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不老不死で歳をとらず少女のような母と人間の息子の物語『さよならの朝に約束の花を飾ろう』

SBSラジオ「TOROアニメーション総研」のイチオシコーナー、人気アニメ評論家の藤津さんが語る『藤津亮太のアニメラボ』。今日は、放送日の前日が母の日だったことにちなみ、母がキーワードになっているアニメ映画『さよならの朝に約束の花を飾ろう』という作品を紹介いただきました。※以下語り、藤津亮太さん

歳をとらない母と、人間の息子

『さよならの朝に約束の花を飾ろう』は、2018年公開の映画で、脚本家の岡田麿里さんが初めて監督をした作品です。制作会社はテレビアニメ『花咲くいろは』や『SIROBAKO』などを手掛けたP.A.WORKS。

この作品には「イオルフ」という不老長寿の種族が出てくるのですが、彼らの国はメザーテという国に侵略されてしまいます。国も仲間も失ってしまったイオルフの少女マキアが1人で歩いていると、盗賊に襲われた一家の中で、人間の赤ちゃんだけひとり生き残っているのを見つけます。

マキアは、その男の子にエリアルという名前をつけて育てることになるのですが、イオルフは不老長寿なので、マキアは少女のような姿からずっと変わらないんですよ。

エリアルが成長していく一方で、マキアは歳を取らない。周囲にバレないように引っ越しながら暮らしていく中で、だんだん2人の関係が変化していく、というのが映画のひとつの大きな縦軸となっていきます。

一方、メザーテに襲われたときに、マキアの親友レイリアはメザーテに囚われています。王族に不老長寿のイオルフの血を入れて、特殊な能力を持った子どもが生まれたら、自分たちの国の求心力が高まるんじゃないかと考えたわけです。

レイリアは王子と結婚させられて娘を産むんですが、娘にはイオルフの性質が遺伝していなかった……。レイリアは役立たずだという話になり、親子は引き離され、レイリアは幽閉されてしまいます。

こうやってバラバラの運命を歩むことになった親友同士。しかも2人とも図らずも母になるわけです。自分が望んでいない形で母親になって、それぞれの子どもへの向き合い方を描きながら、この2人の再会に向けて運命が動き始めていきます。

舞台設定はファンタジーなんですけど、ドラマチックで地に足がついたお話です。国をめぐる戦争も出てくるし、ドラゴンも出てきますが、実は家族の物語。そんなふうに重層的に話が展開していくところがこの作品の魅力です。

僕は、この映画は「時間」がテーマだと思っています。まずはイオルフという、歳を取らず500年や1000年といった単位で生きる種族がいます。それから栄えたり滅んだりする国家の寿命、もっと短い人間の寿命、さらに短い犬の寿命も出てくる。

こうやっていろんな長さの時間を生きている様々な存在が描かれ、それらがほんの一瞬重なった瞬間が「現在」なんですね。そして「親子という時間」も、またそんなふうに、親の時間と子どもの時間が重なった、ある意味一時の出来事で。だからこの作品は、母への感謝や思いというよりは、子どもから見た親、親から見た子ども、その共有している時間のずれ方が表された作品になっています。

子どもにとっては、あるときまで親の時間と自分の時間は完全に重なってるわけじゃないですか。だけどそれは母親から見たら自分の長い人生のある時期にだけ子どもがいるわけですよね。その時間のずれが、「母親」をテーマにして浮かび上がってくるのが面白いなと思います。地味といえば地味な映画かもしれません。大バトルやダンスなど、キャッチーな派手なシーンがあるわけではないんですが、丁寧に作られた、面白い映画です。

秋には岡田監督の最新作『アリスとテレスのまぼろし工場』の公開も控えていますので、これを機にぜひ見ていただければなと思ってご紹介しました。(2023年5月15日放送)

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