【アートひかりの演劇祭「伊久美劇場」】百鬼ゆめひなさんの人形演目が見事。島田市中山間地区の野外劇場で非日常体験

静岡新聞論説委員による「しずおか文化談話室」。今回は11月1日に開幕した、島田市伊久身エリアの各所を会場とした演劇祭「伊久美劇場」(アートひかりなど主催)の2日目の演目「人形創作神楽『風~わらべの御子と風の女神のものがたり』を題材に。

川口八幡神社に野外劇場が出現した。社の前に歌舞伎で使う「定式幕」が張られ、その前方左右に茶箱を利用した小舞台がある。右手には障子戸2枚を表現した舞台セットが用意された。社殿の背後の森が吹き抜ける風でさやさやと揺れる。

オープニングアクトとして上演された「川口絵巻~長田致光」は、神社が立地する川口地区の開墾の歴史を地元住民と演劇にしたもの。構成・演出はアートひかりの演出家仲田恭子さん。口上の合間に入る堀井智之さんの和太鼓がズンと響き渡る。野外の演目ならではのダイナミズムだ。

「風」は「ひとかた」(等身大人形)を操る百鬼ゆめひなさんの独演。「百鬼どんどろ」の屋号で独自の人形芝居を追求した故・岡本芳一さん(2010年死去)の表現を継承するゆめひなさんは、人形を2体、右左の手で動かしながら、仮面を付けて自らも演技する。みごとな衣装の早変わりも披露した。人形劇であり、仮面芝居でもあるという、極めて独自性の高いスタイル。拝殿での上演を眺めているうちに、神にささげる舞に見えてきた。

神社はかつて、集落の文化拠点としての役割を担っていた。境内で相撲や能、歌舞伎を行い、農閑期の人々が大勢集まってそれを楽しんだ。二つの演目をみて、かつての「村」のありようを頭の中で思い描いた。

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■伊久美劇場
演目の詳細は公式サイト(https://ikumigekijou.amebaownd.com/)を参照

(演目の一例)
▼11月29、30日
◎アートひかり「JapanTea物語」
原作:西野真「大井川連環の譜 近代日本茶物語」
脚色・演出:仲田恭子 
出演:加藤久美子、杉山雅紀、中村クラゲ、古市裕貴(ユニークポイント)、山田愛(同)
音楽:のまど舎(ホリゴメミホ、紺野将敬)
照明:木村義晴
書:松竹由紀
◎会場 旧伊久美小学校
◎時間 午後1時半
◎入場料 一般2000円、高校生以下1000円、未就学児無料、伊久身地区在住者半額

問い合わせ:project291@gmail.com(アートひかり)

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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