【「FUJI&SUN’26」初日リポート 】柴田聡子、田島貴男、ハンバート ハンバート、くるり…。三つの会場で目撃した全10アクト

静岡県のアートやカルチャーに関するコラム。今回は6月6~7日に富士市の「富士山こどもの国」で開かれた野外フェスティバル「FUJI&SUN'26」の初日の模様をリポートする。同フェスは2019年の第1回から数えて7回目の開催(2020年は中止)。今年は2日間で過去最大の約1万人(主催者発表)が来場した(文中、敬称略)。
(文=高度専門記者兼論説委員・橋爪充)

午前10時半、黄色とだいだいを基調にした今年の大ステージ「SUN STAGE」に、地元で翌週6月13、14の両日開催される「吉原祇園祭」の担い手の若衆10人が登場。太鼓や笛、鉦(かね)をにぎやかに鳴らして「FUJI&SUN'26」の開幕を告げた。空は雲で覆われているものの、天気予報によると雨の心配はほとんどない。空気は澄み切って冷涼。絶好の「野外フェス日和」である。


まずはすり鉢状の小ステージ「STONE CIRCLE」へ。昨年と同じ時間帯に静岡県出身のDJ、HALが出演していた。今年は「HAL&Baku」名義で3時間超のロングセット。Bakuも本県出身とのことで注目していたが、冒頭1時間ほどの観覧にとどまったため姿を確認することはできずじまい。残念だ。

(c)FUJI&SUN’26

昨年のHALはアフリカ系のパーカッションのループが心地よかったが、今年も筆者が耳を傾けた時間帯はそんなパートだった。浮遊感のあるシンセの音や、中南米系の歌曲、琴の響きなどをスタイリッシュに混ぜ込んだ。ジャズ系の管楽器も耳に残った。聴いているうちに、地球儀にあちこち旗を立てる映像が浮かんできた。

中ステージ「MOON STAGE」の一番手はYOUR SONG IS GOOD。「初めてのFUJI & SUN。よろしくお願いします」という冒頭のMCに少し驚く。県内の野外フェスでたびたび目にしているからだ。富士山こどもの国は初登場だったか。

(c)FUJI&SUN’26

編成にも驚きがあった。彼らのことを7人グループとして認識していたがステージ上には4人。タイムテーブルをよく見ると「CHILL&DUB」と書いてある。キーボーディストのイトウ“JxJx”ジュンを中心に、ベース、ギター、トロンボーンの編成で、リズムボックスがビートを刻む。

隙間が多い、残響たっぷりのアンサンブルだった。レゲエ、ラバーズロック的な楽曲が中心で、ギターのフレーズは終始エキゾチック。背後にうっすらと流れる波の音が効果的で、真っ昼間の富士山麓にいるというのに、筆者の頭の中には夕暮れ時の西伊豆の砂浜が現出した。フェス初日の冒頭にこうしたサウンドを持ってくる彼らの大胆さに感服した。

大ステージに向かう。3年連続出演の柴田聡子は、FUJI&SUNでは初のバンドセットである。ギターの岡田拓郎、キーボードのマイカ・ルブテに挟まれる位置でギターを弾き、歌い踊る(!)柴田。『Your Favorite Things』を皮切りに2020年代の楽曲をちりばめたセットリストだったが、自在なビートに耳を奪われた。柴田のライブでジャージークラブを耳にするとは思わなかった。

(c)FUJI&SUN’26

発声した時点でいや応なしに発生する歌詞のグルーヴが、演奏が進むにつれて強度を増していく様子はとてもスリリング。まるでダンスホールレゲエのような『目の下』、ネオソウル的な心地よい「モタり」が続いた『夕日』に生演奏の醍醐味を実感した。歌詞に静岡が出てくる『雑感』を歌ったのは、「2024年しずおか連詩の会」に参加するなど縁を深めた本県への特別なプレゼントだったろうか。

柴田のステージを見終え、中ステージに戻るとドブロギターを抱えた田島貴男の(ダサい言い方だが)シャウトが会場を圧倒していた。左右の足で機器を踏んでリズムを出し、ギターを力強くストロークしながら歌う。静岡県内のフェスで数回この「ひとりソウルショウ」に接しているが、見る度に歌声の「黒さ」が増している。

(c)FUJI&SUN’26

思えば2019年の第1回「FUJI&SUN」にも、このスタイルで出演していた。ご本人はMCで「10年ぶりに来たらずいぶん変わっていた」とおっしゃっていたが、実際は7年ぶり。ステージの位置は確かに変わった。

この日のハイライトは、現在の世界の状況への強いメッセージを込めたスローブルース『ソウルがある』だった。「ミサイルを撃つな/ミサイルが落ちたそこには/ソウルがある/ソウルが血を流している」。田島の憂いを秘めた叫び声は、心の奥深いところに突き刺さった。

徒歩約10分の坂を上って、大ステージへ。途中にヤギのお散歩体験や動物たちへの餌やりができるスポットがあり、家族連れでにぎわっている。

(c)FUJI&SUN’26

多くの観客が見つめる中、ハンバート ハンバートは「夫婦漫談」的トークでライブを始めた。「昨日ね」「昨日」「電車に乗ったらね」「ほお、電車」。白赤の上下を着用した佐野遊穂の問いかけにおうむ返しする佐藤良成。全く長さを感じない。永遠に続くかと思った3分後、演奏が始まった。

『長いこと待っていたんだ』が1曲目だった。この大きなステージで、初めての舞台についての曲を歌う2人の姿はそれだけで絵になる気がした。『教訓1』『虎』『国語』『同じ話』。一つ一つの楽曲のリリース時期は違うが、どれも2026年の歌として届いていた。そういう選曲をしているのだと途中で気付いた。

ピアノのフレーズで始まった『笑ったり転んだり』は、やはり特別な3分間だった。観客は誰も歌わない。一心に二人の声に耳を傾けている。筆者の左前にいた金髪の女性は終始顔の前で手を合わせ、小刻みに顔を振りながら聴き入っていた。半年間、日本中のお茶の間で愛された楽曲の強さ、歌われている世界の普遍性に改めて思い至った。

翌日の朝刊に載せる原稿のやりとりを終え、パッタイとシラス丼で腹ごしらえも完了。そんなタイミングで、くるりの演奏が始まった。3年連続でFUJI&SUN出演のくるりを明るい時間帯に見るのは初めてかもしれない。岸田繁はMCで「このフェスで富士山を見たことがない」と言っていた。天気のせいもあろうが、時間帯の問題でもあると思う。

(c)FUJI&SUN’26

『ワールズエンド・スーパーノヴァ』『Morning Paper』という2000年代初期の2曲に続いて、今年出たアルバム『儚くも美しき12の変奏』からデスメタル声で始まる『C'est la vie』。岸田のラップが主導する『琥珀色の街、上海蟹の朝』が続き、クラシック的な後奏が付いた『ブレーメン』、音頭とクレズマーとファンクが渾然一体となって押し寄せる『Liberty & Gravity』。ロックバンドというフォーマットの限界に挑戦するかのようにあちこち伸ばした触手の数々と、その歴史を見せつけるライブだった。

坂道を下りて中ステージへ。シャッポはベースの細野悠太とギターの福原音のユニットで、このフェスには2年ぶりの出演となる。ドラム、ベース、ペダルスティールのメンバーを加えた5人編成の演奏だった。スライドギターとペダルスティールの滑らかな絡みが美しい。

(c)FUJI&SUN’26

ザ・ベンチャーズのカバーで知られるサーフロックの名曲『PIPELINE』からYMOの『ABSOLUTE EGO DANCE』につなぐカバー曲メドレーでは、あえてたどたどしく単音を弾く福原の粋なプレイが光った。インストバンドという触れ込みだがボーカル曲も多く、ゆったりしたミドルテンポの『どうも』では、福原ののんびりした歌声が温かい雰囲気を醸し出した。

シャッポを見終えて大ステージに向かうと、道の途中から壮絶なリハーサルの音が聞こえてくる。通常の10倍速で会話をしているようなセッション。「JAZZ NOT ONLY JAZZ in FJSN」と名付けられたプログラムは、ドラムの石若駿、鍵盤楽器の渡辺翔太、ベースのマーティ・ホロベックによるトリオ(Marty Holoubek Trio IV)を基盤にゲストを迎えるステージである。

(c)FUJI&SUN’26

日が沈み、霧に包まれた会場。ホロベックの流ちょうな日本語による自己紹介で始まったトリオ演奏は渡辺のアレンジによる『Smile』で幕開けした。言わずと知れたチャールズ・チャップリンの1936年の映画『モダン・タイムス』のテーマ曲。とにかく、音数が多い。リハーサル同様、10倍速で会話をしているようだ。それでいて、チャップリン作曲の主旋律は明らかにそれと分かる形で聴こえてくる。3人は『Smile』を完全に解体し、新しい“建造物”として精緻に組み立てていた。

以後、このトリオのアルバム曲やホロベックのソロ作からの曲が続くが、いずれも音の密度が高い。特に石若はバスドラムだけを聴いても変化に富んでいて、言葉を選ばず言えば「面白い」。3人とも手数が多いので、楽曲が速いのか遅いのか、分からなくなる瞬間がある。

後半は、この日2回目の出番(そういえば石若もくるりに続き、この日2回目の出番だ)となる田島貴男、大橋トリオ、スーパー登山部のHinaを迎えた「歌もの」ステージ。組んずほぐれつの演奏直後というのに、ピアノトリオはすっかり変貌し、おしろいを塗ったような端正な顔つきをしている。演奏モードの素早い切り替えに、ジャズミュージシャンの真骨頂を見た。

坂を駆け降り中ステージへ。富士市在住の「こだまレコード」主宰、TOP DOCA(トップ・ドカ)のDJはとっぷり暮れた夜半の富士山麓に、数々の裏拍リズムの楽曲を届けた。知らず知らずに体が動いてしまう。

(c)FUJI&SUN’26

本人いわく「大人なDUB 講座」がメインテーマ。後半はドン・レッツによるザ・クラッシュのカバー『LONDON CALLING』や、ラテン音楽の横乗りリズムの上に涼やかなスティールパンが乗るリトル・テンポの『Wheels on Fire』といった有名曲を連打し、踊る観客の多幸感を高めた。自身がアルバムをプロデュースした地元のおはやしバンド「吉原祇園太鼓セッションズ」のダブミックス盤も聴かせた。

午後9時50分。この日最後のアクトとして登場したのは、6月3日に初のフルアルバムをリリースしたばかりの5人組、スーパー登山部。ボーカリストのHinaは、どこまでも澄んで伸びやかな歌声が特徴。「鈴のような」と形容すべきか。ここまで濁りがなく、ほぼノンビブラートの歌い手は近年、珍しいのではないか。松たか子やテイラー・スウィフト、ジュリアン・ベイカー、かつてのヤエル・ナイムを想起した。

(c)FUJI&SUN’26

長野県の白馬岳の登頂が契機となった代表曲『頂き』、レゲエのビートを用いた『スーパー銭湯もある』で幕切れ。終演午後10時半。体がふにゃふにゃになるほど音楽に漬かった約12時間が終わった。

静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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