
明治維新という「革命」の後、江戸幕府最後の将軍だった徳川慶喜(1837~1913年)は謹慎し、分家だった田安家の徳川家達(1863~1940年)が家督を継いだ。徳川宗家は駿河府中(のちの静岡)へ移り、多くの幕臣が徳川家に従って静岡に移住した。
今回展は徳川家宗主としての慶喜、家達の姿と、旧幕臣たちの静岡での生活に焦点を当てている。静岡藩の成立、廃藩置県なども踏まえ、明治維新を「静岡目線」でひもといているのが興味深い。
慶喜については、かつて静岡市美術館が回顧展を開いたことがあった。写真、書、絵画などマルチな文化人ぶりは今回展でも見て取れる。展示はいきなり大政奉還後の「慶喜追討令の木札」から始まるが、一時は「朝敵」扱いされた慶喜にとって、静岡は余生を送る上ではこれ以上ない安寧の地だったに違いない。個人的には彼の油彩画が好きだ。
家達は、慶喜に比べると多くの市民、県民にとって馴染みが薄い人物ではないだろうか。明治維新の翌年の1868年に5歳で宗家を継ぎ、家達と改名。駿河、遠江、三河を与えられ、翌年の版籍奉還で静岡藩知事となった。ところが1871年の廃藩置県で静岡藩がなくなったので、早くも東京へ戻っている。歴史本などで何となくこの経過は頭に入っていたが、静岡で公的な役職にあったのは5~8歳の3年ほどでしかないのだ。
ところが彼は、後に政治家になってからも静岡との関わりを持った。貴族院議長、日本赤十字社社長などを歴任し、ワシントン会議全権委員を務めたが、1888年には静岡を再訪し旧幕臣と交流している。その後も教育の支援など、徳川家と静岡の関わりは続いた。「三つ子の魂百まで」と言うが、家達にとっての静岡時代は甘美な思い出だったに違いない。
(は)
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■静岡市歴史博物館「明治維新と静岡 徳川慶喜、家達と旧幕臣たち」
住所:静岡市葵区追手町4-16
開館:午前9時~午後6時(月曜休館、祝日の場合は翌日休館)
観覧料(当日):一般1000円、静岡市居住の70歳以上・大学生・高校生700円、小中学生250円、 静岡市居住の小中学生・未就学児無料
会期:6月8日(日)まで