【野外フェス「朝霧JAM」ブッキング担当の平田さん、三田さんインタビュー(上)】ハイエタス・カイヨーテ、グラス・ビームス。オーストラリアの2バンドに注目

静岡新聞論説委員による、アートやカルチャーに関するコラム。10月18、19両日の開催が迫った野外音楽フェスティバル「朝霧JAM」のブッキングを担当したスマッシュ(東京都港区)の平田天志さん、三田創さんとの語らいを2回に分けてお届けする。毎秋、富士宮市で行われる同フェスは2001年に始まり、今回が25年目。今年の主な出演アーティストについて、その音楽性やブッキングの裏話を聞いた。(文、インタビュー写真=論説委員・橋爪充、アーティスト写真=スマッシュ提供)

スマッシュの平田天志さん(左)、三田創さん

ハイエタスは全出演者の中で一番最初に決まった

-今年の「朝霧JAM」で特徴的なのはオーストラリアのアーティストが多いことですね。ハイエタス・カイヨーテ、グラス・ビームス、アンジー・マクマホンさん。

平田:ハイエタス、アンジーはメルボルンが拠点。グラス・ビームスもメルボルンで活動していました。今は拠点が変わっているかもしれないですが。

-ハイエタスが(大ステージの)レインボー1 日目のトリ、グラス・ビームスがのレインボー2日目のトリ前ということですが、フェス全体を考えたときに、ラインナップの最初のイメージはどんなものだったのでしょうか。

平田:毎年そうなんですが、軸はヘッドライナーからできていくんです。ヘッドライナーがブッキングされて、そのほかを作っていくという流れになっています。オーストラリア勢が多いというのは、結果的にそうなったというだけのことですね。

-特に意図したわけではないと。

平田:やりたいアーティストを並べたら、最終的にこうなったといったところです。

-ハイエタスは最初からターゲットとして定めていたんですか。

平田:そうですね。全出演者の中で一番最初に、今年の1月には決まっていました。10月にアジアでジャズフェスに出る予定があって、その流れでできないかなって。ハイエタスに関しては、フジロックも単独ライブもうち(スマッシュ)でやってきてるんで、これはもうぜひ朝霧で、と。

-タイミングの良さで出演が実現したわけですね。

平田:海外アーティストのあるあるです。とはいえ、長年エージェントとライブを作るために話をしているからこそ、というところもあります。アジアに行くとなったら、その時点で話をくれるわけです。

ハイエタス・カイヨーテ

海外フェスでは軒並みヘッドライナーのグラス・ビームス

-さて、グラス・ビームスですが、去年のフジロックに出ているんですよね。

平田:レッドマーキーに出演しましたが、それが結構バズって。僕もかなり見たかったんですけど、当日は見られませんでした。是非朝霧でやりたいよねという話が内部であり、それで動いたということです。

-レッドマーキーであれば、見ている人との数はグリーンステージやホワイトステージに比べて少ないですよね。インパクトのあるステージをして話題になったという感じですか。

平田:それもあります。初来日だったんですが、もう(会場が人で)パンパンだったんですよね。入場制限がかかっていた。

-彼らはまだ若いようですね。

平田:キャリアはそんなに長くないと思います。作品が 1 枚しか出ていないんで。

-一度聴いたら忘れられない音です。東洋的なメロディーをサイケデリックに奏でる3人組ですが、3 人が 3 人ともバンドを主導している雰囲気があるのが不思議です。誰かが誰かのサポートしている感じがしません。

平田:リーダーはギターだと思うんですけれど、正直なところはっきり分かりません。

三田:ドラムの存在感も大きいですね。たった3人であの広がりのある音を出せるのはすごいと思います。

-グラス・ビームスの出演が決まったのはいつですか。

平田:5月に声をかけました。でも、一時ぴたっと話が止まっちゃったんです。恐らく海外のスケジューリングの問題だったと思いますが、こちらは諦めムードだったんですね。

-なるほど。よく出演にこぎ着けましたね。

平田:その間に他のアーティストにも当たっていたりしました。でも、そちらもなかなかうまくいかなくて。そうしたら7月に急に向こうから連絡が来ました。朝霧の出演ってまだ行けるかな、と。そこから1カ月やりとりして、8 月に出演が決まりました。

-8月といえば朝霧の開催はもちろん、出演アーティストも第 1 弾は発表されてましたよね。その時点では2日目のヘッドライナークラスはまだ決まっていなかったと。

平田:そうです。そういうことですね。

-とはいえ、2日目のトリ前にグラス・ビームスを置くのは、キャリアに照らせば抜擢ではありますよね。その辺については確信のようなものがあるんですか。

平田:ありますね。フジでもあれだけ盛り上がったし、海外のフェスでは軒並みメインステージなんで。6月にスペインのフェスを視察に行ったんですが、そこでもメインステージだったんです。

三田:絶対に朝霧のロケーションに合うなっていう音楽。ハイエタスとの相乗効果もあるでしょう。朝霧はグルーヴィーな音楽が似合うので。

平田:今回の来日では東京でワンマンライブもやるんですが、(チケットが)即完売でした。

グラス・ビームス

圧倒的な歌声のネイ・パームさん。衣装にも注目

-二つのバンドの音楽性についてさらに話そうと思います。ハイエタスに関しては2022 年のフジロック出演を映像で見たんですが、ボーカリストのネイ・パームさんの存在感が圧倒的。さらに、何食わぬ顔で複雑なアンサンブルを聴かせるバンドも驚異的です。ソウル的な要素がもっと前面に出ていた初期のころから聴いていますが、改めて急激な進化だなと思いました。

三田:説明しづらい音楽ではあるんですが、ジャズ、ソウルの要素があってグルーヴがある。変拍子もバリバリ入ったマスロック、あるいはいろいろな音楽が混じった、新しい形のソウル的なバンドだと思いますね。

平田:エクスペリメンタルジャズロック集団じゃないですか。2013年にデビューしたころ、ああいうタイプのバンドっていそうでいなかったんですよ。エクスペリメンタルなジャズ系の人はいたけれど、ロックのエッセンスもあってソウルの要素もある、みたいなバンドはなかった。いい作品を出し続けて進化していると思います。

-リズム隊とキーボードの 3 人、それぞれが別々のことをやってるように見えるけれどアンサンブルとして完璧。歌が入るとちゃんとホップミュージックとして成り立ちます。

平田:どうやって編曲してまとめているのか、全く分からない音楽ですね。そこが魅力とも言えます。

-ネイ・パームさんの歌声も年を経てすごみが増していると感じます。

平田:やっぱり天才ですね。以前、(東京・渋谷の)WWWX でソロライブを見たんですよ。歌だけでなくギターもめちゃめちゃうまいんです。弾き語りのような感じでしたが。

-滑らかでありながら荒々しさがある歌声ですね。一発で分かる声をしている。

三田:どういう格好でステージに出てくるかも注目ですね。昔のフジロックの映像では、でっかいポケモンの柄が入った衣装をはいていたりして。彼女、日本のアニメやキャラクターもが大好きなんですよ。それと同時にスピリチュアルなものもナチュラルに取り入れている。スパンコールをめちゃくちゃ付けますよね。

2024年の「朝霧JAM」の会場風景

-それでは「グラス・ビームスはどんな音か」について話をするとしたらどうでしょう。無国籍感が強いと思うんですよね。

平田:クルアンビンの系譜で出てきたようにも見えるんですが、そんなにシンプルなものでもない。アジア的なエッセンスにファンクが入った上にダンスミュージックの要素も入る。

三田:サイデリックな要素がありつつ、ダンスミュージックを主体にしているのかと思います。妖艶な雰囲気を漂わせながら踊らせる音楽。スピリチュアルなところもありますね。

-演奏者が性別不詳のようなところもありますね。ライブはサポートメンバーを加えず3 人で演奏するんですか。

三田: 3人ですね。

-ギターは単音で弾くことが多いのに、サウンドに広がりがあります。音数は少ないけれど奥行きが感じられる。とても不思議な音作りです。

平田:エレクトリックギターを使っているのにシタールのような音も聴こえてくる。

-グラス・ビームスも衣装に注目ですね。アーティスト写真やMVではマスクで顔を覆っていますが、あれでステージに出てくるんでしょうか。

平田:外してるところは見たことがない。言うならば覆面バンドですね。

三田:儀式的なニュアンスもあると思いますね。

-性別や人物像をあえて不透明にしているのも彼らのメッセージなんでしょうね。

三田:クイアと言い切るわけでもない。そういうところに縛られないぞと。それは意識的にやってるのかなと思いますね。

平田:音を聴いて評価してくれと。

〈(下)に続きます〉

2024年の「朝霧JAM」の会場風景

〈告知〉
▼タイトル
 ~It’s a beautiful day~ASAGIRI JAM ’25 
▼出演者一覧
10月18日(土)
HIATUS KAIYOTE 
ANGIE McMAHON
ANTHONY NAPLES
D.A.N.
FULLHOUSE
グソクムズ
んoon
JONAH YANO
竹原ピストル
YOGEE NEW WAVES
(CARNIVAL STAR出演)
CUMBIA KID
DJ GONCHAN
DJ HANA-G (Fujirockers)
Dr. IHARA
NAOKI IENAGA (Dubstore Records)
POKASKA
RIHO
SOLITARY CIRCUS
SUNSUKE (Snokey Records)

10月19日(日)
GLASS BEAMS 
ANNIE & THE CALDWELLS
BIALYSTOCKS
DJ SPINNA
忌野清志郎 ROCK'N'ROLL DREAMERS
ケロポンズ
Nariaki Obukuro(DJ)
鬼の右腕
PEARL & THE OYSTERS
柴田聡子 (BAND SET)
田島貴男(Original Love)
YOUR SONG IS GOOD
ZAZEN BOYS
(CARNIVAL STAR出演)
CARNIVAL STAR ALL STARS
DJ HADI
DJ MAHO (Viva Mexico Cabrones!)
DJ TXAKO
EKD y LOS CHANGARAS
ELL (Mobstyle)
桂九ノ一
MARTIN KINOO (Chelsea Movement)

▼チケット情報
2日通し券:2万5000円
1日券:1万5000円
18歳以下:2日 8000円/1日 5000円
 ※12歳以下無料(保護者同伴)
キャンプ利用:2日通し券のみ可
駐車券
・場内 1万5000円(完売)
・ふもとっぱら  1万5000円
・場外2日 5000円
・場外1日 3000円
詳細はオフィシャルサイト(https://asagirijam.jp/ticket/)参照
▼会場
朝霧アリーナ・ふもとっぱら(富士宮市)
電車利用:最寄駅 新富士駅・富士駅 → 会場直行バス(要予約)
車利用:
・東名「富士IC」/新東名「新富士IC」経由 → 国道139号で会場
・駐車券必須(場内/ふもとっぱら/場外、各所)
・ふもとっぱら・場外駐車場 ? 会場は 無料シャトルバス(約10分)
詳細はオフィシャルサイト(https://asagirijam.jp/access/)参照

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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