【まるちゃん音頭から考える「作品に罪があるのか」問題 】制作者や出演者が不祥事を起こした時、作品の公開は自粛するべきなのか

静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「まるちゃん音頭から考える『作品に罪はあるのか』問題」。先生役は静岡新聞ニュースセンター専任部長の市川雄一です。
※SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」で放送したものを編集しています。

(市川)静岡市は19日から、清水区出身の漫画家さくらももこさんが作詞した市のPRソング「まるちゃんの静岡音頭」の普及に向けた踊りの講習会を市内で開催しています。
9月からは踊りの出来栄えを競うコンテストを開催予定で、市は参加を呼び掛けています。

まるちゃん音頭は、静岡市が2013年に合併10周年を迎えたことを記念して制作されました。僕は静岡市政の担当記者をしていたときに市役所に通っていたんですが、市役所のエレベーターの中で流れたりしていて、すごく耳なじみがある曲だったんです。実は、エレベーターでの使用が過去2度停止されたことがあったんですね。

(山田)いろいろまるちゃん音頭、大変だったんですよね。

(市川)2019年に、歌唱を担当していた方が麻薬取締法違反で逮捕され、市は、まるちゃん音頭の使用を自粛しました。当時静岡まつりで使用する計画もありましたが、それも取りやめになりました。今も芸能人、著名人が逮捕されたり不祥事を起こしたりすると、その出演作品や音楽作品の使用を自粛することがあると思うんですが、そういった話で市が取りやめたことがあるんです。

2021年に声優のTARAKOさんに歌の担当が変わり、新バージョンがお披露目されましたが、今度は編曲を担当していたミュージシャンが、過去にいじめを武勇伝のように雑誌に語っていたことが問題になりまして。当時このミュージシャンは東京五輪開会式の音楽担当をされていて、​それを​辞退する事態になったんですが、静岡市もこのまるちゃん音頭のエレベーターでの使用やホームページの公開を中止して、編曲者を変えて1年後にまた使用を再開しています。

不特定多数が見聞きするかどうか

(市川)今回は、「作品に罪はあるのかないのか」っていう話をしたいなと思っています。

例えば殺人犯を演じていた人が殺人を起こしたり、薬物使用で有罪となった人が劇中で薬物を使用したりしていた場合、その部分をカットしたり代役に差し替えたりするのはある程度やむを得ないのかなと僕は思っています。作品に別の意味を与えてしまうと思うんですよね。

一方で、考えなくてはいけないのが、作品の公開範囲についてです。不特定多数が意図せずに目や耳にしてしまう可能性があるテレビやラジオは、ある程度自粛の判断を厳しくしなきゃいけないのかなと思います。でも、映画や音楽配信は、多くの人が自らの意思でそれを聞こうと​したり​見ようとしたりしていて、逆に言えば「見ない、聞かない」っていう権利を駆使できるものでもあります。そういうジャンルのものに関しては、「作品に罪はない」っていう対応でいいのではないかと思うんですね。

(山田)その人の作品を見たくないならその人が見なければいいじゃないのっていう。

(市川)そういう意味で、市役所のエレベーターや市のホームページってどうなのかなって考えたときに、これは不特定多数の人が利用する公共空間ですよね。だから、市役所のエレベーターでその曲を流すのをやめたという判断はやむを得なかったのかなと思っています。

有罪判決を受けた人が出ている作品への助成は…?


これとはまた別の話になりますが。19日に、裁判で有罪判決を受けた人が出演する作品に税金を使うことの是非について考えさせられるニュースがあったんですよね。

2019年に公開された「宮本から君へ」という映画に対し、文化庁の独立行政法人の日本芸術文化振興会(芸文振)が1000万円を助成することが内定していたんです。この団体は、国の芸術水準の向上や国際発信力の強化を目的に、年間10作ほどを選び、映画会社に助成しています。​​この1000万円の原資は税金なんです。

この映画、まるちゃん音頭の歌を担当された方が出演していたんです。「公益性の観点から適当ではない」「国が薬物を容認しているかのような誤ったメッセージを流す恐れがある」といった理由から、2019年に、芸文振が1000万の交付を取り消す決定をしました。

映画制作会社は「映画表現にとって配役を決めることは重要なことなので、それを駄目だというのは表現の自由の侵害に当たる」と主張し、東京地裁に提訴して法廷闘争になった。
2021年の東京地裁は、交付取り消しは違法と判断し、映画制作会社が勝訴したんです。「映画制作会社は犯罪行為とは無関係で、再撮影を強いられたら表現の自主性を損ないかねない」「映画制作会社が罪を犯した人を出演させたことに落ち度はない」「活動の創作性や芸術性の高さに着目しての助成であり、国が薬物乱用に寛容だという誤ったメッセージを観客が受け取ることはない」などと裁判所が認定し、1000万円出すべきと判断しました。

これを受けて芸文振側が控訴したところ、東京高裁は逆の判決をし、今度は映画制作会社側が敗訴。1000万円取り消しは適法だと東京高裁は判断したんです。

(山田)どうしてなんですか。

(市川)東京高裁側の判断の理由は、「国の事業である助成金は公益に合致していることが必要であって、交付の判断は、振興会理事長の合理的な裁量に委ねられる」というものでした。社会通念に照らし、薬物乱用防止の観点から交付を取り消したのは、妥当性を欠いているとは言えないという判断をしたんですね。

東京地裁と東京高裁で全く違う判断をしたことを受け、映画制作側は最高裁に上告したんですよ。最高裁に上告すると、大体の裁判の事例って棄却になるんですが、最高裁が審理をやることを決めたと、19日に発表になったんですよ。最高裁の判断は多くの場合で東京高裁の決定を翻すので、「1000万円を交付すべきだった」と判断するのではないかと見られてるんです。

(山田)今後のいわゆる「作品に罪はない」問題に、かなりこの判決が関わってきますね。

(市川)出演者の不祥事を理由に、助成金を交付しないことの適否を最高裁が判断するのは初めてのことです。10月に判断を行うかと思いますが、映画関係者や表現の自由を守ろうと活動している方など、いろんな方が注目していますね。

静岡市がまるちゃん音頭の歌唱者や編曲者を変えたり、エレベーターで流すのを一時的に止めたりしたことに​ついて​、先ほど僕は「妥当だったと思う」と言いましたが、この最高裁の判断は、市の判断がどうだったのかを顧みるきっかけになる可能性もあるんです。作品には罪がないことをはっきりと最高裁が判断する可能性もある。もちろん税金を使う使わないの是非は、ケースバイケースではあるんですけどね。

(山田)これは、一つの大きな流れになりそうですね。今日の勉強はこれでおしまい!

SBSラジオで月〜木曜日、13:00〜16:00で生放送中。「静岡生まれ・静岡育ち・静岡在住」生粋の静岡人・山田門努があなたに“新しい午後の夜明け=ゴゴボラケ”をお届けします。“今知っておくべき静岡トピックス”を学ぶコーナー「3時のドリル」は毎回午後3時から。番組公式X(旧Twitter)もチェック!

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