​【「朝霧JAM2025」2日目リポート 】田島貴男、GLASS BEAMS、柴田聡子、ANNIE&THE CALDWELLS、ZAZEN BOYS…朝霧に響く多様な音楽

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。10月18、19日に富士宮市で行われた野外音楽フェスティバル「朝霧JAM」の会場リポートの第2回をお届けする。(文・写真=論説委員・橋爪充)

19日朝5時半。テントからはい出ると空が明るい。日差しも差し込んできた。18日はずっと雲に覆われていた富士山の稜線が見える。ただし笠雲がかかっている。天気が崩れる予兆だ。朝食を済ませ、テントや寝袋をたたんで雨よけの下に置いた。

朝霧JAM2日目は毎年、ラジオ体操から始まる。午前9時半、「ラジオ体操のおじさん」を自称する秋鹿博実行委員長が上下白の運動着姿で大ステージ(レインボーステージ)に現れ、25年目を迎えた朝霧JAMの成り立ちを説明した。富士宮の行政や住民、特に酪農家の理解があって初めて、このフェスが実施できていることを再認識。

ラジオ体操で秋鹿実行委員長の脇を固めたケロポンズの2人が、そのまま舞台上に残り、演奏に突入。パラパラと雨が降り出した。本人たちは『8年ぶりの出演』と話していたが、記録によると2022年にも出演している。変わらないのはステージ前に子どもが詰めかけていたことだ。「ツイてる!ツイてる!」「ひっつきもっつき」といった「鉄板」の楽曲で親子が楽しそうに踊っているのを見たら、なんだかこみ上げるものがあった。

ボーカリスト甫木元空とキーボーディスト菊池剛からなるBIALYSTOCKSは、6人編成で演奏した。音源より肉感的で躍動感のある「頬杖」、ライブで聴くとメランコリックなメロディーが際立つ「Mirror」が白眉。甫木のやわらかいファルセットと、菊池のキーボードが鳴らす「エレピ」という言葉がぴったりな電子音の相性の良さを確認した。そっと寄り添ってくれるような親密なドラムプレイにも感銘を受けた。

後ろ髪を引かれる思いで演奏途中に、レインボーから徒歩10分ほどにある小ステージ(ムーンシャインステージ)へ。YOUR SONG IS GOODの7人は、そろいのアロハで登場した。トロンボーンとサックス
がじわじわと熱を高める「Cruise」で始め、裏拍のハモンドオルガンが夢見心地にいざなう「Palm Tree」につなげた。スネアドラムとティンパレスの連打に高揚感が募る。誰もが無心に踊り続けられる楽曲を次々繰り出した。フロアの「笑顔度」が一気に上がった。

レインボーに戻り、ANNIE&THE CALDWELLS。ミシシッピ州を拠点にする家族バンドで、1970年代に活動していたStaples Jr. Singersの紅一点、Annie Caldwellが中心。一部のメンバーは別の仕事と掛け持ちで音楽活動をしているようだ。

Annieの夫でギタリストのWillie Joe Caldwell,Sr.がドラムとベースを担当する二人の息子とステージに現れ、「行くか」と声をかけて演奏が始まった。Annieの娘Deborah Caldwell Mooreが結婚生活の悔恨を歌う「Wrong」で皮切り。2曲目からAnnieも登場し、ステージ中央の椅子にどっかりと座って哀感と豪気が混在する歌声を響かせた。

ゴスペルとファンクが絶妙に混じり合った音楽だ。ギターも含め「リズム隊が3人」と言っていいだろう。楽曲のほとんどは2コードを繰り返す構造だが、その上に乗るAnnieと娘3人のハーモニーのなんと彩り豊かなことか。「Can't Lose My Soul」では観客にもマイクを渡し、ゴスペル調のコール&レスポンスを繰り返した。

レインボーに朝霧初出演の柴田聡子が登場したのは午後2時過ぎ。ポツポツと雨を感じるが、本降りの気配はない。今回はギタリストの岡田拓郎を中心としたバンドセットでの演奏だった。いきなり「Your Favorite Things」から「Movie Light」。柴田は広がりのある音空間の中で、弾むように言葉を紡いだ。岡田のスライドギターが、曇天にふわり。歌詞の一部に「朝霧」を差し込んでいたように聞こえたのは気のせいか。アコースティックギターをつま弾きながらの「後悔」「結婚しました」「Reebok」といった、フェス向きの選曲が光った。

再びムーンシャインへ。田島貴男の「ひとりソウルショウ」は圧巻の一言だった。ヒューマンビートボックスでリズムを作り、ジャキジャキとギターを乗せる。歌い、ギターを弾き、トラックを次々に作り替える。サックスの音を重ね、その上でフリージャズのようなソロを吹く一幕もあり、大いに驚かされた。「めちゃくちゃ忙しい」というMCに、客席は大爆笑。ジャズ、ソウル、ファンク、ゴスペル…。ブラックミュージックの全てを知り尽くしたようなギターと歌唱に、ただただ魅了された。

レインボーに戻るとZAZEN BOYSの壮絶な演奏が始まっていた。4人のメンバーそれぞれの距離がとても近い。ステージを広く使って立ち位置を決める他のバンドとは明らかに違う。互いの表情がよく見える間隔と言えようか。

鋭利なギターカッティングとバチバチはじけるようなベース、タイトなドラムが「音塊」となってフロアに投げつけられる。「MATSURI STUDIOからやってまいりました。ZAZEN BOYSです」とのMCを繰り返す向井秀徳。なじみの言葉がそれ自体、演奏の一部のようだ。

「安眠棒」から「ポテトサラダ」「バラクーダ」まで網羅したセットリスト。ここに20年の時が流れているのだと思うと、目の前で鳴っている切れ味抜群のファンクサウンドにビッと背筋が伸びる。三方に礼をしてステージを後にする向井に、修行僧のたたずまいを見た。

午後5時20分。初めてのまとまった雨とともに、オリエンタルな衣装を身にまとったGLASS BEAMSの3人が静かにステージに登場した。ビーズがちりばめられたマスクで顔全体を覆っている。EPのタイトル曲「Mahal」でスタートした演奏は、クールで硬質なベースのフレーズの上で、インドから中近東の風景が浮かぶギターリフがたゆたう。

ワウワウとリバーブが同時にかかっているようなギターの音像は「浮かんでは消え」といった印象で、時折入る性別不明なコーラスと相まって、いい意味で浮世離れしている。浮遊感があるのに、ゴリッとした芯があるサウンドだ。

中盤から後半にかけては、ベーシストが左右の機材を操り、電子音を強調したサウンドスケープを披露した。朝霧JAMの関係者が彼らを「ダンスミュージック」として捉えていたが、言い得て妙だ。淡々とリズムを刻むドラムに体を委ねると、実に心地いい。ノイズの中から東洋的なフレーズが立ち上る瞬間は、神々しさすら感じられた。

2日間の掉尾を飾ったのは「忌野清志郎 ROCK'N'ROLL DREAMERS」。故・忌野清志郎のデビュー55周年を記念して集まったメンバーが、さまざまなボーカリストを迎えてRCサクセションの楽曲を奏でた。1980年4月の久保講堂公演を収めた「RHAPSODY」にも音が刻まれている梅津和時(アルトサックス)もバンドに名を連ねた。 

「よォーこそ」に始まり「ベイビー! 逃げるんだ。」「つ・き・あ・い・た・い」「ドカドカうるさいR&Rバンド」といった楽曲を、ギタリストの藤井一彦、暴動クラブの釘屋玄、ダイアモンド☆ユカイらが歌い上げた。田島貴男の「スローバラード」は哀感と力強さと優しさが一体となった、2025年朝霧JAMの中でも指折りの素晴らしい歌唱だった。

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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