【静岡県内ミニシアター 年末年始の「特出し」!(上) シネマイーラ(浜松市中央区)】1985年の押井守監督「天使のたまご」は「大人の鑑賞に耐えうる」アニメの走り

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。静岡県内の三つのミニシアターを訪ね、年末年始の上映作品から担当者が「これぞ!」と思う2本を選んでもらいました。不定期連載第1回に登場するのはシネマイーラ(浜松市中央区)の本多行彦社長。




天使のたまご 4Kリマスター


シネマイーラでは2026年1月2日から8日まで上映。原案・脚本・監督を「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」の押井守(熱海市)、原案・アートディレクションをゲーム「ファイナルファンタジー」シリーズの天野喜孝(静岡市出身)が組んだアニメ。1985年にOVAとして発表された作品を、押井監督自身が監修して4Kリマスター化した。たまごを守る少女と、鳥を探す少年が廃墟のような街を巡りながら言葉を交わす。ふたりの間にはほのかな共感が芽生えたかに見えたが―。

(本多さんコメント)
発表から40 年の時を超えての上映です。機動戦士ガンダムを契機にアニメブームが盛り上がって、各種専門誌が発刊された時期。当時のアニメは今のように市民権を得たジャンルではなく、いわゆるオタク的な人たちのもの、というイメージだったんですよね。アニメと言えばロボットで、子ども向けだと思われていた。

ところが1980年代半ばごろから大人の鑑賞に耐えうるアニメも出てくるんですね。「天使のたまご」はその走りだと思います。今回は画質が良くなっているしオーディオも 5.1 チャンネルで作り直しています。音響効果を感じられる映画館で見てこそ楽しめる作品ではないでしょうか。

押井さんは今や巨匠ですが、これは監督デビューから間もない頃の作品。彼の原点と言えるかも知れませんね。

 

モンテ・クリスト伯


シネマイーラでは2025年12月26日から2026年1月8日まで上映。マチュー・デラポルト、アレクサンドル・ド・ラ・パトリエールが共同で監督・脚本。ピエール・ニネ主演。文豪アレクサンドル・デュマが執筆した小説「巌窟王」を新たに映画化。ロマンス、サスペンス、アクションの枠を超えた「究極の人間ドラマ」として「復讐劇」を描く。「イヴ・サンローラン」などに出演したピエール・ニネが、数奇な運命を背負った男を優雅かつ繊細に演じる。

(本多さんのコメント)
19世紀、復讐を誓う男の話。日本でもそういう話は好まれますね。とにかく重厚な作品で、セット、衣装がすごい。近年こうした(歴史ものの)映画は人気がなかったようにも思いますが、この作品はフランス国内で940万人を動員したといいます。

無実の罪に問われた主人公の、復讐心に追い立てられての行動は、日本人にとって「あだ討ち物」に近いドラマとして身近に感じられるのではないでしょうか。血なまぐささやドロドロした情念より、場面一つ一つの美しさに目を奪われます。

「巌窟王」の名で児童文学としても親しまれています。多くの方が筋書きをご存じではないですよね。そういう意味では、この先何が起こるかは分かっている映画。その中でどういう表現をするのかを楽しむ。「見る安心感」のある作品ですね。



<DATA>
■シネマイーラ
住所:浜松市 中央区田町315-34
電話番号: 053(489)5539
Email:cinemae_ra@ivy.ocn.ne.jp
現在の上映作品:
パメラ・ホーガン監督「女性の休日」
ターセム・シン監督「落下の王国」( 4Kデジタルリマスター)
トッド・コマーニキ監督「ボンヘッファー ヒトラーを暗殺しようとした牧師」
ジュアン・ジンシェン監督「ひとつの机、ふたつの制服」 
松居大悟監督「ミーツ・ザ・ワールド」
竹馬靖具監督「そこにきみはいて」

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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