【Turk Kabay のCD「LIVE IN JAPAN ~アルタイは揺れ ゆりかごになる~」】 「天から与えられた」ボロット・バイルシェフの喉歌。非日常の音体験

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は、2025年3月発表のTurk Kabay (チュルク・カバイ)のライブアルバム「LIVE IN JAPAN -アルタイは揺れ ゆりかごになる-」を題材に。チュルク・カバイはロシア連邦アルタイ共和国の3人組。本作は2024年秋の日本ツアーの録音盤で、プロデューサーはヒカシューの巻上公一さん(熱海市)。演奏には巻上さん、ヒカシューの打楽器奏者佐藤正治さん(熱海市)も加わっている。

チュルク・カバイはアルタイ共和国を代表する歌手ボロット・バイルシェフを核に、同国の国立演劇劇場のアーティスト2人、アイダル・ウナトフ、ワディム・デーエフで構成された3人組。2024年10月22日、東京・代官山の「晴れたら空に豆まいて」で行ったライブの音源がCD化された。

バイルシェフは巻上さんの招きでこれまで何度か日本で公演している。伝統の喉歌カイ、二弦楽器トプシュール、口琴コムスによる演奏の数々は、強烈な音楽体験として記憶している。今回のツアーも静岡でのライブがあったが、見逃してしまった。こうしてライブ音源がCD化されることを幸運に思う。

2010年4月に浜松市、2013年9月に沼津市での歌声を思い出す。沼津市での公演は女性歌手タンダライとの共演。バイルシェフの地を這うような「カルグラー」という唱法と、タンダライの小鳥のさえずりのような唱法「スグット」が重なって空間を満たした瞬間は、これ以上ない「非日常」を感じた。

新CDはこうした特異な体験を、リビングや車の中で味わえる。ドプシュールの伴奏を得た「歌」が、いつの間にか「喉歌」に変わっていく。切れ目なく音が出ているが、出どころが変わったような錯覚に陥る。空中から湧き出しているようにも聞こえる。

全16曲を収録。地響きを思わせるバイルシェフの低音による英雄叙事詩「オチ-バラ」で幕開けし、現地の伝統曲やメンバーのオリジナル曲でステージが進む。3部の合唱が喉歌に変化する「トプシュールの声」には度肝を抜かれる。

ラスト2曲「立派な馬」「すべてが上手くいきますように」は祝祭的なムードに満ちている。米国のカントリー音楽にも通じる2拍子のビート。観客も巻き込んだ盛り上がりが伝わってくる。

かつて自分が書いた記事を読んだら、バイルシェフは観客の質問に「私の声ではない。天から与えられている力」と答えていた。シャーマン(呪術師)が継いだという喉歌「カイ」。チュルク・カバイのライブCDは、その本質を存分に味わえる盤だ。

(は)

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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