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“聖地巡礼”は一体いつから行われていた?実写とは違う、アニメの舞台を訪れる魅力とは


SBSラジオ「TOROアニメーション総研」のイチオシコーナー、人気アニメ評論家の藤津さんが語る『藤津亮太のアニメラボ』。今回は“聖地巡礼の歴史”に ついてお話しいただきました。※以下語り、藤津亮太さん

1980年代から行なわれていたロケ地探訪

“聖地巡礼”という言葉は元々がファンの間の俗語なので、いくつか節目はあったものの、ここがスタートというのは決めにくいんです。

例えば1980年代には、大林宣彦監督の実写映画で舞台になった尾道をファンが ロケ地探訪するなんてことも行われ話題になっていました。

アニメだと1991年のOVA(ビデオのみでリリースされる作品)『究極超人あ~る』はかなり早い時期の例だと思います。これはJR東海の飯田線が舞台になっており、“佐久間町レールパーク”(2009年閉館)という鉄道車両企業博物館の開館式典の式次第に、ファンが登壇して、このアニメの挿入歌を歌うというのが入っていました。

作中にレールパークそのものは出てきていないものの、ファンの中では、飯田線やその沿線は重要な場所だと注目を浴びていましたね。

他にも『天地無用!』シリーズは岡山県、『美少女戦士セーラームーン』は東京都の麻布十番が舞台ではないかという話があり、当時から現地に足を運ぶ人はいました。

風景のリアリティが増し、アニメの舞台がはっきりした2000年代

はっきり“聖地巡礼”という言葉が出てきたのは、2002年の『おねがい☆ティー チャー』あたりでしょうか。この作品は長野県木崎湖が大きな舞台となっており、ここは放送終了後もファンが定期的に集まる象徴的な場所になっていました。

ちょうどその頃からデジカメも普及し、アニメ制作でもロケハンが行なわれたりと、風景のリアリティ度も増していきます。2005年に出た『聖地巡礼 アニ メ・マンガ12ヶ所めぐり』という本もネットの中で俗語として使われていた“聖地巡礼”という言葉を普及させる後押しになりました。

次の節目としては2007年ですね。『らき☆すた』に埼玉県の鷲宮神社をモデル にした「鷹宮神社」が主要な舞台として登場します。これで来訪者がふえたことを踏まえ、地元商工会の方たちが製作委員会と交渉してグッズも作るようになります。積極的にアニメと観光がクロスした例ですね。

その流れは2012年の『ガールズ&パンツァー』の茨城県大洗に繋がって、2016 年の新語・流行語大賞には“聖地巡礼”が入りました。2016年には『君の名は 。』に出てきた坂道や階段もすごく話題になりましたね。

ファンの間で発生した言葉がポピュラーに

同じ年にKADOKAWAが中心になってアニメツーリズム協会ができました。アニメの舞台になったところを毎年88ヶ所設定して、日本の観光を後押ししています。

2023年は静岡県関係だと『シン・エヴァンゲリオン劇場版』に登場する「第3村」のモデルになった天竜二俣、『ゆるキャン△』で浜松、『ラブライブ!サ ンシャイン!!』で沼津も入っていました。

インバウンドも含めてそういう形で盛り上げようと始まったのは2016年以降のことです。

ですので“聖地巡礼”の紀元1年をどこに置くかといったら、2002年の『おね がい☆ティーチャー』か2007年の『らき☆すた』か、その間の本が出たあたりか……。

ファン主導で始まったものが受け入れられて、ビジネスなどに展開していったので、“聖地巡礼”の最初がどこかは結構難しいんですよね。

僕の知る限りでは“オタク用語”として使われていた言葉が、だんだんポピュラ ーになり、定着していったのだと思います。

アニメは架空のものですから、現地に行くと実際の風景とアニメの風景で二重写しになります。実写映画だとその現実を確認することになりますが、アニメはその上にアニメの世界が乗っかる面白さがありますよね 。AR(拡張現実)的おもしろさというか。

アニメの作中では現実の風景より魅力的に、例えば光の具合や植物の生え方なんかも絵としてかっこよく描かれているので、アニメの風景越しに現実を見る楽しさ、あるいは現実の風景の中にアニメの景色を見つける楽しさが加わって、より現地を訪れるロマンも増すといえると思います。(2023年2月6日放送)

SBSラジオTOROアニメーション総研(毎週月曜日19:00~20:30 生放送)全国のアニメ好きが集まるラジオの社交場。ニッポンのアニメ文化・経済をキュレーションするラジオ番組。番組公式X(旧Twitter) もぜひチェックを!/パーソナリティ青木隆太、澁谷海音、藤津亮太

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