【「ケキャール!」初ライブ】 静岡市の人気漫画家と図画工作家のバンドが始動。1970年代末の米ニューヨークを想像させる、騒々しいサウンド

静岡新聞論説委員がお届けする静岡県のアートやカルチャーに関するコラム。今回は静岡市葵区のライブハウス「ジャパニーズモンスターズ」で7月6日に開かれたバンド「ケキャール!」の初ライブを題材に。

漫画誌「ガロ」「アックス」などで人気を得た漫画家・逆柱いみりさん(静岡市葵区)と、色とりどりの「超獣」像で知られる図画工作家・中安モモさんの新バンドが「ケキャール!」名で初ライブを行った。逆柱さんのかつてのバンド「漏電銀座」の盟友ニシガヤキウコさんがドラマーを務めた。

漏電銀座時代と同じようにナースルックに身を包み、かかとが15センチはあろうかという白いハイヒールを履き、ボ・ディドリーをほうふつとさせる四角いボディーのギターを抱えた逆柱さん。2002年ごろから活動を続ける不定形のノイズユニット「庭」のギタリストとしても活躍する中安さんは、「庭」Tシャツに着物をざっくり羽織り、威圧感を醸し出している。

漏電銀座時代と同じように、逆柱さんがぐしゃっとしたギターにのせて、異形の者たちがうごめく摩訶不思議な世界をしゃがれた声で描き出す。大きく異なるのは、中安さんの「ザクッ」「ガシャッ」という和音がはっきり認識できないギターストロークが入る点だ。

ピックを持たず、右左の手で弦を上下に引っ張りながらギターを奏でる中安さんを見ていたら、米ニューヨークのギタリスト、アート・リンゼイが頭に浮かんだ。5月に焼津市を訪れた世界的音楽家モリイクエさんがリンゼイらと組んでいた「DNA」をはじめ、コンピレーションアルバム「ノー・ニューヨーク」に参加した数々のバンドが繰り広げていたライブの雰囲気は、こんなだったのではないか。

全9曲。漏電銀座の「ノドの迷路」「フルーツアレルギー」「月蝕ドライブ」も演奏したが、ニュアンスが大きく異なっていた。逆柱さんのギターは単音よりコードに主眼が置かれていて、中安さんが投げつける剛速球の音塊をふわっと受け止める大きな布のようだった。ニシガヤさんのドラムが、二つのパートを包みあげて客席に放つ役割を果たしていた。

ケキャール!は今後、東京でもライブが決まっている。地方都市の静岡に、このような奇矯かつラフで強烈にアンダーグラウンドのにおいを放つバンドがいることを、全国に知らしめてほしい。

(は)

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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