
2019年から東京・銀座のギャラリー「SASAI FINE ARTS」で定期開催されているグループ展「INSECTS」の参加作家による昆虫アート展。14人の日本人アーティストの代表作に加え、下瀬美術館のコレクションからエミール・ガレや同時代の作家の昆虫をモチーフにした作品も展示した。
齋藤徳幸さんの「昆虫竹細工」は「瞬間を切り抜く」をモットーにしている。真竹、孟宗竹、晒竹を使って、昆虫の世界に起きる決定的な場面を作品にしていて、躍動感や生命力に満ちている。

「花カマキリと薄色眼玉蝶」は、カマキリが前足2本でチョウを捕らえたシーン。緊張感があふれていて、次の場面がいやが応でも頭をよぎる。それは決して楽しいものではない。だが、強烈な事後映像が脳内を駆け回ることで、この作品のあらがえない力を思い知る。私たちは、この場面のチョウなのだ。
七宝作家の春田幸彦さんは、昆虫を表現の素材に用いるに至った経緯について、こう書いている。
「いつしかクヌギに集まるタレント虫より陰で暮らす虫たちに自己を投影し、その独特な美しさを作品で表現するようになり、気づけば虫好きの側に立っていました」

「アンダーグラウンド宣言」とも言えるこのコメントの横にあるのが、有線七宝花瓶「雑虫繚乱」。藤棚を描いたと思いきや、上からつり下がっているのは、たくさんの足をまがまがしく生やしたムカデだ。体を少しだけよじらせ、気味の悪さを増幅している。
だが作品は、妖しくぬらぬらとした光を放っている。決して目を背けさせない、悪魔的とも言うべき力を感じる。春田さんはこの作品に「不快に思われる虫たちも全生命の歯車の一つとして役割を果たしているはず」と言葉を添えている。

少年時代を静岡県で過ごしたという小松孝英さんの平面作品もいい。細部まで細かく観察されたチョウの造形が美しい。特に「帰化混成蝶舞図」は、在来と外来のチョウの乱舞を金箔を貼ったキャンバスに描いていて、「あり得ない世界」の見え方を巧みに強化している。
昆虫は古くから日本の美術作品に描かれ、現在もアーティストの心を捉えて離さない。モチーフとしての魅力もあるだろうが、同じ地球に生きる者としてのシンパシーも創作の原動力になっているのではないか。いつの日か、ふじのくに地球環境史ミュージアム(静岡市駿河区)で「昆虫作家」の展示が見たい。
(は)
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■下瀬美術館「INSECTS×SIMOSE―昆虫アートの現在地」
住所:広島県大竹市晴海2-10-50
開館:午前9時半~午後5時
休館日:毎週月曜(月曜が祝休日の場合は開館)
観覧料(当日):一般2000円、高校・大学生1000円、中学生以下無料、大竹市民1500円
会期:9月28日(日)まで
