
森山未來が化け猫に!? 漫画が原作の日仏合作の話題作「化け猫あんずちゃん」

原作漫画からパワーアップした大長編『化け猫あんずちゃん』
『化け猫あんずちゃん』は、いましろたかしさんの漫画が原作のアニメです。いましろさんは『ハード・コア』や『デメキング』といった、社会的にそんなに恵まれていないポジションの男性たちの自尊心を描くのが得意な作家さんです。あるいは「他人から見たら幸せそうには見えないかもしれない人の幸せを描く作家さん」といってもいいかもしれません。その点でコミックボンボンに連載された『あんずちゃん』は、本質は近いところがあっても、肌触りはいましろさんのそれまでの作品とは全然違います。あんずちゃんはお寺で拾われた猫で、30年経っても死ななくて、ある日化け猫になっていましたというところから話がスタートします。このあんずちゃん、マッサージでお金を稼いだりしながら、南伊豆にあるという池照町でのんびり暮らしています。
この作品で監督を務めたのが、実写の山下敦弘監督と、アニメーターで知られる久野遥子さんです。山下監督は過去に、『ハード・コア』を映画化したことがあり、最近では『カラオケ行こ!』(2024年)が大ヒットしている方です。久野監督は、アニメーション作家として知られ、『花とアリス殺人事件』(2015年)などに参加したほか、映画『クレヨンしんちゃん』などにも関わっていて、漫画の著作(『甘木唯子のツノと愛』)もあります。
漫画は、あんずちゃんが街の人とからむ日常的なお話が多いのですが、映画ではもう1人の主人公、かりんちゃんが登場します。かりんちゃんはあんずちゃんが住むお寺の住職の孫なのですが、なかなか気が強くて面白い子です。お父さんがかりんちゃんを連れてお寺にやってきて、自分が戻ってくるまで娘を預かってほしいと寺に置いて行ってしまうのです。
ところが、お母さんの命日が近づいてもお父さんは帰ってこない。最終的にかりんちゃんは、意を決してお父さんがいる東京へ、あんずちゃんと行くことにします。また、最後は死んだお母さんに会いに、あんずちゃんの知り合いの貧乏神の力を借りて地獄へ行くという大騒動が描かれた大長編です。
この作品は『クレヨンしんちゃん』や『ドラえもん』などを手がけるシンエイ動画の制作ですが、美術はフランスのMiyu Productionsが描いています。久野監督へたまたまMiyuがプロジェクトを一緒にやりませんかと持ち掛けたところで、逆に、今私達がすすめている『化け猫あんずちゃん』にそちらが乗りませんかとオファーをしたようです。Miyuからも、ボナールという後期印象派の画風が合うなどの提案があり、非常に美しい自然を描いたあのビジュアルになりました。
実写とアニメーションの良さを併せ持つ「ロトスコープ」
この映画のすごいところは「ロトスコープ」という手法を使っていることです。これは20世紀初頭に開発された古い技術で、実写の映像を線画に起こしなおしてアニメーションを作る方法です。面白い技術なのですが、かつてはうまいアニメーターが集められないから実写をなぞるのだ、というふうに考えられて、芸術性の低い手法だと考えられていました。ところが、2000年代に入ってちょっと変わってきたんです。例えば、実写をコンピュータ上でデジタルペインティングで描きかえていくことで、おもしろい効果を生み出した長編映画(リチャード・リンクレイター監督『ウェイキング・ライフ』)が制作されたことも、改めてロトスコープの効果に注目を集めるきっかけになりました。
日本で大きかったのはテレビアニメ『悪の華』(2013年)ですね。このときに、ロトスコープのよいところを生かすのには、単に実写のキャラクターをなぞるだけじゃ駄目だということを意識して制作されました。ではどうしたかというと、実写を撮ったら24コマの全フレームをプリントアウトして、その中から、原画として描き起こすのにふさわしい絵を演出家が選んで、そのフレームをなぞることによって、実写の生っぽい動きととアニメーションとしてのメリハリが両立できるということがわかってきたわけです。今回の『化け猫あんずちゃん』もそれに近い方法です。
あんずちゃんは森山未來さんが演じて、声もそのまま使われています。あんずちゃんと守山さんの体型は全然違いますが、表情や体の動かし方、背筋が伸びている感じなどがすごく反映されています。あんずちゃんのキャラクター設定にいろいろな表情のバリエーションを集めたものがありますが、そこには森山さんの実写の表情も添えられています。「実写でこんな感じのとき、あんずちゃんはこう描きます」という形で設定が用意されているんです。あんずちゃんの動きも森山さんの特徴のあるポイントを押さえることで、アニメーションとしても魅力的かつ実写っぽい、生っぽい癖のある動きになっています。
ロトスコープにはやはり役者さんの動きの癖などが出てくるんですよね。ほかにも、あんずちゃんのお父さんの坂道での歩き方とか、手の振りが大きいところとかもそうです。役者さんがやっているお芝居の面白さが反映されてるのがまた興味深いところで、美術とともにこの動きの妙も楽しんでいただけるといいんじゃないかと思います。
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