【演劇ユニットHORIZONの第22回公演「Jaggy」】幕末日本、新選組。2年前の演目の世界から全く別の物語を取り出した

静岡新聞論説委員がお届けする静岡県のアートやカルチャーに関するコラム。今回は11月16日に行われた、静岡市を拠点に活動する演劇ユニットHORIZONの第22回公演「Jaggy」を題材に。会場は同市清水区の市清水文化会館マリナート。11月15日にも上演した。
※写真は「撮影OKタイム」に撮ったもの

創立12周年の女流劇団HORIZONの定期公演は、常に挑戦的な仕掛けが施されている。ここ2年に限っても、会場全体を舞台とし観客も物語の一部に仕立てる「イマーシブ(没入型)シアター」、来場者の投票によって結末が変わる「ダブルエンディングシステム」といった演出上の新機軸を成功させた。

一つの演目で構築した世界から別の物語を取り出す、という仕掛けもHORIZONの特色である。例えば2018年から繰り広げる「星シリーズ」は、「現世に未練のある魂は天と面接して星(天使)になる。星の仕事は『亡くなった人の魂を運搬する』」というルールのある世界から、複数の演目を生み出した。

今回の「Jaggy」もあらかじめ設定された世界から、別の物語を取り出す試みだ。2023年8月に同じ会場で上演した第17回公演にして劇団初の時代劇「Roar」に準じている。幕末の日本、新選組の新人隊士二人が主人公。沖田総司や土方歳三に加え、今回は人斬り以蔵こと岡田以蔵、彼を追って京都にたどり着いた土佐藩の藩士たちが絡む。

多くの登場人物の中に、どうやら以蔵が潜んでいるらしいが、いったい誰なのか。土佐藩士が以蔵を追う真の理由は。土佐藩士を操るとある人物の本当の姿とは。物語が進むにつれて、謎が謎を呼ぶ構造になっている。草野冴月さん(演出は大橋美月さん名義)の脚本は、人間関係をあえてごちゃごちゃにし、丁寧にそれを解きほぐす。無造作に丸めた毛糸玉が結び目のない1本の糸に伸ばされていく。そんな様子が思い浮かんだ。

生真面目さがにじみ出る野分(朝池潮さん)、激情タイプの赤島(鴻野悠空さん)の主役二人、強い「圧」を放射する土方(天野仁さん)、老成と飄逸の鉄蔵(芝原鴇さん)、目力が客席奥深くまで刺さった陣来(百戸ゆうりさん)が特に印象的だった。

(は)

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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