【SPACの「ハムレット」】2025年に「ハムレット」はどう演じられるべきか

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は静岡市駿河区の静岡芸術劇場で11月15日に行われた静岡県舞台芸術センター(SPAC)の「ハムレット」を題材に。11月9日(日)に開幕した一般公演は12月7日(日)まで。平日の中高生鑑賞事業公演の一部はチケットの一般発売がある。

ウィリアム・シェイクスピアの四大悲劇の一つである「ハムレット」は、400年以上にわたって世界中で上演されてきた。SPACでは2008年、2015年、2021年に宮城聰芸術総監督が演出を手がけた。2023年「せかい演劇祭」での、フランスの劇作家・演出家のオリヴィエ・ピィさんが翻案した「ハムレット(どうしても!)」も記憶に新しい。舞台芸術公園の野外劇場「有度」で上演された。

「SPAC秋のシーズン2025-2026」のアーティスティック・ディレクターを務める劇作家石神夏希さんは、この古典の上演にあたり、劇作演出家の上田久美子さんを演出に指名した。2006~2022年に宝塚歌劇団に所属した俊英だ。プレトークで石神さんは「人間中心主義的な考え方が行き詰まっている時代。2025年にハムレットはどう演じられるべきか」と問題提起した。

以上のような重々しい前置きがあり、2時間超えを予告されていた作品でもあったので、少々身構えて舞台を見つめた。ところが、そうした臨戦態勢は一切必要なかった。身もふたもない言い方だが、面白かった。笑いを誘う場面がかなり多かった。

古典として知られるあらすじは、次のようなものである。

デンマークの王子ハムレットは、父の突然の訃報に接する。王位は叔父クローディアスが継ぎ、母ガートルードはその叔父と再婚した。全てを失ったハムレットの前に亡き父と思われる亡霊が現れる。亡霊は言う。「私を殺したのはお前の叔父だ。復讐せよ!」

今回の演目は、この世界的に知られた筋書きを書き換えることはしない。だが、ネタバレに注意しながら言うと、この物語を眺める「視点」に大きな変化が加えられていた。

冒頭、ハムレットの親友であるホレイシオが、ストーリー全編を3分にまとめて話してしまう。物語はそれで「完結」する。だが、演劇は続く。その後の舞台上では何が起こっているのか。

役者たちは、厳密に言えばハムレットの登場人物を演じてはいない。ハムレットの登場人物を演じる「何か」を演じている。奥歯に物が挟まったような言い方しかできないのがもどかしいが、決して難解な仕掛けではない。おなじみのせりふは「バシッ」と決まるし、ある種の爽快感もある。

ただ、これまでの「ハムレット」とは明らかに見え方が違っていた。石神さんが口にした「2025年にハムレットをどう演じるか」が、確かに底流に流れていた。

それぞれ3役を担う阿部一徳さんと貴島豪さんの掛け合いが秀逸。

(は)

<DATA>
■ウィリアム・シェイクスピア作・上田久美子演出「ハムレット」
会場: 静岡芸術劇場(静岡市駿河区東静岡2-3-1)
開演日時:11月9日(日)、15日(土)、22日(土)、23日(日・祝)、29日(土)、12月6日(土)、7日(日)の各日午後1時半開演
出演:阿部一徳、貴島豪、榊原有美、杉山賢、武石守正、舘野百代、ながいさやこ、本多麻紀、宮城嶋遥加、山崎皓司、吉見亮、若宮羊市
入場料金: 一般4600円、U-25(25歳以下)と大学生・専門学校生2200円、高校生以下1100円、障がい者割引 3200円
問い合わせ:SPACチケットセンター(054-202-3399)※受付時間は午前10時~午後6時

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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