【病院薬剤師の不足問題】病院勤務を希望する薬剤師はなぜ減っているの?傾向と対策を解説します

静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「病院薬剤師の不足問題」。先生役は静岡新聞論説委員長橋本和之、聞き手はSBSアナウンサーの山﨑加奈です。(SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」 2023年11月21日放送)

(橋本)今日は薬剤師の人手不足問題について取り上げます。静岡県の調査で、県内の病院で働く薬剤師が100人以上不足していることが分かりました。静岡県は全国の薬学部の学生を対象にした合同就職説明会を来年2月に初開催する予定です。

(山﨑)このニュースについて詳しく教えてください。

(橋本)先日、静岡新聞の1面でも大きく扱いました。調査は今年7月に県内170病院を対象に実施されました。136病院から回答があり、そのうちの3分の1に当たる46病院で足りていない実態が浮き彫りになりました。不足している薬剤師の人数は計127人に上りました。

(山﨑)そんなにですか!

(橋本)記事では「採用が難しい」という病院関係者の声を拾ってます。人材確保のために独自に修学資金貸与制度を導入している病院もあるそうです。大学で薬学を勉強してる間は病院がお金を貸し付け、借りた学生は薬剤師の免許を取った後、一定期間その病院で働けば貸付金の返済が免除されるという制度です。

(山﨑)病院で働いている期間は給料は出るんですか。

(橋本)給料は別で出ます。学生時代に借りたお金は、例えば5年間など決められた期間その病院に勤務すれば、返済しなくていいですよということになります。

(山﨑)就職先もセットみたいな制度ということですね。

(橋本)自分の病院で働いてもらう人材を確保するために、学生の頃から繋がりを作っていくための仕組みです。

(山﨑)とてもいいシステムじゃないですか。

(橋本)そうですね。裏を返せば、そういう工夫をしないとなかなか人材が集まってくれないという実情があるということです。

民間のドラッグストアとの給与格差が要因?

(山﨑)なぜ人材の確保が難しいんでしょうか。

(橋本)複数の関係者の方に話を聞くと、民間薬局との給与水準の格差が大きな原因の1つになっていると指摘する声がありました。物価高騰の影響もあり、初任給が高い大手のドラッグストアなどを就職先に選ぶ学生が多いということだと思います。

(山﨑)病院の方がたくさん給料をもらえる印象がありますが。

(橋本)これは推測なんですが、病院は公的なところが多いということが関係しているのではないかと思います。公立病院の場合、給与改正するには自治体の条例を改正する必要があるので、手続きに時間がかかったり、簡単に給与を上げることができないという事情があります。また、病院では医師や看護師、理学療法士などさまざまな職種の方々が働いています。医師や看護師も足りないと言われる中で、薬剤師だけどんどん給料を上げるわけにはいきません。

(山﨑)そうですね。

(橋本)一方、ドラッグストアであれば市場原理のような形で「薬剤師が足りないから給料を上げよう」ということを経営判断で迅速に決めることができます。

(山﨑)だから病院ではなくドラックストアを就職先に選ぶ学生が多いということなんですね。病院で働くメリットは見つけづらいのでしょうか。

(橋本)もちろん、病院勤務のやりがいというのもあります。さまざまな情報を得ることができたり、医者や看護師をはじめいろんな職種の方と連携して患者さんを診ていく「チーム医療」の一員として、薬剤師としてのスキルアップを図っていくこともできます。自分の成長のために病院で働くというモチベーションを大切にしている方もいるので、一概に給与だけで就職先を決めてるわけではないと思います。

ただ、今病院では、当直の日数が多かったり、勤務時間が長かったり、休みがなかったりということで医師の負担が重いと言われています。医師の負担を軽減するために、業務の一部をその他の職種の方に移すという流れがあるようなんです。そうすると、これまで医師が担ってた業務が薬剤師に割り当てられることで、薬剤師の負担が重くなるということもあります。そこにやりがいを感じる方もいるでしょうが、遠慮したいという方もいると思います。そこに先ほど説明した給与のことなどが絡み、病院が薬剤師の確保に苦労してるという面があるのではないかと思います。

(山﨑)お医者さんのタスクを任せられることは良い面もあれば、それはちょっと違うんじゃないかと思う方もいらっしゃるということですね。

(橋本)そういうことも背景にあって病院よりもドラッグストアを選ぶ方がいるということだと思います。

(山﨑)難しいですね。だから病院の薬剤師不足に拍車がかかってしまうんですね。

静岡県が進める対策とは


(橋本)県は皆さんが安心して医療や保健のサービスを受けられるように保健医療計画というものを6年単位で策定しています。現行の計画は今年が最終年度に当たるので、本年度中に次の保健医療計画を策定します。次期保健医療計画の期間は2024年度から2029年度までの計画になりますが、その中で病院薬剤師不足の解消を目指すという方針を盛り込む方向で検討が進んでいます。

(山﨑)保健医療計画は薬剤師に限った話ではないんですよね。

(橋本)医療全般や保健に関わるようなことも盛り込まれますが、病院で薬剤師が不足しているという課題があるので、その課題を2029年度までに解決しようということも目標の1つになります。

そのための具体的な方策の一つとして来年2月に合同就職説明会を開くということです。今のところ、最大60ぐらいの病院の参加を見込んでいるそうです。全国の薬学部の学生に病院薬剤師の魅力ややりがいを発信するということです。

全国から学生が参加しやすいようにオンラインでやるようです。全体の説明や情報交換を行って静岡県の病院に関心を持ってもらい、「ぜひ私たちの病院に来てください」と働きかけます。

これまで合同就職説明会のようなことを行っていなかったので、静岡県にどんな病院があるかということは県外の学生にあまり知られていないのではないかと思います。県外の学生に知ってもらうところから始め、やりがいも感じてもらって、静岡の病院に就職してもらうということに繋げたいという考え方のようです。

(山﨑)薬剤師さんは手に職を持ってるわけじゃないですか。だから、全国どこでも働けるというメリットがありますよね。私の友人も結婚して旦那さんに付いて行き、その地で薬剤師として自立してるという子もいます。良い職業だと思うのですが。

(橋本)それでも病院の薬剤師確保はなかなか難しい問題ですね。短期的に見ると、情報発信を強化して静岡の病院に勤めてもらう人を増やすという手があると思いますが、長期的に見ると、医師や看護師も含めて不足するエッセンシャルワーカーの待遇面をどうやって向上させていくかということも考えなければなりません。

病院も限られた予算の中でやりくりしています。そういう中で待遇面を向上させるには社会全体で理解を深めながら問題を解消していく取り組みが必要になってくると思います。

(山﨑)なるほど。金銭的な話もあると思いますし、いろいろと難しい問題ですね。

(橋本)給与、労働条件、仕事のやりがい、負担軽減などをどのように支援していけば良いかということを考えていかなければならないでしょうね。

(山﨑)そうですね。今日の勉強はこれでおしまい!

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