんです。店長さんとも知り合いで、下北を離れてからもちょこちょこコーヒーを買いに行っていました。この映画は、店の移転がきっかけになったプロジェクト。こはぜ珈琲が好きな役者さんに声がかかって、僕にもお話がきた。「協力します。出たいです」と言いました。

映画『結局珈琲』の一場面

-作品の大小は関係ないところが磯村さんらしいですね。

磯村:そういうのも好きなんです。何でもかんでも出るわけではないですが、繋がりが面白いなと思ったら(映画の規模が)小さいか大きいかは関係なくなります。

-今年の秋公開の吉田恵輔監督『mentor』の主演も発表されています。吉田監督は前作の石原さとみさん主演『ミッシング』を沼津でロケ撮影されています(『mentor』も県東部でエキストラ募集している)。吉田監督の作品のどんな点に魅力を感じるでしょうか。

磯村:本当に褒め言葉なんですが、一言で言うと変な監督なんですよね。ご自分の作家性をとても大事にしていらっしゃるし、そこに参加したいスタッフさんも多い。明らかな吉田ワールドがありますね。「人間のそういうところを切り取るんだ」という上手さですね。「そういうのはやめてください」と言われがちなところをむしろ撮りたいという。人間のノイズのようなものをとても好む方ですね。作品を見ているとどこか笑えるし、時にそれがえぐられるような感覚にもなる。そういう監督はあまりいません。

-最後にしずおか映画祭の未来について、どのように思い描いているかを聞かせていただけますか。

磯村:まずは 10回、つまり10年続けるのが目標です。地元の皆さんと一緒に作り上げていきたい。自分がもっと地元に足を運んで皆さんとコミュニケーションを取って、その輪を広げていく 10年にしたいと思っています。毎年「次の映画祭は誰が来るんだろうね」「どんな映画祭になるんだろうね」と街中で話が出る規模に成長させたいです。それ以後は国際映画祭として発展できるように。今から準備をしていきます。

<DATA>
■第1回しずおか映画祭
▽企画 磯村勇斗
▽主催 「しずおか映画祭」実行委員会(https://shizuokaeigasai.jp)

▽5月23日(土)
会場:静岡市清水文化会館マリナート(静岡市清水区島崎町214)
第1部(開場午前10時、開演10時半)
『PERFECT DAYS』(2023年、ヴィム・ヴェンダース監督)の上映と、同作主演の役所広司さんを迎えたトークショー
第2部(開場午後3時、開演3時半)
原田眞人監督への感謝を込めた『駆込み女と駆出し男』(2015 年、原田監督)の特別追悼上映と、同作出演の戸田恵梨香さんを迎えたトークショー

▽5月24日(日)
会場:静岡市内の映画館
第1部、第2部 内容、時間など近日発表

▽23日第2部のチケットは4月29日午後6時にチケットぴあで発売開始。料金は3300 円、お土産付き。

静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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