
空一面が雲に覆われた18日。朝霧アリーナを通り抜けるひんやりとした風には、早くも冬の気配が漂う。テントを張り終えてステージ左右の飲食ブースに列を成す参加者の服装も、例年より厚着だ。ダウンジャケットや厚手のニットを着込む姿が目立つ。


大小2ステージの大きい方、「レインボー」はYOGEE NEW WAVESのフロントマン角舘健悟の「おはようございます」の第一声で幕開けした。1曲目「Fantasic Show」。5人編成のバンドは軽快なギターカッティングと、清涼感あふれるコーラスワークで心地よい「横ノリ」を生み出す。甘口のメロディーだが、演奏はシャープかつドライで情緒に流れすぎない。鋭いギターピッキングとスネアドラムのロールの連動が、フロアの熱量を高めた。


小さいステージの「ムーンシャイン」に足を運ぶと、ほどなく朝霧JAM初登場の4人組グソクムズが演奏を始めた。ミディアムテンポの「街に溶けて」からモータウンビートをほうふつとさせるスネア四つ打ちの「それは恋に違いない」へ。ギター、ボーカルのたなかえいぞをの歌唱は、激することがほとんどないが、旋律と言葉がはっきり際立つ。1970年代の「日本語ロック」の香りが漂うサウンドが、湿り気の多い富士山麓の空気によく似合っていた。

レインボーステージに戻り、オーストラリアからやってきたシンガー・ソングライターANGIE McMAHON。女性ギタリストを左に、長い金髪パーマで存在感抜群の男性ベーシストを右に従え、内省的な楽曲群を披露した。「Fireball Whiskey」「Beginner」といったスローテンポの曲を、魅力的な中~高音域の声で語りかけるように歌った。じわじわと熱を高めていくような曲構成の妙味とともに、曲間のキュートなMCが印象的だった。
午後4時半。レインボーステージでは早くも二つのキャンプファイアに灯がともる。火柱が立ち、暖を求める観客が周辺に集まる。少し冷え込んできた。

アコースティックギター1本で歌う竹原ピストルは、リハーサルで西田敏行の「もしもピアノが弾けたなら」を熱を込めて歌った。前日が命日の西田にささげたのだろうか。そのまま本編へ。ピンスポットの中で歌う竹原の口から白い息が絶え間なく吐き出される。それなのに、顔からあごから、したたり落ちる汗。このコントラストが、吸引力の強い竹原の歌声と呼応している気がした。

誠実なステージングに応えるように、「よー、そこの若いの」では客席から大きな合唱。竹原は「いどむ/いどむ/いどむ/いずれ勝ち取る」で締めたラップの後、「またお会いできるよう、精進します」の一声で去って行った。フェスでこうしたMCを発するアーティストも珍しいだろう。
上気した顔の観客の皆さんとともにムーンシャインに向かうと、フリージャズとヒップホップが混ざったような「んoon」の壮絶な演奏が耳に飛び込んできた。ステージエリアに足を踏み入れたら、ほどなく演奏終了。もっと聴いていたかった。

午後6時20分。ここからはセットチェンジに時間を費やすことなくDJタイムが午後10時まで続く。暗闇に包まれた会場はそれほど寒さが気にならない。体を動かしているからか、んoonの演奏が会場温度を高めたか。
大阪を拠点に活動するDJチーム、FULLHOUSEがその熱をさらに増幅させた。公式のアーティスト紹介には10人の名があったが、この日プレイしたのは8人だった。国籍も性別も雑多なメンバーが2人一組でミキサーやターンテーブルの前に立ち、ノンストップで音をつなげる。ほかの6人はその後方で、ビールや缶飲料を片手に気ままに体を揺らす。フロアとステージの境目がない、緩やかな空間だ。

ぶっといベースが体を貫くドラムンベースがいつの間にかジャージークラブに変化している。DJが変わると、ルーツレゲエの香りが漂い始める。オーセンティックスカの音も聞こえてくる。富士山麓で音楽の世界一周旅行をしているようだ。踊り続ける観客の中には、半袖Tシャツ姿も。最後は四つ打ちに乗せた荘厳な電子音のフレーズのループで締めた。

セットチェンジは5分とかからなかった。米ニューヨークを拠点とするDJ、プロデューサーのANTHONY NAPLESのプレイは、冒頭からコンガの音が鳴り響いた。2025年の最新アルバム「Scanners」で見せた硬質なサウンドとは明らかに異なる、オーガニックな手触り。四つ打ちの上に、少しだけ揺らぎを加えている。人のぬくもりを感じさせる音だ。
ひっきりなしに手を動かすNAPLES。ヘッドホンの着脱も頻繁に行う。だが、出てくる音はせわしなさより居心地の良さが感じられる。隣にいた観客が「何時間でも踊っていられる」と言うのを聞いた。

後ろ髪を引かれるようにしてレインボーへ。多くの参加者のお目当てであろうオーストラリアのHIATUS KAIYOTEはメンバー4人に、男女コーラス3人を加えた編成。ステージのバックパネルはゼブラカラーで、サーフボードに似たオブジェや立て看板状の竜のイラストがあちこちに置かれている。2021年のアルバム「Mood Valiant」収録の「And We Go Gentle」を皮切りに、2024年の最新作「Love Heart Cheat Code」の表題曲へ。ボーカリストのネイ・パームの音域が広いソウルフルな歌声が富士山麓に響き渡った。

途中、ギターのトラブルもあったようだが、濃密な演奏はまさに「唯一無二」を感じさせるもの。楽曲はジャズセッションを通過しているようにも感じるが、ドラム、6弦ベース、キーボードがそれぞれ別々のことをやっているようにも聞こえる。それなのに、楽曲それ自体はメロディーが際立っていて、ポップ・ミュージックそのものだ。決してシンガロングはできないが…。
6拍子が基調の「Make Friends」、6弦ベースがハードロック調のリフを奏でる「Cinnamon Temple」といった、変拍子が差し挟まれる楽曲も、体を揺らしながら聴いていると極めて自然に入ってくる。表の拍子が裏になり、裏拍が表拍になっても心地よさは変わらない。

それにしても複雑な楽曲群だ。楽器一つ一つの音を取り出して聴いても飽きない。4人のメンバーとコーラスの3人の渾然一体の演奏は、色とりどりの糸を手作業で織りなしているようだった。その結果、太い太い縄ができる。約1時間15分の演奏を終えたころには、会場を取り囲む巨大なしめ縄ができた。そんなイメージを抱え、テントに戻った。

































































