「実写で60分かかる物語がアニメだと30分!?」三谷幸喜氏の私見が話題。アニメが実写よりも短くなる理由とは?

SBSラジオ「TOROアニメーション総研」のイチオシコーナー、人気アニメ評論家の藤津さんが語る『藤津亮太のアニメラボ』。今回は「アニメと実写の違い」についてお話を伺いました。※以下語り、藤津亮太さん

なぜアニメは実写よりも短くなる?その秘密は?

脚本家の三谷幸喜さんがTBS系の番組で、「アニメと実写ドラマの台本を比べたら、実写で60分かかる物語が、アニメだと30分でできる」と話していたことがニュースになっていました。三谷さんはその理由を「アニメのキャラクターは生身の俳優みたいに余計な芝居をしないから話がどんどん進む」と考察し、番組としては、それが視聴者を引き付ける理由の一つになっているのでは、という流れになったとのこと。

「実写で1時間分の脚本が、アニメだと30分相当になる」という話は、アニメ関係者に取材してもよく出てくる話題です。これにはもちろん、三谷さんの指摘のとおり、役者さんの演技に違いがあるという部分はあります。

実写の場合、カメラがまわり始めたら、俳優さんが演じ始めます。NGによって途中で止める場合を除けば、一応決められた内容については一気に撮影されます。そうするとアドリブが好きな俳優さんや、決められた段取りをちょっと崩して生っぽくしたい俳優さんなどが演じれば、自動的に当初の想定時間よりも長くなるわけです。

アニメの演技の場合は、逆です。絵コンテで先に各カットの演技の内容と尺(時間)を決めて、基本的にはその尺の中で作画をしていきます。もちろんアクションシーンなどで予定より尺が伸びることもありますが、それ以外のところではそこまで大きく変わることはありません。

演技の組み立て以外にもアニメの方が、時間が短縮される要素があります。まずアニメのキャラは基本的に人間よりも動きが速いんです。座ったり立ったりする速度も生身の人間よりも速いし、細かい動作も少ない。アニメ作品を実写化したときに違和感があるのは、実際の人間には重さがあり、重さゆえに、動きがアニメキャラよりゆっくりになるというところもあります、一方でアニメは、作品上の狙いがない限りは、現実に近い「重さ」を追求した演技を描くことは少ないです(ポイントポイントで「重さ」を伝えることは大事なのですが、それがすべてではない)。

また、アニメでは無駄な動きを描くとその分作画の手間がかかるため、動きのプロセスをいちいち描かないことが多いです。もちろん演出方針にもよりますが、例えば「教室のドアを開ける」「教室の中を歩いてくる」「机の近くに立ち止まる」という一連の動きがあるとき、特に意味がなければ「教室の中を歩いてくる」という部分を省略することはままあります。なんなら「教室のドアを開ける」もなしで、「教室の全体像」の次に「机の近くにキャラクターがやってくる」とカットを繋ぐ場合もあります。このように、移動の“間”がすぱっとないことで、時間が圧縮されるということもあります。

こうした理由から、アニメは自然とテンポが速くなります。もちろん、あえてゆっくり進めることを狙った作品もありますが、それは特殊な例で普通のアニメでは自動的にスピード感が出てしまいます。しかも、役者さんやアニメーターさんのアドリブで尺が伸びることも少ないので、ギュッと入ってしまいます。

アニメと実写の違いは、メディアの違いに起因する部分が大きいです。その違いとは、実車は「現実を切り取るメディア」で、アニメは「フレーム・尺の中に必要な要素を配置していくメディア」ということで、それが台本の量にも反映されているのです。

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