牧野:まずは「NPO法人高齢者安全運転支援研究会」では、どんな活動を行っているのか教えてください。
岩越:高齢者の認知機能と運転の関係に非常に興味があり、その調査をしようと立ち上げたNPOです。高齢者の認知機能が低下すると運転にどのような影響が出るのか毎月実地調査を行い、改善策の検討提言をしています。
改正された高齢者の免許更新制度
牧野:まずは、今年5月の道路交通法の改正に伴い75歳以上の方の免許更新制度が変わりましたが、どんな点が変わったのでしょうか?岩越:過去3年間に信号無視や速度超過など指定された11の項目に違反をした75歳以上のドライバーへ「運転技能検査」が義務づけられたことが一番大きく変わった点です。つまり、免許の更新に行って試験に落ちることがあるということです。
牧野:実際に落ちて更新できない人もいらっしゃるのですね。
岩越:警察庁の統計によると、2022年9月末の時点で、試験を受けた方の合格率が全国平均で88.9%で1割強の人が試験に落ちています。ただ、更新期間内は何度でも試験を受けることができるため、延べ人数になっています。
それと、認知機能の検査も以前と比べ簡便化されました。結果を「認知機能低下のおそれなし」「認知機能低下のおそれあり」「認知症のおそれあり」の3分類で分けていたものが、「認知症のおそれなし」「認知症のおそれあり」の2分類に単純化されました。
牧野:ちなみに高齢者ドライバーは、どのような種類の事故が多いのですか?
岩越:統計的なデータでいうと、「運転操作不適」という項目が一番多いです。よくいわれているペダルの踏み間違いがこの項目に含まれます。
「免許自主返納」のタイミングと上手な促しかた
牧野:最近では「免許の自主返納」という選択もありますが、どういったタイミングで行えばいいのでしょうか?岩越:この判断がとても難しいです。高齢者の運転は、安全への見切りが早かったり、運転中の視野が狭くなります。自分では見えているつもりでも、周りからすると見ていないということも多々あり、事故を起こすまでは「自分の運転は安全だ」「自分の運転は上手い」と思って運転しているドライバーの思い込みの部分に大きな問題があると思っています。
牧野:高齢者安全運転支援研究会のホームページに30のチェックリストがあります。「今までできていたカーステレオやカーナビの操作ができなくなった」「スーパーなどの駐車場で自分の車を停めた位置が分からなくなることがある」など、5項目以上当てはまると注意が必要と客観的に判断できるので、利用してみるのもいいですね。
岩越:ただ、本人がひとりでやると判断基準がどうしても甘くなってしまうので、普段同乗する方がいれば別々にやっていただき、つき合わせることをオススメします。これを機に、家族でコミュニケーションの時間を積極的に取っていただき、「自主返納」について円滑な話し合いができたら理想的ですね。
牧野:おそらく、周りが「運転は危険だからやめたほうがいいよ」と言っても「そんなことないよ!」と反論する会話が多いんじゃないんですか?
岩越:高齢者にとって、運転免許があって運転することがステータスになっている部分もありますし、自由な感じがあるんです。なので、運転免許がなくなって、家にこもらないといけないことが苦痛に感じると思います。
買い物へ車で行くなどの生活の糧もそうですが、自由さを失うことが高齢者にとって、とてもリスクになると思います。ある研究結果では、車の運転をしなくなったことによって認知機能が落ちるというケースも発表されており、非常に難しい問題です。
牧野:ご家族から高齢者ドライバーに免許の返納を促す際のアドバイスはありますか?
岩越:やはり、普段のコミュニケーションですね。親の運転がおかしくなってきたなと思ったときに、普段の会話で運転の話題を振ってみてください。例えば、ドライブレコーダー等がついていれば、その映像を一緒に見て「この運転はどうだろうか」とコミュニケーションを取って、本人を「自主返納」する気にさせていくしかないなと思います。
ただし、本人は運転が上手いと思っているし安全だと思っているので、「運転は危ないよ」というワードは禁句です。本人のプライドを傷つけないような伝え方ができたらいいですね。
便利な時代だからこその課題
牧野:今後の「高齢者ドライバー」の課題としてどんなことが挙げられますか?岩越:新しいシステムや安全のデバイスが開発され、電気自動車などに搭載されていますが、そのシステムを覚えて活用していくことができるのか。実際に運転する人間のことを考えた形で、高齢者に向けたシステムやデバイスを考えていただけるとありがたいです。