​【静岡県内ミニシアター 年末年始の「特出し」!(下) 金星シネマ(伊東市)】「女性の休日」のしなやかさ、軽やかさ。アイスランド社会が変わった日

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。静岡県内の三つのミニシアターを訪ね、年末年始の上映作品から担当者が「これぞ!」と思う2本を選んでもらいます。不定期連載第3回、最終回は金星シネマ(伊東市)の梅澤舞佳館長。(文=論説委員・橋爪充)


女性の休日

金星シネマでは1月2日から18日まで上映。1975年10月24日、アイスランド全女性の90%が仕事や家事を一斉に休んだ前代未聞のムーブメント「女性の休日」を主題にしたドキュメンタリー。2025年まで16年連続で世界経済フォーラム(WEF)発表の「ジェンダーギャップ指数」1位のアイスランドの画期となった出来事を、当事者の証言とポップなアニメーションで振り返る。監督は米国人のパメラ・ホーガン。エンディング曲はアイスランド出身の世界的スターであるビョークが提供。

(梅澤さんコメント)

日本での公開日は秋だったんですが、金星シネマではちょっと寝かせておいた作品です。2026年最初のドキュメンタリーはこれがいいなと思って。見終わった後、スパッと気持ちが切り替わる作品なんですよね。「よし、頑張ろう」という気持ちだけが残る。いい意味で「考えさせ過ぎない映画」です。

「休日」運動に参加する女性たちは、世の男性たちに 反撃してやろうとか、自分たちの存在意義を証明してやろう、といったようなとがった気持ちではないんですね。インタビューで当時を振り返る皆さん、キラッキラの笑顔で楽しそうに話していらっしゃる。

「当時、男性たちを憎んでいましたか」という質問にも「憎んでないわよ」と言うんです。「ちょっと変わってほしかっただけ」って。面白いいたずらを思いついて、みんなでそれをやってみたというぐらいのテンションなんです。

彼女たちの軽やかさ、しなやかさが逆に力強く感じられます。この強さがあったから、当時のアイスランド社会に影響を与えたんだろうなと思いますね。


 

ギルバート・グレイプ

金星シネマでは1月2日から18日まで上映。「マイライフ・アズ・ア・ドッグ」で注目を集めたスウェーデンのラッセ・ハルストレム監督の1993年作品。主人公のギルバートをジョニー・デップ、知的障害がある弟アーニーを当時19歳のレオナルド・ディカプリオが演じ、共に高い評価を得た。アイオワ州の田舎町を舞台にしたヒューマンドラマ。ギルバートは弟アーニー、過食症の母、2人の姉妹の面倒を見る日々だが、トレーラーで旅をしながら暮らす少女ベッキー(ジュリエット・ルイス)と出会い、人生が動き出す-。

(梅澤さんのコメント)
ハンバーガー屋がオープンするというだけで騒ぎになるような小さな田舎町に住む家族の話です。ジョニー・デップ演じるギルバートのお母さんは夫を亡くしたショックから立ち直れずに、かつての美しさを失って家から一歩も出られないような状態。そして、ギルバートの弟は、劇中では特定されませんが知的障害があって行動が危なっかしい。

ギルバートは家族を守ることに精一杯で、自分の夢を見失っています。そこにトレーラーで旅をしながら生活しているベッキーが現れます。車が故障したため、しばらくギルバートの家に泊まることになる。この出会いがギルバートの気持ちに変化をもたらす。そんなお話です。

豪華なキャストが堪能できる映画ですが、それに 負けないぐらい物語がしっかりしていますね。映画ファンであれば劇場で何度も見たくなる作品だと思います。そうした点も踏まえて、年明けのお休み期間の上映としました。


<DATA>
■金星シネマ
住所:伊東市吉田573-1
現在の上映作品:
大西隼監督「ヒポクラテスの盲点」
芳賀薫監督「風のマジム」
ウェイン・ワン監督「スモーク デジタルリマスター版」 
クレイグ・ギレスピー 監督「アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル」

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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