
会場に足を踏み入れると、地下鉄の音がする。時折聞こえるスティールパンの演奏。左右の壁には、駅構内で黒紙にチョークで絵を描くキース・ヘリングのポートレートが多数。彼の創作の原点とも言える「サブウェイ・ドローイング」は、1980年代ニューヨークのごちゃついた地下から生まれたことが、はっきり示される。


秀逸なのは音楽との関わりを示したコーナー。伝説的DJのラリー・レヴァンがプレイしたクラブ「パラダイス・ガラージ」で踊るヘリングのモノクロ写真がいい。自分の作品が飾られた、大半が黒人のフロアで体を揺らすヘリングは、どんな気持ちだっただろう。
ヘリングが手がけたレコードジャケットが並ぶエリアには、1987年9月25日・28日の「パラダイス・ガラージ」最後の夜の音源が流されている。ピアノと四つ打ちビートを刻むレヴァンのライブ音源は、太い線で人物の輪郭を描くヘリングの作品によく似合う。ヘリングの代名詞とも言える「アクションライン」はきっと、音楽のビートそのものなのだろう。

静岡県民としては、エイズの予防啓発に力を入れていた1989年の作品「Ignorance=Fear.Silence=Death」が気になる。目をふさいだ人、耳をふさいだ人、口をふさいだ人が大きく描かれている。徳川家康ゆかりの日光東照宮の「三猿の彫刻」を思わせる。(は)
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■静岡市美術館
住所:静岡市葵区紺屋町17-1 葵タワー3階
開館:午前10時~午後7時
休館日:月曜(1月13日開館)、12月29日(日)〜1月1日(水)、1月14日(火)
観覧料(当日):一般1500円、高校生・大学生・70歳以上1100円、中学生以下無料
会期:2025年1月19日(日)まで