
暗号資産や架空請求、恋愛感情につけこんで多額の投資をさせるなどのトラブルに遭った事例が連日、新聞やインターネットに載っています。静岡県や県内自治体の消費生活相談窓口に寄せられた相談件数は年々増加し、2024年度は26,637件でした。中でも投資などのもうけ話に関する相談は、消費者トラブルの相談件数全体の約4%程度ではあるものの、40〜50代の働き盛りの世代による相談が多く、1件当たりの被害額は平均で数百万円単位に上ります。
公私ともに充実し、忙しい日々を送る40〜50代。「自分は絶対だまされないので大丈夫!」と思っていませんか?昨今はSNSを悪用し、実態を隠して被害者に接触する手口が目立ち、その手口も“日進月歩”のスピードで巧妙になっています。消費者トラブルの予防救済に尽力する弁護士の靏岡寿治(つるおか・ひさはる)さんに、働き盛りの世代に気を付けて欲しい霊感商法と投資トラブルの実例と、それぞれの「ちょっと待った!」ポイントを教えてもらいました。
投資などのもうけ話に関する年齢別相談件数
心の弱さを突く:霊感商法
靏岡弁護士:特に増加しているのは従来の勧誘方法ではなく、正体を隠した上で宗教的・霊感的な要素を絡めてくる手口です。数年前から増加傾向にあり、その多くがオンライン、特にSNSを介して行われるため、被害者にとって見抜きにくいという問題があります。霊感商法の典型的な事例として、表面上は集客やビジネスのスキルアップを目的としたセミナーに見せかけ、裏で霊感や運気を持ち出して不安をあおり、高額な契約を結ばせる手法があります。
ある事例では、コロナ禍で集客に困っていた静岡県内の音楽教室の自営業者(50代)が被害に遭いました。被害者はSNSで知り合った人から、集客力アップのためのセミナーに勧誘されました。そして、このSNSで知り合っただけで一度も会ったことのない人からの「特別な」紹介で、通常、セミナーでしか会えないはずのセミナー運営会社の代表者が被害者のいる静岡県まで来て、喫茶店という非公式な場で実際に会うことになりました。
その代表者はセミナー受講を勧める際、「あなたの運気が悪そうだから」とスピリチュアルな鑑定後に受講コースを選ぶよう勧めました。被害者は鑑定で「運気が悪い」と言われたことなどから受講を決意し、受講料150万円を支払いましたが、具体的なアドバイスはなく、集客力も上がらなかったことから相談されました。
「あなただけ」という特別感に注意!
靏岡弁護士:この方法の巧妙なポイントは、運気など目に見えないもので不安をあおり、現実世界のビジネスと連動させ、人の心の弱さを突いているところです。また、「特別に」代表者が個別の説明・アドバイスを行うなどといった特別感や限定性を強調し、巧みに誘っています。さらに、約150万円と高額にもかかわらず、契約書には「契約書に署名した以上、消費者が受講前に解約したとしても1円も返金しない」という一方的な内容が書かれていました。こうした「おかしくない?」というポイントが必ずあるはずです。おかしいと思ったら立ち止まり、誰かと話をしたり、消費生活センターなどの専門機関に相談してみたりしましょう。
靏岡寿治弁護士
SNSでのやりとりや架空の利益で信頼させる:投資トラブル
投資トラブルの大多数は投資の実態がない架空の業者や取引を通じたものです。インターネット上で完結し、勧誘者と対面することがほぼない点が特徴です。引き続き靏岡弁護士に実例を挙げてもらいました。靏岡弁護士:ある静岡県内の被害者(60代)はSNSの広告から実在する著名な経済評論家の名前が講師として使われた投資の勉強会に会員登録しました。その講師のアシスタントを名乗る女性と通信アプリ内でつながって、国内株の推奨銘柄を教わり、実在する証券会社を通じた投資で利益が出たため信用してしまいました。
アシスタントは「日本の証券会社ではもうけが少ない」と持ちかけ、海外の投資業者による時間外取引を勧めました。海外業者のホームページは英語表記のため、日本語サポートセンターと称する第三者と通信アプリ内でつながり、口座開設から注文指示までその第三者が全て代行しました。「海外送金手数料や為替手数料を避けるため」と、国内の個人名義や投資業者と異なる会社名義の銀行口座に振り込むように指示されて振り込むと、投資結果が分かるアプリ上ではすぐに入金が反映されました。
これを信じて次々と資金を投じ、アプリ上は利益が出ているため出金を依頼すると、税金や手数料を別途支払うように要求されました。しかも、「30分以内に入金しないと資産が無効になる」などと時間に区切りを設けられ、確認する時間はありませんでした。最終的にお金がなくなると、アシスタントは「借金をしてきてください」と要求してきたので、消費生活センターに相談しました。
契約書はありますか?
靏岡弁護士:正規の投資取引では契約書や重要事項説明書などの書類が必ず取り交わされます。最近多くなっている証券会社などでのネット取引であっても電子契約書が取り交わされるのですが、トラブル事例では契約書の類が一切存在しません。また、振込先が毎回異なる口座であるだけでなく、個人や投資業者と異なる法人名義の口座というのは「おかしい」と気づくポイントです。税金や手数料など事前に知らされていないルールでお金を請求されることも、立ち止まるべき事態です。さらに、投資勧誘の際には『適合性の原則』というものがあり、投資は個人の収入や資産状況を考慮した余剰資金で行うことが大原則とされています。にもかかわらず、「借金して投資しなさい」と勧誘する行為は、正規の投資取引ではありえない勧誘なのです。
巧妙化する手口
だます側はSNSを巧みに利用して被害者に近づきます。被害者はSNSに自分の趣味や家族構成、悩みなどを投稿し、だます側はそれらの情報を事前に把握し、共感を装って信用を得ていきます。また、通信アプリは設定によっては自動的にグループに登録されてしまう恐れがあります。近年はマッチングアプリを介した勧誘も増加しています。実際に会って投資話へとつなげます。また、既婚者アプリなどを利用して、家族に言えない立場の弱さにつけ込む手口も報告されています。投資だけでなく、高額な情報商材(FXの自動売買ツールの入ったUSBメモリなど)の販売や、趣味を装った高額な着物販売(50万~60万円)といった被害も発生しています。
靏岡弁護士は「被害を防ぐには『うまいもうけ話には絶対に手を出さない』という原則を徹底することです。本当にもうかる話であれば自分のところに留めておくはずで、全く知らない人や会ったこともない人に勧めたりしないでしょう。そういう人からの勧誘や、特別感や限定性を強調する話を絶対に信用しないことが重要です」と指摘します。
また、SNS、通信アプリの設定を見直し、個人情報の公開を極力制限すること、身に覚えのないグループに登録された場合はすぐに退会・ブロックすることが、被害防止の大きな一歩となります。
不安を感じたら「188」へお電話を
少しでも『おかしい』と思ったら、まずは消費者ホットライン「188(いやや)」に相談しましょう。また、静岡県では啓発動画も制作しています。よくある消費者トラブルについて動画で確認し、トラブルに備えましょう。■静岡県公式ウェブサイト|静岡県くらし・環境部県民生活課|消費者ホットラインについて・啓発動画







































































